2-7 縋る瞳
ユリィは体育館での事件を遠目で見ていた。
獣の様な目を持つ者と相対する人物、東条和真に自然と視線が向いていた。
相手の攻撃を完璧に回避する和真、完璧な反撃を決める和真。
そして、
「『弱いものに刃を向け、力を振りかざす』。それが『剣術部』の理念ですか?」
そのひと言で蘇る記憶━
「感情を持つから弱くなるのだ。人を殺す『兵器』に感情など不要だ」
あまりにも残酷な声━
「フロストさんって優しい人なんだね」
和真の口から発せられた、「優しい」━
両者の声が、ユリィの中で反射し続ける。
……苦しい。息が吸えない。身体が震える。頭の中が撹拌される。
寒い。
*
ユリィは女子寮の自部屋のベッドで1人、横たわっていた。
午前の出来事。
これまでユリィは他人を寄せ付けないように振る舞ってきた。それでも近づいてきた人━
ユリィは和真が接近してくる気配に気付けなかった。猫に意識を向けていたからに違いない、とユリィは自分に言い聞かせる。
「優しい」と和真が言った。今もユリィの心に深く突き刺さっている。
痛いはずなのに、苦しいはずなのに、あたたかくて、安心感さえ覚える。
「ユリィ」と呼ぶ声すら、あたたかい。
━これは、なに?
ユリィは両手を胸に当てる。気のせいか、心臓の鼓動は、いつもより静かだった。呼吸のリズムもゆったりとしているようだった。
あの反撃を思い出す。
あまりにも完璧で、美しい。
「……もしかしたら、東条なら……」
わたしを殺してくれるかもしれない。




