5-15 不信感
テロリストは無論、逮捕された。
テロリストを無力化した一行は、駆けつけた警察官によって「任意で」同行を求められた。最寄りの警察署での事情聴取に2時間以上もかかった。解放された時点ではすでに正午を超えていた。
和真は事情聴取の間、精神的に揺さぶられていた。
鮮血。悲鳴。倒れている人━
初めての惨劇に、和真は吐き気を隠すことができなかった。
テロ事件の当事者になってしまったことで、自分はもう後戻りできないのでは、と不安に駆られた。この場にユリィがいないことが幸いだった。
入り口の自動ドアが開き、一行は警察署を後にした。警察署から離れた段階で、和真はようやく落ち着きを取り戻すことができた。
矢場内の提案で、学院に帰る前に外で昼御飯を食べることになった。
「あー、ホントに長いんだからポリスメンは」
兼孝が身体を伸ばしながら不満をこぼした。
「まったく、ちょっと人よりボロボロの格好してるだけでさ、根掘り葉掘り聞いてきてさ、人を疑うことしかできない集団なんだね、あーあー、やんなっちゃう」
兼孝は心底うんざりした表情をしていた。
「それが彼らの仕事だからよ、警官にだって人を信じる心はあるわよ?」
此人が兼孝を嗜めた。
「でもでもぉ、流石に『あんたホントに人間?』って聞かれた時は流石にオコでしたよぉ?」
━流石に人外扱いされたら怒るんだ……。
和真は心の中で笑っていた。表情は引き攣ったままだが。
「日頃の行いよ」
「そりゃそうですね…やっぱ」
━自覚はあるんだ……。
「それにしても、IPDの連中、まだ生き残りがいたのね……」
此人の声のトーンが下がった。
IPD、彼らテロリストが叫んでいたが、組織名だろうか。
「こないだ自衛隊の旧基地に潜伏していた連中を倒したのに……」
自衛隊の旧基地━和真は思い出した。
今朝のニュース━
自衛隊の基地だった場所にテロリストが潜伏していて、政府軍と警察隊が鎮圧したとの報道。
「…それ、もしかして今朝のニュースでやってた事件…ですか?」
和真は恐る恐る訊ねた。
「ニュースを見ているとは感心ね、和真君の想像通りだと思うわ」
テレビを付けてもニュースしか見ていないの間違いである。
当事者らしい此人は政府関係者か何かだろうか。
「言い忘れてたけどアタシ、コズミックの一員よ」
コズミック━暁星学院の特務部隊。
それが和真の認識であり、それ以上のことはよく知らない。
━あれ?コズミックが公的機関じゃないんだったら、ニュースと違うんじゃ?
ニュースには「政府軍と警察隊で鎮圧」とあった。そこにコズミックを示すワードが出てこないのは、おかしいのではないか。
和真は、テレビの報道に拭いきれない違和感を抱いた。それともコズミックとは、一般的には知られていない秘密組織のようなものだろうか。
「あ、そーいえば矢場内さん、《かめむし》先輩も国武院に行くんですよね?今どこで何してるんですかぁ?」
兼孝は思い出した様に此人に訊ねた。
━…え?今なんて?
「あー《かめむし》君ね、今は井伊議員のもとで秘書研修中よ、3日後には戻って来るみたいだけど」
━か、かめむし…?
人の名前あるいはニックネームにしてはあんまりなのではないか、和真は思った。
完全に蚊帳の外に置かれた和真は、暇そうに周囲を見回した。《ソイゼリヤ》の看板を見つけた。今度食べに行こうか。
━かめむしってどんな人なんだ……。
ただ、名前のインパクトが強すぎて、その場で聞く気にはなれなかった。
今日だけでなく、この連休は色々な出来事があり過ぎた。一旦この連休を振り返る時間が必要だ。日記として残しておいた方が良さそうだ。




