1-3 入学直後独特の空気
北条ゆかりは、トレーニングジムで和真との談笑を終え、学院の敷地内を徘徊していた。
入学直後の空気は非常に独特で、期待と不安が入り混じっている。
流石のゆかりでも、入学1週間で、全く面識の無い上級生に近づく勇気は持ち合わせていなかった。
新入生は120人。日本全国から津々浦々。政治家や企業の子息および令嬢、魔法の道に進む前提に立っている者もいれば、地方の庶民出身もいる。ゆかりは中流階級出身だが、魔法の基礎知識を勉強し、水魔法の練習をしてきた経緯がある。
その中に、どれにも当てはまっていない(というより素性が分からない)人物がいた。
校庭で1人、木刀を携え、素振りをする銀髪の小柄な少女。
ユリィ・フロスト
人形のような美少女が、噂にならないわけがなかった。誰とも話さず、誰にも興味を示さない、心を閉ざした存在。
新入生の間では、「ちっちゃくてかわいい」「お人形さんみたい」「近寄りがたい」「無表情すぎて不気味」「周囲が凍りつきそう」など、どちらかと言うとネガティブな印象が目立っている。
ゆかりはそんな噂を知った上で、色眼鏡を掛けないでアプローチする。
「あの…フロストさん、だよね?」
とはいえ、和真に話しかける時よりどこかぎこちない。ユリィが少し近寄りがたいのは事実だった。
ユリィは素振りを中断し、無言でハイライトの無い瞳をゆかりの方に向けた。
「あの、銀髪、すごく綺麗だね」
「……そう…」
ユリィは初めて口を開いた。
「ここでトレーニングするところを眺めててもいい?」
ゆかりは話題に困った。別に、「どこから来たの?」とか、「趣味は?」とか、色々あるはずなのに、それらを聞くのはタブーな気がした。興味がなかったわけではない。
ユリィは首を少し傾げた。少し時間を置いた。
「?……べつに、かまわない…」
ゆかりはユリィの剣の振りの所作の美しさについ見惚れてしまった。
寸分違わない剣先の軌跡。動きに揺られる銀髪。揺られる制服のスカート。「光」が宿ってはいないものの、どこか覚悟を決めてしまっている瞳。そして凛とした表情。
ゆかりはニコニコしながら眺めていた。
同時にゆかりは、ユリィの立ち振る舞いに、わずかな、漠然とした危うさを読み取っていたが、その正体に皆目見当もつかないので、流石に気のせいだと信じるしかなかった。




