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氷銀の魔女  作者:
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5-8 積み重ね

 ユリィが和真の卵焼き弁当を食べた後、2人は一度寮へ戻ることにした。ベンチから立ち上がる際、ユリィは和真のジャケットの端を掴み、「もう少し」と言われ、一緒にいる時間が延長した。


 和真はユリィの歩く速度に自然に合わせていた。寮に近づくにつれて、歩幅が小さくなっている気がする。この後、トレーニングジムで会うはずだが、和真にとっても、後ろ髪を引かれる思いだった。


 男子寮の前で、和真は一度立ち止まった。


「ユリィ、ちょっとそこで待ってて」


 和真は、玄関でスニーカーを雑に脱ぎ散らし、部屋に置いていた紙袋を持つ。以前、祐一達とゲームセンターに行った時にクレーンゲームで獲得した熊のぬいぐるみだ。


 寮を出て、待機しているユリィに駆け寄る。


「お待たせ━これ、渡そうと思って」


 和真はユリィに紙袋を差し出した。ユリィは首を傾げつつ受け取り、恐る恐る中身を確認。熊のぬいぐるみを両手で持った━赤ん坊を抱くように。


「……これ、わたしに?」


「うん、その……いつもありがとうって、感謝の気持ち」


 ユリィは熊のつぶらな目をじっと見つめた。彼女の瞳に光が差し込んだ。口元が緩み、頬を紅潮させながら、ぬいぐるみをぎゅっと大事に抱えた。


「……ありがとう、かずま」


 和真はその瞬間、高鳴る心臓を鷲掴みにされるような感覚に陥った。ユリィの柔らかい笑みを浮かべた顔を、和真は直視することができなかった。





 夜の21時30分━魔法訓練場。


 トレーニングジムの地下に存在する広場である。


 アンチスペルフィールドの下で、魔法エネルギーに制限がかかるが、魔法による現象の発生自体は可能な空間である。天井は放物線型で、反射先が床にならないような設計である。パラボナアンテナの原理に近く、天井の中心、放物線の焦点にミラーボール状の吸収装置がある。

 

 魔法の実技授業や試験、及び新しい魔法を試したり練習したい時にこの空間は使われている。万が一、生徒同士に当たってもダメージはほぼ無効化されるという、安全性を限りなく高めた設計となっている。


 このだだっ広い場所に、紅葉と兼孝がいた。兼孝は、腕を組み、胡座をかいて床に置かれたノートパソコンの液晶をじっと見つめており、一方で紅葉は直立で魔法を発動させようとしていた━


「《リザレクション》!」


 その瞬間、わずかな癒しの力が広がったがすぐにかき消された。


「…ふう、貝塚、どんな感じ?」


 紅葉は、軽く呼吸を整えてから離れた場所にいる兼孝に声を掛けた。声のボリュームの調整を失敗したのか、広場に若干紅葉の声が響いた。


 兼孝はノートパソコンを片手に持ちながら紅葉に近寄り、画面を見せた。


「…発動自体はするけど、やっぱりASFに打ち消されるね」


「まあ、そうだよね」


 紅葉は、知ってた、という顔をした。


「ただ、紅葉さんのASFやAKFとは打ち消され方は異なるように見えるよ。同じ魔法士でも使用する魔法が違えば魔力波の性質は変わるのはわかるね?」


 兼孝の説明に、紅葉は段階的に理解し、頷いた。


「重ね合わせの条件が魔力波長の一致だとしても、常にある程度ばらつくから、装置のASFに一致させるのは非常に困難だね、波長がばらつくのは人間も装置も同じだね」


「……頭ではわかってたけど、ここまで難しいなんて」


 紅葉はガックリと項垂れた。ノーベル賞もびっくりなテーマを与えられたことが、紅葉にとっては憂鬱だった。


「分かりきっていることを敢えて検証することも実験のうちだよ?現時点ではできないことを確認する事も研究だよ?大丈夫、『出来なかった』という事実も立派な成果だから」


 兼孝は珍しくまともな事を(のたま)い、紅葉はモヤモヤしながらも小さく頷いた。


「それじゃ、帰ろ〜、お疲れ様でござああああありいいぃぃぃぃぃ!」


 よく分からない事を叫びながら両手を上げて出口に向かって歩いていく兼孝。紅葉も彼についていく。


「まあボクはこのまま直帰するね〜、ん?」


 階段を上がりきった後に兼孝は何かに気づいた。トレーニングジム施設のドアの隙間から照明の灯りが漏れ出ていた。誰かいるのだろうか。


「こーんばーんわああああー、誰かいますかあああぁ!」


 仮にも夜中である。兼孝はそんな事はお構いなしに大声を出し、木製のドアを開いた。


 ジムの中では、男子生徒と銀髪の女子生徒が剣を持っていた。剣の鍛錬の途中だっただろうか。


 2人は━東条和真とユリィ•フロストは兼孝の方をじっと見ていた。

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