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氷銀の魔女  作者:
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5-13 狂気

 朝6時ごろ、和真の部屋。


 和真は、どうにか「処理」を済まし、スッキリした表情でおにぎりを頬張った。


 とりあえずテレビをつける。今の時間だとニュース番組しか放送していないだろう。交通事故、火災、殺人事件など、不安になるニュースばかり。中でも、自衛隊の基地だった場所にテロリストが潜伏していて、政府軍と警察隊が鎮圧したとの報道。


━テロリストなんて、本当にいるんだ……。


 和真にとって、「テロリスト」とか「鎮圧」という単語は、遠い別の世界のものだと思っていた。それは和真だけでなく、国民にとっても、当事者でない限りは実感は湧かないだろう。


「ちょっとしょっぱかった…」


 どうやら塩を入れすぎたようだ。


 ふたつのおにぎりを完食した和真は、少し食べ足りない、と思い、冷蔵庫から納豆1パックを取り出し、炊飯器に残ったご飯と一緒に腹にかき込んだ。


 それでもまだ時刻は6時35分。


 スマホのチャットアプリから、国武院時代の友人の薗頭(そのがしら)からのメッセージに返信する。数分後、メッセージが返ってきた。一般高校に進学した彼だが、休みの日のこの時間に起床しているあたり、国武院時代の規則正しい生活が染み付いているようだ。


 そういえば、薗頭は彼女ができたとか言っていたような、と和真は思い出した。今の悩みを思い切って打ち明けるのも手か。


 慎重に、正確に、誤解を招かないように文面をメモアプリで書きながら、遠回りしつつ男女交際の話に自然に誘導する。熟考を重ねたメモに記述された文章を、チャットアプリにコピーアンドペースト。薗頭からは、


『東条はいつも大袈裟に考えすぎ。もっと素直になればいいのに』


 と、それができれば苦労しない、と言いたくなるようなアドバイスが返ってきた。


「はぁ」


 心臓から何かが込み上げてくるような感覚。その感覚から逃れるために、和真はため息をついた。


 ニュースを見ながらボケーっとしていると、気づけば7時40分。特にすることもないので、テレビを消し、読書に没頭しようと奮闘した。


 彼これ1時間、内容がなかなか頭に入らず、5ページも読み進める事が出来なかった。和真はそんな自分に苛立ちを覚えていた。


━僕がユリィを好きだからなんだと言うんだ。


 集中できない原因ははっきりわかっていた。意味もなく、スマホのユリィとのチャット画面を開く。


「くそっ」


 ユリィの顔が見たい。ユリィに会いたい。


 しかし、何の用事もないのに呼び出すのはいかがなものかと思い、和真はその一歩を踏み出す事ができない。


 散歩でもすれば、棒に当たるのではと思い、今日も外出する。ほんのわずかな希望を抱きながら寮を出た。


 昨日と同様、天候は晴れ。和真は太陽に感謝した。


 休日で人気の少ない敷地内を適当にぶらぶらしていると、1人の男性が横から近づいてきた。


「東条和真君は君ね?」


「……はい、そうですが」


 和真は豆鉄砲を喰らったような顔をした。


 天然パーマの細身で長身の男性は律儀に一礼した。


「アタシは矢場内此人(やばないこのひと)。和真君、ちょっとお話させてほしいな。歩きながらで」


「は、はあ…」


 少し珍妙な名前の男性?は歩き始め、和真もとりあえずついていく。此人が長身であるためか、歩幅が大きく、和真は速歩き気味になっている。


「国武院出身の、侍ですって?」


 しばらく歩いた後、此人は確認するように訊ねた。速歩き気味の和真に気付いたのか、此人は歩幅を小さくした。


「そ、そうですね」


「来週、国武院に交流会に行くわよね?アタシは教員()()()()()同行するの」


「……え?そうなんですか?」


 国武院遠征。ユリィとの触れ合いで完全に飛んでいた。和真は一気に現実に引き戻された。まさか此人がこの件の関係者だとは。


 グラウンドの横を過ぎようとすると、広い砂場の中心に、誰かがいた。白衣を着ているように見える。和真が立ち止まると、此人も釣られて立ち止まった。


「おお大地よ!魔法の力で原子の形をぉぉっ!」


 その男━貝塚兼孝を円で囲うようにグラウンドの無数の砂粒が浮遊し始めた。


「《サイクロトロン》!」


 無数の砂粒は、渦を形成し、兼孝の周囲をとんでもない速さで公転し始めた。


「……あれ、何してんですか?」


 和真は遠目で恐る恐る此人に訊ねた。


「いつものことよ、(かね)ちゃん、よく身体を張って実験してるから。危ないけどなんだかんだ大丈夫よ」


 もはや見慣れている光景なのか、此人は特に驚いていない。


━なんか、土星みたい……


 兼孝の周囲を音速の様なスピードで円運動し続ける砂粒に異変が起き始めた。


 砂粒が、()()した。


 兼孝の周囲には、黄色の炎が広がった。グラウンドの一部が火の海と化した。


「あ、ちょ、待っ」


 兼孝は事象を把握したのか、焦り始めた。


「え?これ、大惨事なのでは…っ!?」


 遠目で見ていた和真は、どうにかしようと慌てふためいた。


「水、水!」


「水は駄目よ!消火器を!」


 此人が和真に指示を出したが、渦中の兼孝はどこからか赤い消火器を取り出し、白い粉を噴射し始めた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 身体を回転させながら噴射し、鎮火を図る兼孝の声は何故か楽しげであった。


 しばらくすると、完全に鎮火したが、依然として兼孝の周囲は白い粉末と塵の煙に包まれていた。周辺の砂は、部分的に白く、または黒く変色していた。


「ごほっ、ごほっ……う……見えないっ!」


 粉塵をまともに吸い込んだのか、兼孝は咳き込んだ。


 一体これはなんだったのか。兼孝の本気の狂気を垣間見た和真は、ただただ茫然としていた。


「え……どういうこと?……こわい」

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意味もなく、スマホのユリィとチャット画面を開く。

意味もなく、スマホのユリィとのチャット画面を開く。

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