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氷銀の魔女  作者:
29/41

4-2 剣士としての挑戦

 部活棟の屋外。


 ある程度の広さがある平らな場所に一同は集まっている。その中にはもちろん和真もいる。


 剣術部の部長である菱井と和真が対戦すると決まった瞬間、観戦のために多くの生徒が集まり始めた。最前列には、祐一、竜二、ゆかり、兼孝がおり、全員がワクワクしているような表情をしていた。


 さらに群衆の切れ目から遠くをよく見渡すと、銀髪の少女も見えた。


━というか人集まりすぎだろ……


 有名なメジャーリーガーもこんな気分だったのだろうか。


 勧誘ならともかく、お手合わせまで無碍にするのは違うと思い、勝負を受けたが、観客がここまで集まるのは聞いていない。


「…どうしてこんなことに…」


 誰にも聞こえないようにぼそっと呟く。和真は、胃薬だけでなく頭痛薬も欲しくなった。右手で木刀を持ちつつ、頭と腹のどちらに左手を当てようか迷っていると、菱井が口を開いた。


「予想以上の観客(オーディエンス)だな。東条君、準備はいいか?」


 和真は剣を構え、臨戦体制に入った。神経を研ぎ澄ましていると、無自覚に殺気が漏れ始めた。


「おっほぅ、凄いオーラだねぇ」


 兼孝は、張り詰めた空気には似つかわしくない間抜け声で、興味深そうに言い放った。ギャラリーの何人かは、和真のただならぬ雰囲気に困惑している。


 和真は了承の意味合いで頷いた。


 「試合開始!」と、審判の合図。


 合図とともに、先に動いたのは和真だった。


 和真は、数メートルの距離を息をする暇もなく菱井との距離を詰め、薙ぎ払う。菱井は、そんな動きが予想外だったのか、少し反応が遅れたが、ギリギリ和真の薙ぎ払いを防ぐ。


 さらに和真は追撃を行うが、菱井はどうにかガードをした。


 これ以上の攻めは無効と判断し、和真はバックステップで距離をとる。


━流石に奇襲にはかかってはくれないか…


「東条君は守りのタイプだと思ってたから、意表を突かれたよ」


 和真の思惑通りではあったが、菱井には通用しなかった。


 再び2人は睨み合う。どちらが先に動くか、互いに様子を伺う。


「おいおい、2人とも全く動かねえじゃん」


「随分と暇な試合だな」


 展開が動かない盤面にギャラリーは痺れを切らしたのか、不満をこぼしていた。


「いや、違う、これは…」


 兼孝がひと言。


「達人同士の…読み合い」


 ゆかりは息を呑んだ。


 次も和真が先に動き出した。ただ、歩いて接近。


「その様子見の歩きは怖いよ」 


 兼孝は思わず口に出してしまった。


「間合いの管理が上手いな、流石侍だな」


 菱井は和真を褒め称える。


 和真の間合い計算を無為にするように歩幅をばらつかせて菱井も接近する。和真より恵まれた体格を利用して絶妙な間合いに来たタイミングで、一太刀。


 和真は身体を捻って回避を選択。菱井の苛烈な連撃を和真は全てその場で受け止める。


━くそっ、この間合いでは…でも


 和真はユリィと試合した時を思い出した。あの時も和真は、ユリィとの体格差を利用して有利な間合いを意識して戦っていた。


━それでもユリィは踏み込んできた。


 和真は菱井が間合いをコントロールしている事を分かっている。その優位性を逆手に取れば━


━これは、賭けだ。


 和真は菱井の連撃を受け流しながら一歩前へ進む。菱井が無意識に半歩退こうとしたその時━


「ここだ!」


 連撃の一瞬を縫うように、居合斬り。


 菱井は、和真の予想外の一撃によろけた。


「なっ!」


 そこで生まれた隙━そこを逃がす和真ではない。


「秘技•『気合い斬り』!」


 理屈をかなぐり捨てた、全身全霊を込めた一太刀。


 菱井は受け止めきれず、尻餅をついた。


 勝負あり。


 しばしの沈黙の後、ギャラリーから拍手がどっと沸いた。


「すごい…」


「部長を倒した…一年で…」


「なんかわからんけどすげえぇっ!」


 色んな感想が聞こえてくる。

 

 菱井は立ち上がり、和真に近づいて、ひと言。


「…負けたよ、君の技術には脱帽だよ」


「いえ、菱井さんの立ち回りもお見事でした」


 

 拍手喝采を浴びつつ、2人は互いを称え合い、握手を交わした。


 そこには、師弟関係や上下関係ではなく、対等な剣士としての友情のようなものが生まれていた。

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