3-6 光を求めて
放課後、ユリィは寮部屋に戻った。
考えごとをしている間に寝落ちしていたようだ。
「……また、この夢」
ユリィは、夢の内容を明瞭に、詳細に覚えてしまっている。
ユリィが寝ていた掛け布団は所々で湿っており、首筋に汗が伝っていた。
「……エリス…」
今もあの場所にいるであろう妹の名前を呼ぶ。虚空に向けて、右手を差し出す。見えないものを掴もうとして。
「……絶対に、迎えに行くから」
━それだけのために、わたしは生きているのだから。
*
夜。トレーニングジム施設。
「……東条、サムライ、よね?」
ユリィは意を決したように和真に確認をとった。和真は、ユリィから話しかけてくるとは思わなかったので、何事と言った顔でユリィに向き合う。
だが、ユリィはそんな和真の様子を気にすることなく、木刀を差し向けた。
「わたしと、勝負してほしい」
数秒の静寂。
ユリィの息遣い、和真の息を呑む音が鳴り響く。
ユリィの目には相変わらず光は無かった。しかし、その目は、一筋の「光」を追い求めるようだった。何かに縋りつくような、まっすぐな、瞳。
ユリィのただならぬ気迫に押され、沈黙していた和真だったが、ようやく口を開く。
「……うん、わかった」
いつもの穏やかな口調。そこには軽い気持ちは全くなかった。
和真は、なぜ勝負を挑まれたか全く分からなかったが、彼女なりの理由があるに違いない、と自分を納得させた。
和真はトレーニング用の重りのリストバンドを外し、木刀を構える。
一瞬で戦闘モードに切り替わる。ユリィから伝わる殺気のような凍てつく視線。和真も負けじと殺気を滲み出す。
緊張の静寂を先に切り裂いたのはユリィだった。
ユリィは床を強く蹴り、和真の近くまで一瞬で間合いを詰めた。
━速い!
和真はユリィの瞬間移動を疑う接近に対応できず、ユリィのひと振りをなんとかガードする。
━それに、パワーも段違いだ!
ユリィのひと振りひと振りの与える衝撃が木刀を通して和真の手に伝わってくる。手が痺れる。だが和真はグッとこらえる。
攻撃のスピードもパワーも、これまでの相手と比較にならない。本気で殺しに来ている戦い方。
和真はユリィとの体格差を利用し、ユリィの攻撃範囲のギリギリ外を保とうとするが、ユリィの瞬発力でその間合いもすぐに詰められる。
━なんとか打開策を…
どうにかユリィの苛烈な攻撃を防いでいた和真は、ユリィの動作を観察していた。
━ん?
━一瞬だけ目線が逸れたような?
壁際に追い込まれないように、時々隙を見せない程度の反撃を行う。ユリィは全く動じない。
━やっぱり
和真は確信した。
━単純な身体能力だけで、勝敗は決まらない。
ユリィの動作を注意深く、悟られないように観察する。そして━
「ここだ!」
和真は絶好のタイミングでカウンターを放つ。
その一手は効果的だったようで、ユリィは反応しきれない。和真はその隙を逃さず追撃のひと振り。
次の瞬間、木刀はユリィの手から離れ、宙を舞った。
ユリィは、敗北を悟ったのか、その場でへたり込んだ。しかし、その瞳には、僅かに光が差し込んだように見えた。
*
━ま、負けた…
以前のユリィであれば敗北は死を意味していた。
しかし、今回は違った。恐怖どころか、何処か安心感すら覚えてしまった。
━どうして
━どうしてあなたは
ユリィは困惑していた。しかし、その困惑は、決して悪いことではなかった。
和真は一息つき、沈黙を破る。
「自分で気づいてるかはわからないけど」
へたり込んでいるユリィは、和真の顔を見上げる。
「後ろ、気にしてない?」
「っ!」
「後ろ、というか背中、かな。まるで背中を守るように、背後を警戒してる、みたいな目線の動かし方に見えた」
━この人、わたしの無意識の癖を見抜いて…
「目線を逸らした隙に、僅かな視界の外から攻撃した、それだけのことだよ」
そう言って和真は、リストバンドを装着し、普段通りの鍛錬を再開し始めた。
━どうして胸が熱いの。
━どうしてこんなにどきどきするの。
━この人になら、期待しても、いいのかな。




