3-5 学院の闇②
溝呂木は、兼孝を連れて、青柳を留置しているエリアまで足を運んだ。
留置エリアでは強力な「アンチスペルフィールド」━略してASFを常時発動させているため、魔法を使うことはできない。
冷たい鉄格子の向こうでうずくまっている青柳は、溝呂木に気づき、睨みつけた。
「…まだ俺に用があんのか…」
「ひとつ聞かせて欲しい、2年前、どうして『ハイペリオンの涙』を持ち出したのか」
溝呂木は真剣な眼差しで青柳を見つめる。しばらく沈黙して考え、口を開く。
「……見返したかったから」
溝呂木と兼孝は何も言わない。青柳は続ける。
「やつらを見返したかったから。力もないくせに、生まれた家が良いだけで、エリートになれた連中を……」
暁星学院の制度で、2年生の3学期に、3年制コースと5年制コースに振り分けされる。5年制コースには20人の定員があり、配属出来た者は、国家公務員、官僚、警察キャリアなど、エリートとなることが約束される。
青柳は、元々抱えていた劣等感から、エリートになることを望んでいた。しかし、現実は、非情だった。
事実、5年制コースには、有名企業の役員や政治家、官僚の子供らが配属されることが多く、暁星学院の「闇」の一つと言われている。もちろん、家柄が全てというわけではなく、成績優良者も優遇される。庶民出身で成績平凡な青柳は、5年制への配属を検討すらされなかった。
震える声で、青柳は不満を吐露する。
「大した努力もせずに、『親ガチャ』に成功しただけの連中を見返したかったんだ。『ハイペリオンの涙』さえ習得できれば、俺だって━」
「強大な力を持つものには━」
ここまで黙っていた兼孝が、青柳を遮るように口を開いた。
「それ相応の責任と義務が生じるんだよ?」
青柳は言葉に詰まる。兼孝は続ける。
「少なくとも『ハイペリオンの涙』は、アナタに扱えるものじゃないし、アナタのように力に溺れるヒトが使っていいものでもない」
「だまれ!お前に俺の何がわかる!俺は━」
「それに、『親ガチャ』って言ってたけど」
今にも泣きそうな声で喚く青柳を、兼孝は容赦なく斬る。
「それは最大限の血の滲む努力をした人間にだけ、使うことが許される言葉だと思うよ?」
青柳は返す言葉が無くなったのか、ただその場で、項垂れた。
*
兼孝は、コズミック司令部を後にした。
研究室へ戻る前に学院すぐ近くのコンビニエンスストアで、菓子パンと野菜ジュースを買った。
研究室への帰路についた兼孝は、青柳に対して言った内容を振り返る。
━少し言い過ぎたかもしれない。
━でも、ボクは間違ったことを言ったつもりもない。
「クラリスさんなら、そう言うよねきっと」
5年制コースの同期でかつ生徒会長の名前を引き合いに出しつつ、兼孝は自分の発言を保証した。
━紅葉さんはともかく、ボクはなるべくして3年制コースになった人間だからね。
━自由に研究できる今が楽しいからさ。




