表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷銀の魔女  作者:
44/63

5-7 魔法に奪われしもの達

 某日午前、コズミック━輸送艇シーバード内。


 部隊長であるパブロ溝呂木を含めた5人は、ある場所へ向かっている━過激派反魔法主義のテロリスト組織、《IPD》━Independence of People from the Devil━の拠点だ。長野県の諏訪湖から程近い森林中に存在する、今は放棄され使われていない自衛隊駐屯基地を根城にしていると見られている。


 基地の広さは約10ヘクタールと、軍用基地にしてはかなりコンパクトである。自衛隊の輸送中継点として建造されたが、時代の経過に伴い、その役割を終え、閉鎖された。


 警視庁との合同作戦で、コズミックの少数精鋭部隊で突撃し、警察隊が包囲する段取りとなっている。


「高井、後何分くらいで着く?」


 シーバードの操縦席で操縦桿を握っている男に向かい、溝呂木は訊ねた。


「あと5分ほどです」


 パイロットである高井景三(たかいけいさん)は答えた。


「早いな、帰り道の燃料は残しておけよ━━アントニー!」


「はっ!」


 黒人で長身の男、アントニー・ビンは短く返事した。


「制圧用のAKFメイカーの準備は!?」


「問題ありません!」


 アントニーは長方形の電化製品のようなものを背負って答えた。AKF━アンチキネティックフィールドを、人間が直接唱えることなく、スイッチひとつで展開することができる装置である。


「アントニー重そうだね、もっと小さくできないのかな」


 淡いマゼンタの髪を持つ女性━雪風羽弥里は見たままの感想を述べた。


「羽弥里、携帯電話だって昔はあれくらい大きかったわ、人類の技術が進歩した結果、今のスマートフォンというものがあるのよ」


 天然パーマの男、矢場内此人は言った。


「たった10年じゃ魔法の技術が現代の人間に追いつかないんだね」


 と羽弥里は口にした。


「戯れはそこまでだ、本機はこのままヤツらの拠点に突撃する。燃料はどうか?」


 溝呂木は隊員の雑談を止めるように告げる。一時的に和らいでいた空気が一気に張り詰めた。溝呂木の目は捕食者のそれであった。


「全速力で帰る分は確実に残ります!このままダイナミックに着陸しちゃいますか?」


 操縦桿の景三は恐ろしい提案をした。


「帰りに支障が出ない程度にな」


「冗談です」


「あまり機体を無茶させるな、メカニックの身にもなってやれ━━アントニー、射程圏内に入ったら《SEB》を敵基地に向かって撃て」


「了解しました!」


 アントニーは電子レンジサイズのAKFメイカーを背中に担ぎながら、シーバードの扉を開いた。上空の風が強く吹く中、狙撃用のSEB━魔法エネルギーバズーカを右肩に乗せ、射程圏内に入る合図をじっと待っている。


「射程圏、入りました!」


「撃てぃ!」


 景三の合図とともに、溝呂木が号令を出した瞬間、バズーカが火を吹き、地上の基地に向かってエネルギー弾が落ちていった。着弾の衝撃で建物のコンクリートを破壊し、エネルギー弾の破裂で周辺で爆発が発生した。


「これよりAKFを展開する!着陸し次第、作戦通りに行動しろ!」


 溝呂木は指示を出した。羽弥里と此人はすでに戦闘態勢に移行している。


「テロリストどもに容赦するな━《アンチキネティック》!」


 直後、空間が少し歪んだような感覚。


 シーバードを敵の銃撃から守り、安全に着陸した。


 シーバードを狙っていたテロリストは、着陸の突風に押しやられた。


「《ホーリーランス》!」


 さらに溝呂木は立て続けに魔法を放つ。


「うわあ!」


「うぐっ!」


 数多の聖なる光の槍がテロリスト達の身体を貫き、次々と力無く倒れた。





「雪風、行きます!」


 羽弥里は薙刀を持ち、着陸したシーバードから飛び降り、意気揚々と走る。


「矢場内、出るわよ!」


 BIT兵器として使用するタブレット端末を変形させた銃を右手に、此人は羽弥里の後を追いかける。


「羽弥里!AKFの範囲内で戦うのよ!」


「わかってる!」


 此人の忠告に羽弥里は返事した。と言っても、AKFの範囲の境目はかなりわかりにくいが。


「クソッ、ついにコズミックまで…!」


「怯むな!我らの魂、見せつけるのだ!」


 IPDのテロリスト数人はマシンガンを一斉に放つ。


 弾丸の数発は羽弥里に命中するが、AKFの効果で無効化される━これではおもちゃの銃と変わらない。


 羽弥里は集団に接近し、薙刀でテロリストを次々と斬りつけ、無力化していく。コンバットナイフで向かってくる者もいたが、無情にも羽弥里の前では赤子のように吹き飛ばされた。


「……ごめんね」


 増援が現れたが、此人のレーザーに的確に貫かれ、倒れていく。


「我らの無念を思い知れ!」


「真由美の仇!」


「悪魔どもめ!我らこそが正義なのだ!」


 此人のレーザー攻撃を掻い潜った者は、尽く羽弥里に倒された。


 羽弥里はテロリストの断末魔を聞き、少し心を痛めた。魔法による事故で家族を奪われた者だろうか。


「……いかなるイデオロギーだろうと掲げるのは自由よ、だけど━」


 此人が神妙な面持ちで口を開いた。


「それを振りかざして、暴力に走る行為は、決して許されない」


 此人のこの言葉には、女性的な優しさは皆無だった。


 周辺のコンクリートの地面は流血に染まっていた。


 その時、けたたましいサイレンの音が聞こえてきた。警察本隊が遅れてやってきた。


『こちらビン、AKFメイカーの設置完了しました』


 無線からはアントニーの任務完了の報告。コズミックの作戦は成功に終わった。


「羽弥里、一旦シーバードに戻るわよ」


「うん、あとは警察に任せましょ」


 周辺の制圧が完了し、此人は羽弥里と共に撤収した。


 基地に残されていたのは、コンクリートの破壊による煙たさと、血の匂いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ