2-8 休日の〆
男子寮。
結局和真は、図書館に行くことは出来なかった。
図書館の利用可能時間は平日では10時から20時まで。土曜日は11時から16時まで。日曜日は閉館。
忘れていたことに気付いた時には15時51分。寮を出た時点では15時になる前くらいだった。図書館にギリギリ間に合ったとしても、ゆっくり本を探すことはできない。
━月曜日までおあずけ……
和真はモヤモヤを残したまま、日曜日を過ごさなければならない。とはいえ、どうしようもないので、脳内を切り替えて漫画でも読むことにした。麦茶をお気に入りのマグカップに注ぎ、机の上に置いておく。
「擬音が独特だな……どうやったら『ミメテァ』なんて思いつくんだ…」
誰にも届かない独り言を呟きながら漫画の一コマ一コマを凝視し、熟読。
一冊読み終わる頃には2時間経過していた。
*
昨日のリベンジで和真は、食堂のきつねうどんを注文し、会計をした後は空いているテーブルに座る。そこに祐一と竜二がやってきた。
「よーっす」「お疲れー」
2人の軽い挨拶に、和真も軽く「お疲れ」と返した。
「東条お前やったらしいな」
竜二は楽しそうに聞いてくる。数時間前の剣術部の事件のことだろう。
「…たぶん、やっちゃったかも」
和真は2人から目を逸らした。やってしまったという自覚はある。
一方その隣で祐一は興奮気味だった。
「すごかったんだぞ、3年の先輩の攻撃をひょいひょい避けてバァーンって、一撃!」
もう少しボキャブラリーどうにかならなかったのか。和真は苦い笑いしか出来なかった。
「…多分それ誇張入ってるよ」
「いいなー俺も見たかったなー、あの先輩、後輩いびりで有名らしいからなー」
「嫌な先輩を成敗する1年、めっちゃスカッとした。勧誘の断り方もきっぱりしててカッコよかったぞ」
何故か誇らしげな祐一。
「僕としては無かったことにしたいんだけどね…」
これは多分月曜日になったらクラスメイトにいじられる。そう思うと和真は、胃薬が欲しくなった。
*
深夜。
いくら濃度の高い休日といえど、深夜のトレーニングを欠かすわけにはいかない。それはユリィとの約束がなかったとしても。
トレーニングジムに向かう途中、キジトラの猫コマチが和真の後ろからついてきた。短い足でちょこちょこ一生懸命歩く姿が愛らしい。
施設に入ると、案の定ユリィが既にトレーニングをしていた。
ユリィは和真とコマチの存在に気付き、トレーニングを中断し、視線を向けた。
「……35世…」
ユリィはコマチを見てそう呟いた。
「…そう呼ぶんだ」
小野小町35世という猫の呼び方の相違に和真はつい笑ってしまった。
「……分からないけど」
アメジストの瞳にハイライトはないが、そう言うユリィの表情は少し、柔らかくなったような気がした。




