6-1 トラウマ
僕は6歳の頃から国立武士学院━通称国武院にいた。
それ以前のことはまったく記憶になかった。すっぽり抜け落ちていた。両親のことも、全く覚えていない。
そんな僕を引き取ってくれたのは初老の男性━「お師匠」だった。
お師匠は僕の面倒を見てくれた。時に厳しく、時に優しく接してくれた。侍としての振る舞いや生き方を教えてくれた。僕はそんなお師匠を誰よりも尊敬している。
僕はお師匠から剣術を習う時間が楽しみだった。お師匠は「侍の剣は人を傷つけるためではなく、人を守るためにあるべし」とよく言っていた。僕はお師匠の言いつけを守って生きていくと誓った。
国武院は武士道の教育機関という性質上、事実上の男子校だった。僕達の代は国武院の一期生という扱いだった。
10歳くらいの頃、僕は同級生にいじめられていた。殴られたり、蹴られたり、物を壊されたり、孤児である事を非難されたり。僕は先生や同級生から《落ちこぼれ》の烙印を押された。今となっては笑い話だけど、無人島に1ヶ月放置された時は本気で死を覚悟した。
5人に囲まれ、竹刀で殴られ続けたこともあった。お師匠からの言いつけを守れない可哀想な連中と思い、ただひたすら、痛みに耐えていた。
僕は彼らを見返すために、必死に剣術に打ち込み、寝る間も惜しんで身体を鍛えた。
ある日僕は野良の柴犬に出会った。《ポチ》と名付けた犬は酷く傷ついて弱っていた。僕は一目散にお師匠の元へ連れて行った。お師匠と一緒に住むことになったポチは、僕にとても懐いてくれた。僕はポチにペット以上の絆を感じ取っていた。
しかし、ポチは亡くなった。同級生5人に嬲り殺された。僕は理性が消えるほど怒り狂い、彼らにもポチと同じ目に合わせてやろうと暴れた。その時の記憶はなかった。頭の中が真っ白だった。僕は1人が生死を彷徨うほど暴れていたらしい。僕は罪悪感に苛まれた。いじめていた奴を半殺しにしたことではなく、お師匠の言いつけを破ったことに。
僕は問題児として扱われ、隔離された。《落ちこぼれの問題児》というどうしようもない烙印。先生からも白い目で見られた。
ある時、お師匠はどこかに行ってしまった。僕のことを見捨てたのだ、と確信した。何の置き手紙もなく、突然。
そしてある時、魔法学院の理事長を名乗る人物と出会った。




