5-9 2人の秘密
22時頃、トレーニングジム。
和真とユリィは剣の鍛錬をしていた。木刀がぶつかり合うガンっという音が響き続ける中で、気の抜けた大声がドアの向こうから聞こえてきた。
「こーんばーんわああああー、誰かいますかあああぁ!」
2人はその声で鍛錬を中断し、声のする方へ身体を向けた。
木製のドアの向こうからやってきたのは貝塚兼孝。
「ってあれぇ、和真クンとユリィさんじゃないかぁ」
「こんばんは、お疲れ様〜」
兼孝の後ろからは紅葉もやってきた。
「こ、こんばんは、貝塚さん、秋野さん」
和真はとりあえず2人の先輩に頭を下げて挨拶した。一方でユリィは和真の背後に隠れ、和真のジャージの端を掴んだ。
「……だれ?」
ユリィは和真にしか聞こえない掠れ声で訪ねた。
「……ちょっと変な人、かな」
和真なりにオブラートに包んだ表現を探した結果、兼孝への評価は至極シンプルになってしまった。
「キミ達、知り合いだったんだねぇ、しかもなんか距離近いし」
兼孝がニコニコしながら2人を見る。兼孝の指摘に対し、ユリィは慌てて和真から距離をとった。
「そういえばユリィさんとは初対面だったねえ、ボクは3年の貝塚だよ〜ん」
「私は秋野紅葉、紅葉って気軽に呼んでね。それにしても━」
兼孝と紅葉はユリィの目を見て名乗った。ユリィの目には少し警戒が見られる。和真は目で「大丈夫
」とコンタクトを送ったが、伝わっているかどうかは分からない。
「ユリィさんって写真で見るより100倍綺麗でかわいい〜!」
紅葉はユリィに近づき、抱きしめた。ユリィの顔は、紅葉の胸に埋もれた。ユリィは手をバタバタさせ、「たすけ…」と呻いた。
「これこれ、距離感バグってるよ」
兼孝は暴走し始めた紅葉をどうにかユリィから引き剥がした。和真は苦い表情しか出来なかった。
「あっ、ごめんね、つい…」
紅葉はハッとし、すぐに謝った。ユリィは紅葉の豊かな「それ」を、恨めしそうに睨んでいた。
「それはそうと、キミ達、こんな時間に2人っきりでトレーニングなんてまるで━」
兼孝はわざとらしく咳払いした後、メガネの位置を人差し指で直しつつ言った。
「付き合ってるみたいだね」
「っ!」
和真にとっては盲点だった。客観的に見るとそうなのかもしれない。ユリィは視線を落としていた。
「で、キミ達、付き合ってるのぎゃっ」
紅葉は兼孝の頭をチョップした。
「あんたは踏み込みすぎよ━ごめんね、答えにくい質問しちゃって」
兼孝は自身の後頭部をさすった。
━付き合ってる、それはつまり、僕とユリィが恋人同士ってこと?
「まあ、自覚はないだろうけど、時間の問題かもね〜、それじゃあ、バイバ〜イ!」
「またね、東条君、ユリィさん」
そう言って、兼孝と紅葉はジムから出て行った。
━もう少し、2人だけの秘密にしておきたかったな……。
*
鍛錬から部屋に戻った和真は、兼孝の言葉に引っかかっていた。
「付き合ってる」みたい。
和真としてはそんなつもりはない。ただ一緒に鍛錬する仲間だと思い込んでいる。
スマホの着信音、ユリィからのメッセージだ。
『明日南門に10時で』
明日の待ち合わせだ。和真はそれに対して「OK」と返信した。
ユリィからの誘いに、和真はウキウキで心臓の高鳴りが止まらなかった。なかなか寝つけなかった。
━ユリィは「そういうの」じゃない、ただの友達で……。
和真は自分にそう言い聞かせながら、睡眠の世界に意識を委ねたのだった。




