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氷銀の魔女  作者:
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5-12 悲しき決意

 遊園地デートから帰ってきた後、寮部屋に帰ってきたユリィは、ポーチを床に置き、ベッドに腰をかけた。


 思い出す。和真の横にいる時の温もり、夢のような世界、オレンジジュースの甘み、クレープの満足感、そして━


 観覧車内での、えもいわれぬ空気。お互いの鼓動の音がはっきりと響いていた。遊園地の愉快な音楽も、人々の歓声も、ゴンドラの金属音すら、無音に感じられた。内部には、ほんのり甘酸っぱい匂いが漂っている気がしたのだ。


━また、行きたい。


 スマートフォンを右手に、和真とのチャット画面を開き、メッセージの文面を考えていた。


 ありがとう、と入力し、消す。


 楽しかった、と入力し、また消す。


 結局、チャットを送ることができなかった。


 ユリィは、和真からもらった熊のぬいぐるみの黒い目をじっと見つめた。


━かずまと、いっしょにいたい、でも……


 ユリィは必死に自分の気持ちを押し殺そうとしていた。


━いっしょには、いられない。


━わたしの宿命と使命に、付き合わせるわけにはいかない。


━これは、わたしだけが背負えばいい……。


 和真と一緒にいたい。和真を傷つけたくない。

 

━どうして


━どうして、好きになってしまったの。


 ディレンマに陥ったユリィの瞳は揺らぎ続けた。


 和真と一緒にいれば熱が冷めると思っていた。しかし、その熱は、より一層強くなっていた。


 




 ある晴れの日の休日の校庭。


 雲ひとつない青空が無限に広がるような天気の中、木製のベンチに和真とユリィが座っていた。


━かずま……


 ユリィは和真を見つめていた。彼もまた、彼女を見つめていた━


 和真と一緒にいるのに、妙な胸騒ぎ。


 心臓の鼓動が急激に激しくなる。体温が下がるような感覚。


 ユリィが気づいた時には、あたり一面に広がるのは、見慣れた校庭の景色ではなく、無機質な白の空間。見上げると、爽やかな青空はなく、白い天井にいくつかの蛍光灯。


 次の瞬間、和真であるはずの存在が、全く別の姿に変わった。醜悪で、忌々しい「あの男」の姿に━


「……な、なんでっ!?」


 「あの男」の姿をした存在は、しわだらけの手をユリィに向けてくる。


「…ち、近づかないで!」


 ユリィは恐怖で体が震えている。


 最後の手段。実力行使。


 ユリィは恐怖のあまり、身体が動いた。兵器としての本能か、単純な防衛本能かは分からない。


 思わず拳を引き抜いていた、「あの男」の心臓部を目掛けて。よろめいたところに頭部を渾身のキック。


 「あの男」は倒れ、頭部からは赤色が広がっていた。


 浅い呼吸をどうにか整えようとしたユリィ、だが、次の瞬間、信じられない━信じたくない光景が。


「……!」


 「あの男」の姿で倒れていたはずの存在が、いつの間にか━


 ()()の姿に。


「……なんで……ちがう!わたしは……!」


 頭部から流血し、倒れている和真の姿を見てしまったユリィは、自責の念と罪悪感に支配された。


 その時、ユリィの意識は急激に遠ざかった。





 ユリィが次に目を開くと、そこはいつもの寮部屋の天井だった。


 寝落ちしていたようだ。デートで着ていた服のまま、掛け布団の上に雑魚寝をしていた。白のブラウスやスカートだけでなく、掛け布団も湿っていた。


 まさに悪夢から解放されたユリィだが、浅い呼吸は整っていなかった。


 苦しい。頭がぐるぐる回っている。視界が歪んでいる。


 どうにかこうにか落ち着きを取り戻したユリィは、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、透明なグラスコップに注いだ。ユリィがコップを手に取ると、中の水は揺らいでいた。


 コップの水を一気に飲み干した後は、深呼吸。そして決意の瞳。


━かずまを、絶対に傷つけない。傷つけさせない。


━そのためなら、わたしは、壊れてもいい。

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