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氷銀の魔女  作者:
34/37

4-7 感情の芽生え

 ある日の授業後の休憩時間。


 ユリィはあれからまだ和真と目を合わすことができないでいた。


 和真から「おはよう」と声をかけられるようになったが、ユリィはそれに応える事ができない。


 でも、和真の方に自然と身体が向く。その和真は今、女子生徒と歓談していた。どこか楽しそう。


 ユリィにとって未知の感情が芽生えていた。


━なに、このモヤモヤした感覚。


 常に無表情を保っていたユリィの目付きが鋭くなった。口角が下がる。


 そんな様子を見たゆかりが近づいてくる。


「ユリィ、どうしたの?」


「……なんでもない」


「ふふ、『そういうところ』は顔に出るんだね」


━「そういうところ」って何?


「それ、()()()()()()


━嫉妬?


 ユリィはその言葉に首を傾げた。嫉妬という言葉の意味を知ってはいても、この文脈での本質を理解する事はできなかった。


「……しっと、ってどういうこと……?」


「ユリィは本格的に和真に恋しちゃってるってこと」


 次の授業が始まるチャイムが校舎に鳴り響いた。全員が駆け足で席につき、教員が授業を始める時を待っていた。


 授業が終わり、昼休みになると、ユリィは真っ先に逃げるように人気の少ない校庭まで来た。


━嫉妬って何?わたしがかずまのことがすきだから?


 自分の複雑な感情に混乱しているユリィの目の前には、謎の男女がいた。貝塚兼孝と秋野紅葉だった。


 そんなことより目を引くのは、兼孝の背中には、彼の身長以上の物体が鎮座していた。ロケットのような物をリュックサックの如く背負っている。


「あんたほんとにやるつもり?絶対やめた方がいいわよ!?」


「この魔力結晶を使ったロケットは、トンデモ初速を必要としないで大気圏まで気軽に飛べるんだから」


 なんとか止めようとする紅葉をよそに、サラッととんでもない事を兼孝は得意げに主張した。


「それに、こういうのって、()()()試してみないと分かんないじゃん?」


━え?……どういうこと?()()()


 ユリィは兼孝の狂気について行く事ができなかった。


「じゃあ、無線OK!ヘルメットOK!パラシュートOK!シートベルトOK!じゃあ、ぽち」


「あ」


 あくまで軽いノリで発射のボタンを押した兼孝に、紅葉は唖然とした。


 次の瞬間、ゴオオオォォという騒音と共に、強烈な風が吹き、塵と煙が舞い上がった。


「かいづかああああああああっ!」


 風で揺れるスカートを押さえながら紅葉は叫んだ。兼孝を載せたロケットは、あっという間に肉眼で見えなくなった。


『おっほぉぉお、凄い勢いだね〜、このまま成層圏まで行っちゃう?』


 無線越しに聞こえるのは楽しげな兼孝の声。しかし━


『…うっ、あっ、あ…コレホントに死ぬヤツ……!』


 空気が薄くなってきたのか、酸欠状態に陥ったようだ。


「かいづかああああ!だから言わんこっちゃない!応答して!貝塚!」


 無線からは空気を高速で斬るような音が聞こえ、兼孝からの返事はない。


「貝塚!貝塚!だめ!気絶しちゃってる!」


 紅葉が必死に呼びかけているが、一向に応答がない。


「ええい!こんなこともあろうかと思って『非常用強制パラシュートボタン』用意しといて良かったわ!」


 紅葉は赤いボタンの装置を取り出して、非常用ボタンを殴った。


 ようやく落下中のロケットが見えてきた所で、パラシュートが開いた。兼孝は、発射地点から1ミリもズレることなくゆっくり着地した。ベルトを外し、ロケットから離れ、


 そして、今にも死にかけた兼孝の一言━


「ふう、まさに『天にも昇る気分』だったよあだだだだた」


 紅葉は、呑気な兼孝の右耳を引きちぎらんばかりの力で引っ張った。


「何が天にも昇る気分よバカ!」


 紅葉はそのまま兼孝の右耳を持ち、引きずってどこかへ行ってしまった。


「…………え…なに……こわい」


 そんな言葉が自然に口から出たことに、ユリィは自分でも驚きを隠せなかった。


 自然に吹く風が銀髪とスカートを揺らしている中、ユリィは2つの意味で困惑していた。

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