4-9 クリティカル
騒動後の教室。
ユリィに因縁をつける紗子を和真が追い払う姿を、ゆかりは見ていた。
兵器。
ゆかりにはユリィがそのような物々しい存在には到底見えなかった。ただ、純粋な恋心を抱く、普通の少女にしか見えなかった。
そして、「兵器」という単語を聞いた瞬間のユリィの反応はとても普通ではなかった。起きているのに、悪夢にうなされているような表情だった。
人格否定の言葉を使った紗子に対して、ゆかりも我慢ならなかったが、その前に和真が踊り出た。手短に、追い払った。
ゆかりは、自分の経験則から、あの手の女子は裏で陰湿な嫌がらせをするタイプだと直感した。
和真達が去った後、ゆかりは、フリーズした状態のユリィの隣の席に座った。それに気づいたユリィはゆかりの方を見た。
「……ゆかり…わたしは…」
「ユリィ、だいじょうぶ。あの人の言うことなんて気にすることないから」
「……わたしは、大丈夫…」
「……そっか」
ゆかりは何も言わず、ユリィに寄り添った。
━そういえばユリィ、和真に対して他所よそしい気がする。喧嘩したわけじゃなさそう。
ゆかりはユリィの言動について考察をし始めた。
━もしかして━
━もう落ちてる?
*
祐一達とゲームセンターに行った和真は、初めて体験する遊戯を純粋に楽しんでいた。一度寮部屋に戻り、全員私服に着替えた。
2人対2人のエアホッケー、洞穴から頭を出すワニをハンマーで叩いて数を競うゲーム、画面に向かって銃を構えてゾンビを倒すゲームなど、和真にとっては非常に新鮮だった。
中でも、クレーンゲーム。話には聞いていたが、これが思いのほか面白い。しかも獲得したものは景品として持ち帰ることができるという仕組みが画期的だ、と和真は興奮気味だった。そんな様子の和真を、祐一達は、まるで弟を見ているような目で見ていた。
和真は、初めてのクレーンゲームで熊のぬいぐるみを獲得し、はしゃいでいた。
「よかったな和真」と祐一。
「うん!」
和真は小さな子供のように目を輝かせて熊のぬいぐるみを持ち上げる。店員から紙の袋をもらい、袋に入れる。
「ところで和真、それ、誰かに渡すのか?」
竜二が純粋に訊ねた。
「え?」
「好きな女の子にでも渡すのか?」
立て続けにからかう山内。
無意識にこのクレーンゲームの台を選んだが、よくよく考えるとユリィの顔が脳裏に浮かんでいた。
「そんなんじゃないよ」
だからといって好きということにはならない。和真はキッパリ否定する。
「どうだかな」
祐一は訝しんだ。
「それに、恋愛とか好きとか、よくわからないんだ」
和真は異性とは無縁な世界で生きてきた。それ故に恋愛感情を育む余地がなかった。
和真達はゲームセンターを後にし、世界的に有名ハンバーガーチェーン店で夕食をとった。和真はファストフードを食したことはあったものの、片手で数えるくらいしか経験がなかったため、ジャンクな味がこれまた新鮮だった。
「これが若者の味か」
和真はボソッと呟き、「お前も若者だろ」と3人から総ツッコミを受けた。
その後は学院に帰還し、4人は解散し、各々寮部屋に戻った。
*
和真は寮部屋に戻ると、ぬいぐるみが入った紙袋を床に置いた。
トレーニングまで時間があったので、翌日の準備、授業の復習などのルーティンをこなす。
それらを全て完了させた後、22時頃になると、身体がうずうずしてきたので、タオルやスポーツドリンクなどを手提げ鞄に入れてジムに向かった。
施設の下駄箱付近で、たまに見かける男子の先輩とすれ違い、軽く会釈した。
ジムの木製のドアを開けると、誰もいなかった。
「今日はユリィ、来るかな…」
まずはランニングマシンで走り込みを始めた。
数分後、木製のドアがゆっくり開いた。
━猫
白い猫━「ユスティニアヌス」というネームタグを首輪につけている━がのそのそ侵入してきた。しばらくしてジムに入って来たのは━
ユリィ。
ユリィは和真に気づいたのか、すぐに目を逸らした。しかし、一度深呼吸をしてからじっと和真を見つめながら近づいた。
和真はランニングマシンから足を離し、ユリィの方に向いた。
「……かずま…」
ユリィは意を決したように重い口を開いた。和真はじっと彼女の目を見つめる。
「……ありがとう…」
感謝の言葉だった。
「えっと、さっきのこと……?」
放課後にユリィが紗子に絡ませていたところを和真が助けたことだ。ユリィは黙って頷いた。
「ううん、大丈夫、ありがとう、ユリィ」
その「ありがとう」は、「わざわざ言いに来てくれてありがとう」という意味だった。
*
ユリィは和真にお礼を告げた後、すぐさまジムを後にし、ひとり、女子寮への帰路についた。
━どうして
━どうして、かずまがお礼を言うの?
「……そういうところ」
顔が熱を帯びている気がする。
「すき」




