3-7 揺れの正体
教室、午後の授業の休み時間。
北条ゆかりはお喋りが大好きな女子生徒である。現時点で1年生の大半の生徒と会話している実績がある。ユリィのように無口な人物もいれば、「庶民風情がわたくしに話しかけるなんて」云々の高圧的な口調のお嬢様もいる。
女子同士の会話は話題が尽きない。湯水の如く消費していても何故か自然に湧いてくる。
特に恋愛関連の情報収集は欠かさない。それはゆかりも例外ではない。
ゆかりは学院に入学するまでに、2人の男子と付き合っていた。いずれもゆかりが告白を受ける形だった。しかしゆかり自身はそこまで恋にのめり込むことが出来なかったため、破局してしまった。また、他人の恋愛事情をよく見てきたため、恋愛の「芽」や「蕾」などを発見できる観察眼も持ち合わせている。
今まさに恋愛の「芽」を、ゆかりレーダーが感知している。レーダーが示す座標には、小さな銀髪の美少女、ユリィ•フロスト。
ゆかりは、ユリィの目線がとある人物に対して、頻繁に向いていることに気付いた。
ゆかりは、ユリィに近づき、カマをかけてみることにした。
「ねえ、ユリィ。気になってるの?」
ユリィはゆかりから視線を逸らした。
「……気になってない」
カマにかかった。意外とちょろくてかわいい、とゆかりは内心で思っていた。
「まだ誰のことか言ってないでしょ……東条君でしょ」
「っ!」
正解。ユリィは顔を下に向けた。
ゆかりは微笑みながら自身の見解を述べる。
「図星……それ多分、『恋の前兆』」
「…わたしが…恋?」
青天の霹靂だったのか、ユリィは目をまるくしていた。
*
━わたしが…恋?
━恋というのは、わたしは東条のことが好き?
━そんな感情、わたしには要らない。ちょっと気になってるだけ。
ユリィはゆかりの言っていることが理解できなかった。ユリィは感情を凍結させている、そんな状態で恋という感情など、もってのほかだ。
「それにしても東条君ね、顔がいいわけじゃないけど、ものすごい努力家って感じよね。剣の腕がすごいけど派手さはないし、気取らないところがいいところなのかな」
ゆかりの和真に対しての評価である。
確かに、和真の剣からは、壮絶なものをユリィは感じとっていた。
━あの人は
━わたしの思いを、受け止めてくれた。
しかし、その事実と「恋」は関係ない。ユリィは頭の中でひたすらその事を復唱していた。
*
深夜のトレーニングジム。
ユリィはいつも通りに鍛錬していた。いや、正確には、しようとしていた。
ゆかりに言われたことと、和真の存在そのものの両者が気になってしまって集中できなかった。
和真はそんなユリィが気がかりになり、たまらず声を掛けた。
「ユリィ大丈夫?集中できてないみたいだけど」
とても優しく、落ち着く声。今のユリィにとっては劇薬かもしれない。
「……大丈夫、問題ない」
ユリィは和真に背を向け、ジムの出入り口に向かって歩いた。立ち去り側に和真が「おやすみ、ユリィ」と声を掛けた。ユリィは逃げるように少し駆け足で外に出た。
所々で照明に照らされた夜の闇の中で、ユリィは胸に両手を当てた。心臓の鼓動が早くなっているような気がする。顔が熱を帯びているような気がする。頭の中に甘いものが眠っているような気がする。
「……この感情は、何?」
━怖い。
━でも、気になる。
━もっと彼の事を見ていたい。剣の振り方を、立ち振る舞いを。




