6-3 不穏の光
魔法訓練実習。
魔法訓練場━トレーニングジムの地下にて行われる。
1年生は120人在籍しているが、AグループとBグループでそれぞれ60人で分割して、別々の時間帯で行われる。
1年生の中で魔法を実際に発動させたことのある人物はあまりいない。実際に水魔法を使役しているゆかりくらいだろうか。
和真も勿論魔法を使用したことがない。ましてや、自分がどんな魔法を発動させることができるのかも未知数である。
Aグループに属している和真達は、更衣室にて体操着に着替える。魔法訓練実習は体育科目扱いであるため、体操着で臨むのは形式的なルールとして存在している。
「なあ和真、お前、身体凄くないか」
祐一は和真の肉体を羨ましそうに見ていた。
「そ、そうかな?傷だらけでボロボロだから見るに堪えないと思うけど」
「男はな、みんなムッキムキボディーに憧れるもんなんだよ」
祐一は断言した。
「そ、そうなの?」
「男の俺から見ても頼もしいと思うな。強いて言うなら、もっと身長が欲しいところだな。あと、顔をもっとイカつくして━」
「祐一は僕に何を求めてるの……」
和真は祐一の無茶苦茶な要求に笑いが溢れた。そして無意識に自分の身体の傷跡に触れた。今はもう触れても痛くはない。
着替えが終わると、いつものトレーニングジムの地下にある魔法訓練場に向かう。天井が高い設計なのか、階段の段数が多い。
階段を下り、ドアを開くと、体育館より広い空間。天井はドーム型で、中央にはミラーボール状の何かがぶら下がっている。
━ジムの地下にこんな場所があったんだ。
「へぇ、なんか知らんけどすげぇな、天井の形が特徴的だな」
祐一が見上げながらそう溢した。
「そぉおおおおおなんです!」
次々と体操着の生徒が集まる中、電車に轢かれる寸前のニワトリの断末魔のような声が響いた。
「この天井は放物線となっていてね、魔力波を上に跳ね返すように設計されているの。そうしないと困るからねー」
唐突な貝塚兼孝の解説に、和真と祐一だけでなく、他の生徒も目を丸くしていた。
「貝塚さん、なんで?」
なんでここにいるんですか?という意味である。
「なんでって、TAだもん」
和真の疑問に、兼孝は手短に答えた。
「貝塚君、あんまり1年生を困らせないように」
もう1人のTAの男子生徒が兼孝に釘を指した。
「はぁ〜い!すーいませええぇぇん!」
和真と祐一は互いに顔を見合わせ、苦笑いしていた。
生徒が集まった所で、指導教員が訓練場に入ってきた。
「よーし、集まれー」
その恰幅の良い体型の人物は━
━溝呂木さんだ。
「点呼をとる、名前呼ばれたら返事するように」
溝呂木は生徒番号の若い順━あいうえお順にひとりひとりの名前を呼び、出欠を確認している。和真は、呼ばれるまで暇だったので、辺りを見回した。
ゆかり、今朝会話した西山、小渕紗子とその従者の女子、山内がいた。竜二はBグループだろうか。
そして、ユリィ。
例によって彼女は、長袖長ズボンのジャージ姿であった。まるで頑なに肌を出さないようにしているようだ。それより和真の目を引いたのは━
銀色の長い髪をひとまとめにしている髪型。和真は思わず見惚れてしまっていた。視線に気付いたのか、ユリィが和真の方を見た後、少し微笑んでいた。和真はどぎまぎしていた━
「東条和真………東条和真!」
名前を呼ばれるタイミングが来た。
「は、はいぃ!」
返事をする準備をしていなかったため、声が裏返ってしまった。周囲からクスクスと笑い声。溝呂木の横に立っていた兼孝に至っては腹を抱えて声を我慢して笑っていた。
「以上で点呼は完了。これより魔法の訓練を始める。
訓練と言っても、現時点で自分がどのような現象を引き起こせるか、確認のための授業だ。
安全には最大限配慮はされているが、命に関わることも十分にある。ゆめゆめ気を抜かないように。 あと、上手く出来なかったからと言って悲観する必要もない。これはテストではないので、必要以上に身構える必要もない」
溝呂木はランダムに5人の名前を呼び、5人を一列かつ等間隔に並べた。各々魔法を発動させることに手こずりながらも小さな風を起こしたり、火を起こしたりなど。
なかなか発動できない生徒には、TAの先輩が寄り添う。兼孝がいつになく真剣に優しく教えている姿に、和真は目を見開いた。
━貝塚さん、失礼だけど、なんか、意外。
一定時間が経過すると、次の5人。ゆかり、と紗子が立っていた。
ゆかりが右腕を伸ばし、魔法を発動させる。
「《スプレッド》!」
ゆかりの声が響くとともに、ゆかりの指差す地点に透明な水が集まった。水流の渦が高速回転し、水柱を形成した。触れると切り裂かれそうな勢いだ。
「おおー」という生徒達の声と拍手。
「すごい」
物理的にありえない液体の動きを垣間見た和真は、思わず口に出していた。
一方で紗子の方は何やら踏ん張っているが、一向に何も起こらない。TAが寄り添おうとするも、プライドが許さないのか「お下がりなさい!」と、助け舟を振り払った。「このわたくしができないなんてありえませんわ!」などと捨て台詞を吐いて次の5人と交代した。
その5人の中には和真も含まれている。
━えっと、自身の魔力を魔界に一旦送って接続しつつ、脳内でタイピングするように━
「これなら!」
和真の合図に呼応するように、右の手のひらには、バチバチと放電するような青い光を帯びた球体が浮遊していた。
「……これは、電気?」
和真はそう言った。
「いや違うね、これは、プラズマだね」
兼孝は訂正した。
「ほう、なかなか難しいものを発動させたな、東条和真」
溝呂木は物珍しいものを見るように和真の方を向いた。
「え?そうなんですか?」
「原子レベルの現象だね。なかなか高度なことをやってるね。扱いにはくれぐれも気をつけるんだよ?」
「わかりました」
プラズマ。使い方を間違えれば大事故に繋がりかねない。
次の5人。ユリィがいた。
ユリィは集中している。和真には、何故かユリィの呼吸のリズムが聞こえる気がした。
しかし、一向に何かが起きる気配はなかった。
他の4人も苦戦していたが、何かしらの小さな現象を起こしていた。
見かねた兼孝が片膝をつきながらユリィに目線を合わせて寄り添う。
「大丈夫だよ、怖がらなくていい。キミの魔力波は少し特殊なだけだから、呼吸を整えて━」
兼孝がアドバイスをしていると、異変が起きた。
空間が、揺れ始めた。
「じ、地震?」
遅れてユリィから発したのは、謎の光。虹色の光。光はオーロラのように訓練場一面に広がった。
「あ、これ本気でヤバいやつ!ユリィさんストップ!タンマ!」
兼孝の必死の声。しかし、ユリィには届いていない。
次の瞬間、ユリィの目の前で小さな爆発が起きた。
「ユリィ!」
ユリィの小さな身体は爆風で吹き飛び、転倒した。




