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氷銀の魔女  作者:
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5-2 波乱の連休

 連休初日。


 和真は普段より早く目が覚めてしまった。スマホの画面を確認すると5時28分。


 しかしそれよりもメールの着信通知。堂ノ上理事長からの呼び出しメール。朝9時に理事長室に来るようにという文面。


 和真は少し身構えた。「あれ、僕、なんかやっちゃいました?」と、冗談抜きで口に出したくなる。


 もしかして、良かれと思ってした行動が実はダメだったとか。


 和真は胃薬と頭痛薬を用意し、制服のポケットに忍ばせておく。薬を御守り代わりにするという奇行に走るが、和真は至って真面目である。


 朝御飯のおにぎりを頬張ったが、3時間以上も間があり、何をしていても落ち着かなかった。制服に着替えた和真は、心を落ち着かせるために部屋から出た。寮のロビーに設置されている自動販売機で「つめた〜い」の缶コーヒーを買った。壁に寄りかかり、コーヒーを啜る。


「苦い」


 和真は顔を顰めた。砂糖が含まれているはずだが、この心境で飲む缶コーヒーは思いのほか苦かった。





 8時50分頃、理事長室と同階の廊下。


 理事長室に近づくにつれて、和真の心臓を引っ張る力が強くなっている。もはや御守りとして持っている胃薬と頭痛薬は意味をなしていなかった。


 重い足でゆっくり理事長室に向かっていると、1人の制服姿の女子がいた。ゆかりだ。


「あれ、ゆかりさんも?」


「え、和真も?」


 どうやらゆかりも同じ時間に堂ノ上に呼び出されたようだ。和真と同じく、表情が少し硬い。


 ダブルブッキングでもなさそうだ。要件が同じだから2人まとめて、と言った感じだろうか。


「私なにかやっちゃったのかな…ちょっと緊張する」


「ゆかりさん、御守りに胃薬と頭痛薬、どっちが欲しい?」


「何の話してるの」


 ゆかりは和真の天然発言に呆れていたが、多少緊張が解けたのか、表情が柔らかくなった。


 まだ5分前だが、理事長室の前に着いた。


「ちょっと早いけど大丈夫だよね?『5分前行動』って言うし」


 5分前どころか、和真は常に『10分前行動』を心掛けている。


 扉の前で2人は顔を見合わせて頷き、和真が扉を叩く。強くなりすぎないように。


「入りたまえ」


 威厳のある低い声。


 堂ノ上の許可を得て、扉をゆっくり開く。


「失礼します」


 2人は部屋の床に足をつける前に一礼し、入室した。


 正面には大きなデスクの前で豪華そうな椅子に腰をかけている男、堂ノ上真聖。理事長室にはもう1人、男が堂ノ上の右側に立っていた。


「やあ東条君、北条さん、休日の朝に呼び出してすまないね」


 堂ノ上の声は低いが、声音は非常に穏やかだった。


「い、いえ……」


━この人、礼儀正しくて穏やかな人なんだけど、なんか慣れない…。


「君達に話したいことは2点だ、一つはユリィ・フロストの件だ」


 和真が息を呑む。


「君達は彼女と仲が良いようだね。ユリィはたった1人で迷子になっていたのだ。そのような状態の彼女を私が孤児院で保護したのだ」


 堂ノ上は続ける。


「今後とも、彼女のことをよろしく頼む」


「は、はい」


「ふたつ目だが、君達には校外学習として行ってほしい場所があるのだ」


「……」


━校外学習?この時期の1年生で、僕たちだけ?


「その場所は━━━━『国武院』だ」


 和真は頭が真っ白になった。堂ノ上の示す行き先が想定外だった。心臓が一瞬止まったような感覚すらあった。


「……え?こ、こく、ここ、こくここ」


「和真、落ち着いて」


「国武院ですか?武士道教育に力を入れている、あの国武院ですか?」


 和真は焦りのあまり、自分がいた場所の名前を思わず聞き返してしまった。


「そうだ、東条君にとっては懐かしい場所かな?」


 確かに懐かしい場所ではあるが、戻りたいかと言われれば戻りたくない。和真にとっては人生であり、思い出でもあり、そして、トラウマでもある。その場所に行くことになるのは、いささか複雑な心境だった。


「それで、和真はともかく、どうして私も?」


 ゆかりが至極真っ当な疑問を口にした。国武院とゆかりは一切関係がないはずだ。


「それに関して、私から説明させていただく」


 堂ノ上の横に黙って立っていた男がようやく口を開いた。


 男は長身で、若干肥満体型のようにも見え、特殊な軍服のような物を着用している。だが、その目は鋭く、その立ち姿は、歴戦の横綱の雰囲気を醸し出している。


「申し遅れた、私は《コズミック》の部隊長、溝呂木だ。よろしく頼む」


「コズミック?」


 聞き慣れない固有名詞に、和真は疑問を隠さなかった。


「暁星学院を守る特務部隊みたいなものだ。━早速だが、モニターの方を見てほしい」


 堂ノ上から見て左手には、映画館のようなモニターがずっしりと配置され、溝呂木のノートパソコンの画面を映している。


 モニターには敷地内の地図が映されている。和真はすぐに国武院だと理解したが、意味ありげに鮮やかな色で塗りつぶされている場所があった。


「これは国武院の地図だ。敷地全体にアンチスペルフィールドが展開されていることが判明した」


 アンチスペルフィールド━範囲内の魔法の発動を無効化する結界魔法だ。和真は魔法基礎の授業で習った内容を頭の中に呼び起こした。


「国武院は反魔法主義の背景を持って設立されているが、魔法に反対している組織が、魔法を使っている事は大きな矛盾だ。そこで、魔法に頼らずとも、持ち前の身体能力で戦えるお前たちを選んだのだ」


 まるで戦うことが前提のような不穏な説明に、和真は不信感を抱いた。「眉間に皺が寄る」と言うのはこの事だ。


「それは、任務ですか?」


「違う」


 堂ノ上が即座に否定した。


「あくまで校外学習と言ったはずだ。君達は国武院の学生達と交流して欲しい。彼らの中には血気盛んな者もいるだろう。場合によっては彼らとの模擬戦も想定して欲しい」


 目が鋭くなっていた和真は一旦表情をほぐした。ただ、彼らとの再会は喜べない。和真の頬は引き攣っていた。


「日程は追って伝えるが、国武院遠征には、3年生やコズミックのメンバー、東条君と北条さん、そして━」


 堂ノ上は理解が追いつかない和真やゆかりを無視して続けた。


「ユリィ・フロスト」

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朝9時に理事長に来るようにという文面。

朝9時に理事長室に来るようにという文面。

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