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氷銀の魔女  作者:
33/36

4-6 ラボラトリーパニック

⚠️注意⚠️

このエピソードは汚い話になります。

ご理解の上、お読みいただければと思います。

 土曜日のシマ研。


 研究室は基本的に休みである事が多いが、熱心な研究室は午後から開始するところもあれば、平日と変わらずに取り組むところもある。


 貝塚グループは、兼孝の匙加減により、土日に研究室に来るかどうかは個人の自由である。兼孝は寮にいてもする事がないため、土日は基本的に実験を行わずに実験記録をパソコンで纏めたり、資料を読み漁ったりしている。というのも、紅葉に「土日は実験するな」と釘を刺されているのである。


 一方で紅葉は昼から研究室に来るとのこと。友人と買い物をして昼ご飯も食べてくると兼孝に伝えていた。そのため、研究室には兼孝1人である。


 午前11時13分、兼孝が資料を読み込んでいると、唐突に腹部に強い違和感に襲われた。


「あ……いたたたたた、昨日食べ過ぎたかな…」


 昨晩、紅葉のセミナーの打ち上げで、揚げ物を調子に乗って沢山食べた事が原因だろうか。しかし、兼孝はすぐさま直感した。大腸を握り潰されるような痛みに異常を察知し、男子トイレに駆け込む。


 幸い、3個しかない個室には誰も入ってなかった。兼孝は便座に腰掛け、どうにか事を済ました。ブツを水に流した直後、「第2波」が迫ってきた。


 兼孝が腹痛と戦っていると、男子トイレが騒がしくなってきた。その場にいる人物全員が「大」が目的のようだが、同時多発的に腹痛に襲われるのは明らかにおかしい。


「先生……うんちがしたいです…」


 男子生徒の1人が隣の個室に向かって言った。


「まだだ、もう少し待ってくれ、今ケツ拭いてるところなんだ!」


「待って、3分待って!」


 個室の中にいる教員と思われる人物も大慌て。


 兼孝が個室から出ると、目の前にいた学生が真っ先に飛び込んだ。


 兼孝の目の前には、阿鼻叫喚な光景が広がっていた。


 下痢と戦っている者、今にも漏れそうで青い顔をしている者━


 中には、既に間に合わず、絶望している顔の者もいた。彼らのズボンの裾からは、液体が━


「な、何が起こってるの……」


 鼻がひん曲がるような悪臭や助けを求める者達の光景に、兼孝ですらどうしていいかわからなかった。


「紙が、紙がないよー!」


「早くしてくれー!」


 兼孝は、この場から逃げるようにトイレットペーパーを取りに行く。シマ研の備品置き場にはすでに目的の物は在庫切れとなっていた……。


「さいあくだああぁぁぁっ!」


 兼孝は頭を抱えたのであった。





 腹痛から逃れた者達でどうにかトイレットペーパーと消臭剤を調達し、応急処置は済ませた。


「ねえ貝塚、何があったの?」


 シマ研の1階ロビーで、ただならぬ雰囲気と悪臭に困惑しながら紅葉は聞いてくる。


「……謎の下痢騒動」


 そうとしか言いようがない。


「ちょっとぉ、お昼ご飯カレーだったんだから勘弁してよ!というかあんたがまたやらかしたんじゃないの!?」


「違うよ!今回はボクじゃないよ!」


 必死に否定する。事実、兼孝は実験していない。


 紅葉は、兼孝のあまりに必死に否定する姿を見て引き下がったようだ。


「…他の研究室で実験してたか、調べた方が良さそうだね」





 貝塚グループの研究室。


 部屋の窓を全開にし、未だ漂う香ばしい臭いとフローラルな消臭剤の匂いが混ざっている中、紅葉と兼孝はデスクで黙って座っていた。


「…結論から言うと、現象そのものはわかった」


 兼孝は納得いかないと言った表情で口を開いた。


「ただし、『真因』はわからない」


「…と言うと?」


「下痢の現象そのもののモデルの作成は可能だけど、原因となる実験から、下痢を引き起こす作用機序がわからない」


 兼孝は続ける。


「やろうと思えば下痢そのものは再現できるけど、飯田研の実験とどう結びつくのかは一切わからない」


「それだとまた起こるかもしれないってこと?」


「後は飯田研に原因究明を投げて報告を待つしかないね」


 兼孝はやれやれといったジェスチャーで自己完結した。


 この日から、シマ研ではオムツが常備されるようになった。

 

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