1-2 新鮮な空気、新たな人間関係
入学式の週の金曜日の放課後、履修登録の手続きを終えて、来週から本格的に授業が始まる。
金曜日の放課後ということで、初めての週末休みに解放的になる新入生が大半だろう。この5日間で、新入生たちは新たな人間関係を形成している。
人間関係に関して、和真も例外ではなかった。
敦賀祐一と沙藤竜二。彼らと意気投合し、連絡先の交換もできた。
一応侍だと自己紹介で公言してしまったため、敬遠されるかと思ったが、そこまでネガティブな雰囲気は感じなかった。「侍ぷぷぷ笑」とか「中二病笑」とか言われるくらいなら無関心でいてくれた方が嬉しい。
和真は人付き合いが上手い方ではないので、新しく友人ができるか少し心配だったが、杞憂に終わった。
祐一と竜二とは「じゃあな、また来週」と別れた。一度実家に帰ったり、ランニングしたりなど、各々思い思いの金曜日の放課後を過ごす。
和真もこの後、トレーニングジムに向かう。
デジタル時計は14時36分を表示している。まだ昼なので、たくさんの生徒が自己研鑽、肉体改造に励んでいる。ペットボトルのスポーツドリンクを一気飲みしながら休憩する者もいる。
今日はランニングマシンで走り込む予定だ。丁度1台空きが出来ているのでそこを使わせてもらおうと思ったその時、
「東条君…だよね?」
1人の制服姿の女子生徒から話かけられた。
「えっと確か……北条さん、だったっけ?」
和真はその女子生徒の顔を見て名前を必死に思い出した。
藍色のウェーブのロングの髪に、サファイアの瞳を持つ少女だ。
「そうそう!名前覚えてくれて嬉しい!私は北条ゆかり。水魔法が得意です、よろしくね」
和真は名前を間違えてなくて心底よかったと胸を撫で下ろした。
和真も「こちらこそ、僕は東条和真、よろしくお願いします」と定型文で返した。
「東条君って侍なんだよね?」
「一応、そうだけど。前までは国武院ってとこにいたんだ」
「侍というわりには『なんとかでござる』とか『拙者』とか言わないよね」
「随分とステレオタイプだね」
和真はつい口元が緩んだ。確かに世間で言うところの「侍」は、ゆかりの言うようなイメージなのだろう。
「あっ、気分を害したらごめんね。でも、剣の腕は確かだって噂になってたから」
入学1週間で既に噂が拡散している。その情報を仕入れてきているゆかりのコミュニケーション能力は計り知れない。
「情報ソースがどこかはわからないけど、まだ誰とも『お手合わせ』させてもらってないから、自分の実力なんてわからないよ。それに魔法とはてんで無縁だったし」
和真は国武院では「落ちこぼれ」扱いを受けていた。そこから、必死に、喰らい付いて、がむしゃらに強さを求めてきた。
「ふふ、そうなの?東条君からは『特別な何か』を感じるけど?私って直感には自信があるんだ」
ゆかりは、ふふん、と右拳で胸を叩いた。
「なら、北条さんのご期待に添えるように善処するよ」
和真は他人の視線や期待を気にして行動しているわけではないが、その言葉は決して嘘でも偽りでもない。
ゆかりは「楽しみにしてるね、じゃあね」と言い、トレーニングジムから立ち去った。
和真は立ち去るゆかりに手を軽く振った。
……気づいたらランニングマシンは全台使用中だった……。




