2-4 連鎖の輪
暁星学院━コズミック司令部隊長室。
パブロ溝呂木は、ノートパソコンのモニターに映る人物に、未明の魔法犯罪について報告する。その人物は━
堂ノ上真聖
弱冠28歳で暁星学院の理事長を務め、コズミックの総司令でもある。非常に冷静でもの柔らかい印象を与えると同時に、冷徹な部分も持ち合わせる人物である。
「堂ノ上司令、未明の事件について報告します」
『やあ、溝呂木隊長。聞かせたまえ』
声は低く、非常に落ち着いている。口調そのものは優しいが、油断する余地はどこにもない。
「犯人は25歳の無職の男と、2年前に退学した19歳の元生徒です。
襲撃されたのは、魔法主義系政党━国民革新党の国家議員である井伊直造の別宅。
当時、井伊議員の娘とその子供が家におり、犯人達に重力魔法で拘束された模様。
現金1億円が入った金庫を盗もうとし、人質として男児を誘拐し、車で逃走を図ったところを、雪風と矢場内の2名で制圧、拘束しました」
『犯行の動機は?』
「無職の男の方は、『金が欲しかった。生活に困っていた』の一点張りですが、元生徒の方は、『《タナトス》と名乗る人物から依頼された。成功すればお前を官僚にしてやると言われた』と供述しています」
溝呂木は、堂ノ上が映っているモニターから一瞬目を資料に向け、報告を続ける。
「元生徒の名前は青柳利光。彼は成績も魔法適性もそれ程高くはなく、学内の最重要機密文書である《ハイペリオンの涙》を持ち出し、記載内容の再現を試み、退学処分となった経緯があります」
『1ヶ月前に消失した《ハイペリオンの涙》については?』
「その件に関して、青柳は知らないようです」
堂ノ上は一瞬目線を下げたがすぐに戻した。ハイペリオンの涙がどれほど危険なものかは溝呂木はよく把握していないが、堂ノ上からは焦りのような表情は見えなかった。
「この後は2名を警察に引き渡す段取りとなっています」
『…わかった。よい、ご苦労だった。雪風君や矢場内君にも休むよう伝えたまえ』
「はっ!」
堂ノ上との通話が切れモニターは真っ黒になった。溝呂木はホッと胸を撫で下ろす。
溝呂木は誰も聞いていないことを確認して愚痴を溢す。
「……何が『タナトス』だ、何が『官僚にしてやる』だ、何が『ハイペリオンの涙』だ…」
夜中2時に叩き起こされて報告書まで書かせられる身にもなってくれ、と口に出してしまいそうだった。
部隊長の役割のもう1つは、隊員のケアである。本来なら隊長である溝呂木が━相手が悪かったとはいえ━ピンチに陥った羽弥里に喝を入れるところだ。しかし、何かあった時は此人が羽弥里に説教をしているため、溝呂木が改めて言う事は無い。
羽弥里は元は学年トップで卒業しており、彼女のお転婆で、真面目な性格から、過剰にへこたれる事もなければ、反省していない事もない。むしろ、あの無鉄砲さは、此人を信頼してこそである。
「……頼もしい部下達だよ、俺の立つ瀬ねえや」
*
暁星学院 理事長室。
入口から右手には来客用のソファとガラスのテーブルが置かれ、左手にはたくさんのファイルや書物が保管されている本棚がずらーっと並び、正面には理事長のデスク。背もたれの大きい椅子に、堂ノ上は座っている。
「ハイペリオンの涙」
「君は、これをどう使うつもりかね、タナトス君」
堂ノ上は立ち上がり、窓越しに空を眺めた。
「ユリィ・フロスト、君はいつ、『鍵』となれるかね?」




