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氷銀の魔女  作者:
24/24

3-4 学院の闇①

 シマ研の貝塚グループの研究室。


 秋野紅葉は、作業机(デスク)にて、たくさんの紙の文書━論文を読み込んでいる。金曜日の18時からの研究室合同セミナーの為の準備だ。


 研究室のセミナーとは、言ってしまえば勉強会のようなものである。発表者がプレゼンテーション形式で、論文内容の紹介を行い、あれやこれやで議論を行う。


 紅葉はその発表者となった。


 3ヶ月前に兼孝が発表しており、教授や研究員が次々と質問して兼孝がそれに淀みなく答えていた。


 一方で、向こうの研究室の何人かの生徒が、準備不足で怒られている光景を目の当たりにしているので、自分ができる最大限の準備をして発表に臨みたい。


「…こういう時、貝塚ってホントに頼りになるのよね…」


 貝塚グループに指導研究員がいないのは、貝塚兼孝という狂人を扱える人間がいないためである。教授陣営が不要と判断したらしい。


 兼孝は「この内容なら参考文献(リファレンス)だけじゃなくてこの辺りも目を通しておいて損はないんじゃない?」と、紅葉にアドバイスした。


「…にしても、多すぎるわー!」


 山のようにあるA4の紙を見て、紅葉はつい叫んでしまった。


 幸いなことに、論文は日本語で書かれている。化学系や古典物理系の論文のほとんどは英語である。魔法系は比較的新しい学問であり、積極的に発展させようとする動きがあるのは日本くらいである。


 そもそも、向こうの研究室のコアタイムは9時〜18時のはずなのに、18時スタートとはこれいかに。これに関しては兼孝も苦言を呈していた。


 研究室の扉が勢いよく開いた。兼孝が気分良さそうに入ってきた。


「おっはよ〜ございまぁぁぁぁす!」


 うるさい。今の時刻は15時15分である。少なくとも、おはようの時間ではない。


「どこ行ってたのよ?」


 紅葉は少しイラッとして聞いた。


「ちょっと野暮用。こないだの魔力フィルムを返してきてたんだ。『餅は餅屋だから餅屋(フィルムメーカー)に聞いてみたら?』で投げてきた」


「そ、そうなの…」


 土曜日の午前中を丸々使ったのに、なんだったんだあの時間は。


「あ、そんなことよりセミナー進んでる?」


「うん?まあ、ぼちぼち」


「紅葉さんならできると思ったから参考文献(リファレンス)にないものも選んだからね。ちょっと大変だけど頑張ってね〜、ボクは()()()()別の案件があるから、それじゃね〜」


 そう言って兼孝は研究室を出てどこかへ行ってしまった。


「アイツ、フリーダム過ぎるわ…」





 コズミック司令部。


 パブロ溝呂木は事件の後処理を行なっている。


「こーんにーちわー!」


 聞いている方まで脱力してしまいそうな声で自動シャッターから現れたのは魔法工学科の3年、貝塚兼孝だった。


「よく来たな、貝塚」


「コズミックの部隊長がボクになんの用でしょーかー?」


 兼孝はどこかワクワクした様子で聞いてくる。


「用件はふたつ。ひとつは、お前に『ハイペリオンの涙』について()()()調べて欲しい」


 兼孝の顔から笑顔が消える。


「…それは、堂ノ上理事長の命令ですか?」


 兼孝はそれまでの軽いノリを捨て、尋ねる。


「違う。俺の独断だ」


 兼孝の目が怪しく光る。ニヤリと笑った。


「…りょーかいしました。もうひとつはなんでしょー?」


 溝呂木は、ノートパソコンの画面を兼孝へ向けた。そこには、先日の魔法犯罪の逮捕者の1人、青柳の写真と経歴が映っている。


「この青柳という男は、元学院生で、貝塚、お前の2学年上の先輩にあたる」


「ほうほう」


 兼孝はいつもの、お気楽な調子に戻った。


「この男の退学前の魔力データと現在の魔力データの比較をして欲しい。魔力波が別人レベルで違っている。この2年で何があったのか、推測でいいからお前の意見を聞きたい」


 溝呂木が波形グラフを兼孝に見せた。兼孝は興味深そうに凝視する。


「この人がどういう人かはわからないですけど、強いていうなら━」


 兼孝は人差し指で眼鏡をクイッと持ち上げた。


「『怒り』……とかですかね」


「怒り……」


 意外な答えだった。溝呂木は、兼孝が感情論を持ち出すとは思っていなかった。


「怒り、とか、憎しみ……特に、理不尽な事に対して、とかですかね。強い感情がその人の魔力の性質を変化させる、みたいな事例も過去にはあったらしいです」


「なるほど、ならついて来い、貝塚」


「はぁい、オトモいたしまぁす!」

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