5-1 静寂の学院
火曜日の放課後。
翌日から5連休で、教室は独特な雰囲気に包まれている。連休中は、実家に帰省するものもいれば旅行に行く者もいる。和真はそのどちらでもない。国武院は彼にとっては古巣ではあるものの、決して戻りたい場所ではない。帰る場所もなく、とりわけやりたい事もないので、普段の休日と変わらない。
祐一達はそれぞれ実家に帰省するようだ。和真は「また月曜日ね」と言って教室を出た。その際に、ゆかりとユリィが一緒に歩いているところを見かけた。
━ユリィ、ゆかりさんとどこかに行くのかな。
寮部屋に戻った後、せっかくなので買い物でも楽しもうと思い立った。パーカーとチノパンに着替え、財布とスマホをポケットに入れて寮を出た。
せっかくの休みなら、読書に力を入れよう。学院の校庭のベンチで、お菓子を食べながらでも悪くない。
学院からは徒歩20分程度のところにある大型ショッピングモール、『りりぽーと』だ。和真は書店、メンズの衣服店、100円均一ショップを回った後、買い物袋を片手に食料品コーナーへ向かった。
鶏卵、納豆、サラダチキン、ツナ缶など、使いそうな食材を適当に迷う事なく放り込んだ。無人のレジのバーコードリーダーの反応が悪くて軽くイラッとした事件はあったものの、りりぽーとから出る時には謎の満足感に包まれていた。
「ちょっと買いすぎたかも……」
寮部屋に戻る頃には、食料品のレジ袋の持ち手のポリエチレンが千切れかけていた。
*
一方、ゆかりは先日、ユリィからとある相談を受けていた。なんでも、
「『ある人』のことが頭から離れなくてどうしたらいいかわからない」
…とのことだった。
「ある人」が誰のことかすでにバレバレなのに、この後に及んで誤魔化そうとするユリィを、ゆかりは心の底から可愛いと思った。また、ユリィの健気で純粋な想いに、ゆかりは心を動かされていた。
ユリィの相談内容に対して、「『彼』と一緒にいるだけでいい」とアドバイスした。ゆかりは、和真とユリィは両思いであることを知っているため、自信を持ってアドバイスすることができた。もっとも、和真は自覚しているかどうかはわからないが。
そのアドバイスに対してユリィはかなり悩んでいたので、「連休中に一緒にどこかに遊びに行ってみれば?」と追加した。それは━
THE デート。
最初、ユリィは顔を赤くしながら必死に首を横に振っていたが、「和真はユリィからの誘いを絶対に断らない」と、ゆかりは確信していた。
ゆかりは「せっかくのデートならオシャレしよう」ということで、その服を買いに行くことになった。
これが、ユリィとゆかりが一緒に「りりぽーと」に行くことになった経緯である。
徒歩20分程度で、りりぽーとに到着した。目的のフロアへエスカレーターで上昇する。このフロアでは、レディースのファッションコーナーが集まっている。
━やっぱり綺麗な銀髪は注目を集めるんだ。
ショッピングモールに入ると、すれ違う通行人からの視線がユリィに集中していた。
そして、ゆかりがイチオシしている店に訪れた。値段がお手頃なわりにデザインがいいため、女子学院生の大半はお世話になっているとかなんとか。
「……ゆかり、やっぱりわたし無理、帰る…」
マネキンが着用しているオシャレな服を見たユリィは、何かに怖気付いたのか。
「何言ってんの、ここまで来たんだから」
ゆかりは、制服のスカートを掴んで目線を落としているユリィを店内に引っ張った。
ゆかりは女性の店員とノリノリで1着1着を試着させている。ユリィを着せ替え人形として最早遊んでいる。その間のユリィは試着室の中で虚無の表情を浮かべていた。
ユリィは、以下の条件で服を選んだ。
・露出が少ないもの。背中を露出するタイプは禁忌。スカートタイプであればタイツは絶対。
・目立たない色合いのもの。水色や灰色など。
・動きやすいもの。
・和真に見られても恥ずかしくないもの。
トップスは白のブラウスに淡い水色のカーディガン。ボトムスは膝丈の灰色のチェックのプリーツスカート。白いタイツで細い脚を包んでいる。
ゆかりはユリィの姿にしばらく見惚れていた。
「ユリィ、すっごく似合ってる!」
「……ほんと?」
「うん!」
「……ありがとう、ゆかり」
ユリィは会計し、購入した服を紙袋に畳んで入れてもらい、紙袋を受け取った。
ユリィは紙袋を胸に抱え、少し期待するような表情を浮かべていた。
*
ユリィはいつも通りの時間にトレーニングジムへ向かう。
和真を『鍛錬』━という名目で遊びに誘う。話しかけることすらハードルが高いのに誘うことなどできるのだろうか。ユリィには大きな不安があったが、ゆかりの言葉を信じて、ジムの扉を開けた━
ジムには和真1人、確かに和真はいた。
しかし、年齢に見合わない筋骨隆々の肉体を惜しげもなく露わにしていた。
「……!」
ユリィは反射的に目を逸らし、扉を閉めた。ガンッという音がした。
━み、見ちゃった……
ユリィは真っ赤になった顔を両手で覆う。
「あ、ごめん、ちょっと汗かきすぎちゃって…」
扉の向こうで和真が弁解していたが、頭に入ってこない。
ユリィはその場から逃げ出すように駆け足でジムを離れた。
……結局、誘うことは出来なかった。




