4-6 ラボラトリーパニック
⚠️注意⚠️
このエピソードは汚い話になります。
ご理解の上、お読みいただければと思います。
土曜日のシマ研。
研究室は基本的に休みである事が多いが、熱心な研究室は午後から開始するところもあれば、平日と変わらずに取り組むところもある。
貝塚グループは、兼孝の匙加減により、土日に研究室に来るかどうかは個人の自由である。兼孝は寮にいてもする事がないため、土日は基本的に実験を行わずに実験記録をパソコンで纏めたり、資料を読み漁ったりしている。というのも、紅葉に「土日は実験するな」と釘を刺されているのである。
一方で紅葉は昼から研究室に来るとのこと。友人と買い物をして昼ご飯も食べてくると兼孝に伝えていた。そのため、研究室には兼孝1人である。
午前11時13分、兼孝が資料を読み込んでいると、唐突に腹部に強い違和感に襲われた。
「あ……いたたたたた、昨日食べ過ぎたかな…」
昨晩、紅葉のセミナーの打ち上げで、揚げ物を調子に乗って沢山食べた事が原因だろうか。しかし、兼孝はすぐさま直感した。大腸を握り潰されるような痛みに異常を察知し、男子トイレに駆け込む。
幸い、3個しかない個室には誰も入ってなかった。兼孝は便座に腰掛け、どうにか事を済ました。ブツを水に流した直後、「第2波」が迫ってきた。
兼孝が腹痛と戦っていると、男子トイレが騒がしくなってきた。その場にいる人物全員が「大」が目的のようだが、同時多発的に腹痛に襲われるのは明らかにおかしい。
「先生……うんちがしたいです…」
男子生徒の1人が隣の個室に向かって言った。
「まだだ、もう少し待ってくれ、今ケツ拭いてるところなんだ!」
「待って、3分待って!」
個室の中にいる教員と思われる人物も大慌て。
兼孝が個室から出ると、目の前にいた学生が真っ先に飛び込んだ。
兼孝の目の前には、阿鼻叫喚な光景が広がっていた。
下痢と戦っている者、今にも漏れそうで青い顔をしている者━
中には、既に間に合わず、絶望している顔の者もいた。彼らのズボンの裾からは、液体が━
「な、何が起こってるの……」
鼻がひん曲がるような悪臭や助けを求める者達の光景に、兼孝ですらどうしていいかわからなかった。
「紙が、紙がないよー!」
「早くしてくれー!」
兼孝は、この場から逃げるようにトイレットペーパーを取りに行く。シマ研の備品置き場にはすでに目的の物は在庫切れとなっていた……。
「さいあくだああぁぁぁっ!」
兼孝は頭を抱えたのであった。
*
腹痛から逃れた者達でどうにかトイレットペーパーと消臭剤を調達し、応急処置は済ませた。
「ねえ貝塚、何があったの?」
シマ研の1階ロビーで、ただならぬ雰囲気と悪臭に困惑しながら紅葉は聞いてくる。
「……謎の下痢騒動」
そうとしか言いようがない。
「ちょっとぉ、お昼ご飯カレーだったんだから勘弁してよ!というかあんたがまたやらかしたんじゃないの!?」
「違うよ!今回はボクじゃないよ!」
必死に否定する。事実、兼孝は実験していない。
紅葉は、兼孝のあまりに必死に否定する姿を見て引き下がったようだ。
「…他の研究室で実験してたか、調べた方が良さそうだね」
*
貝塚グループの研究室。
部屋の窓を全開にし、未だ漂う香ばしい臭いとフローラルな消臭剤の匂いが混ざっている中、紅葉と兼孝はデスクで黙って座っていた。
「…結論から言うと、現象そのものはわかった」
兼孝は納得いかないと言った表情で口を開いた。
「ただし、『真因』はわからない」
「…と言うと?」
「下痢の現象そのもののモデルの作成は可能だけど、原因となる実験から、下痢を引き起こす作用機序がわからない」
兼孝は続ける。
「やろうと思えば下痢そのものは再現できるけど、飯田研の実験とどう結びつくのかは一切わからない」
「それだとまた起こるかもしれないってこと?」
「後は飯田研に原因究明を投げて報告を待つしかないね」
兼孝はやれやれといったジェスチャーで自己完結した。
この日から、シマ研ではオムツが常備されるようになった。




