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氷銀の魔女  作者:
15/59

2-3 和真の休日②

 買い物から帰宅し、食材を冷蔵庫に詰め込むなどをした和真。時刻は9時42分。授業の復習は昼食後に予定しているため、特にすることはなかった。漫画でも読もうかと思ったが、そういえば学院内をちゃんと歩いたことなかった、と思い学院敷地内を散策する事にした。


 あまり足を運んだことがない校舎の反対側の校庭、そこには幾つかの木製のベンチがある。


 その校庭に向かう途中の曲がり角の向こう側から走ってくる1匹のキジトラの猫━


「小野小町35世?」


 小野小町35世━長いので便宜上「コマチ」と呼ばせてもらう━は、和真を見上げると、こっちへ来いと言わんばかりに角の向こう側へ軽やかに駆けていった。


 和真はコマチに釣られて曲がり角を曲がり、校庭へ向かうと、視線の先にはベンチに座っている、制服姿の銀髪の美少女。


 ユリィ・フロスト。


 そしてユリィは2匹の刺客に襲われていた━猫。真っ白な毛並みの猫と、体格の良い白と黒のハチワレの猫だ。2匹の猫はユリィの黒いタイツに包まれた細い脚に頭をすりすりしていた。ユリィ自身は無表情だったが、少し困っているようだ。


 ユリィは、コマチに視線を向けた後、ついてきた和真をじっと見つめた。表情はわからないが、助けてほしそうな目で和真を見ている。


「…1匹ずつ膝に乗せて撫でてあげたらいいんじゃないかな」


 和真は笑いを堪えながらアドバイスしてみる。その笑いは勿論、微笑ましい、という意味。


 ユリィは無言でハチワレの体格の良い猫を抱き上げ、膝に乗せて頭から臀部にかけて右手で撫でた。その猫はとてもよろこんでいるようだ。


━アザラシみたいな猫だ。


 アザラシのような猫は満足したのかどこかに行ってしまった。次に白い猫━「ユスティニアヌス」という名札がつけられていた━を撫で、最後にコマチ。


「フロストさんって優しい人なんだね」


 和真は思った事をそのまま口に出した。ユリィは一瞬目線をこちらに向けたがすぐに戻した。


「猫にあれだけ好かれるのは、フロストさんが優しい人だってわかってるんだよ」


 ユリィはそれを聞いて少し悩んだように口を開いた。


「……ユリィで、いい」


 それは許容なのか、単純に苗字+敬称が煩わしく聞こえたのか分からない。


「あなたの、名前…」


「あ、そういえば名乗ってなかったっけ、僕は東条和真」


「…東条、きのう…」


 そういえば昨晩初めて鍛錬に行かなかった事実を思い出した。


「ごめんね、ちょっと体調崩しちゃって…もう元気だけどね」


 あははと言いながら和真は右手で後頭部を掻く。


「…別に」


 ユリィは和真とは反対側に顔を向けた。


「今晩からは、いつも通りに行くからね。またあとでね、ユリィ」


 和真は、そう言ってその場を後にした。立ち去り際にコマチが「にゃお〜ん」と鳴いていた。


 次に和真は、研究棟の方へ向かってみた。自然魔法科学研究棟と社会魔法科学研究棟がある。今日は土曜日だが、建物の中には多少の人気はある。関係のない生徒が立ち入るのは気が引けるので、身体の向きを180度回転させたところ、白衣の男子生徒と紅のショートヘアーの女子生徒がいた。


 白衣の男子生徒は、胡座をかいて目の前の2メートルのフィルムのような何かを広げ、何やら考えている。


「うーん、フィルムを暁星学院ウチ独自の技術で作りたいんだけど、フィルムの厚みがバラツキすぎる。これじゃ印刷機械にかけた時にシワになっちゃう。ボクにはパルプとかの知識は持ち合わせてないんだよね」


「他の研究室からの依頼にそこまで真剣に考えなくても…」


 紅いショートヘアの女子生徒━秋野紅葉は呆れながらに言う。


 白衣の男━貝塚兼孝は、まるで力を分けてほしいと言わんばかりに両手を突き上げ、天を仰ぐ。


「いーや!紅葉さん!これは魔法の技術の発展の一歩なんだ!おお、ゴッド!プリーズ・ギブ・ミィィ・プレゼェェンツ!」


 奇声。言っている事は間違っていない。しかし、複数形で神に要求するあたり、相当バチ当たりな性格をしているに違いない。


「…なんだこいつ」


「この人いつもこんな感じだから」


 和真は思ったことをつい口に出していたようで、紅葉には聞こえていた。和真は「あ、やばい」と慌てて口を塞いだ。幸い兼孝の耳には入っていないようだった。━耳に入ってても気にするようには見えないが。


「新入生よね?私は魔法工学科3年の秋野紅葉。こっちは貝塚、またTAで会うかもだからよろしくね」


「あ、よろしくお願いします、秋野さん、貝塚さん。僕は東条和真です」


 和真は紅葉から紹介を受けたので和真も自己紹介した。


「あっ、やっぱり、キミが東条クンなんだね〜、キミ、自分が思ってる以上に有名らしいよ?今度魔力波を観測させてね〜?」


 紅葉は地面に敷いたフィルムを巻いて回収した。綺麗に巻けずに、たけのこのようになっている。


「それじゃね〜」と兼孝は手を振って研究棟へ入って行った。紅葉もそれに続き、またね、と一言。


 ……なぜかは知らないけど、どっと疲れたような気がした。貝塚兼孝は、嵐のような人物だった。

2026/1/13 改訂

「…1匹ずつ膝に乗せて撫でてあげだらいいんじゃないかな」

「…1匹ずつ膝に乗せて撫でてあげたらいいんじゃないかな」

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