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氷銀の魔女  作者:
14/24

2-2 和真の休日①

 土曜日。


 前日の金曜日に風邪を引いたため、帰宅後すぐに昼寝した影響で夜はなかなか寝付けなかった。


 いつもなら夜の鍛錬の後に、シャワーを浴びて軽く腹ごしらえして就寝する。ベッドに入ればすぐに睡眠ホルモンが活発になる。


 今回はそのルーティンから逸脱したため、寝付くまでに1時間ほどかかった。しかも睡眠貯金のせいでいつもより早く覚醒した。


 紺色のカーテン越しに見える外はまだ暗い。時間を確認するためにスマホを手に取ると、4時26分。国武院時代の親友からチャットアプリで謎のスタンプが送られていた。青いたぬきのキャラクターが「起きろー!」とスピーカーを持って叫んでいるスタンプ。送信時間は2時30分。


━イラッ。


 なんとなく癪だった和真はスマホを枕元にそっとおいて、布団を被り直し、反対側に寝返りして二度寝した。見なかったことにしよう。


 次に和真が目を覚ましたのは、7時56分。思いの外眠れた、それだけ疲労が溜まっていたのか。


 和真は、寝る前に作っておいたおにぎり1個を頬張った。ちょっと塩を入れすぎたせいでしょっぱかったが、米を噛み砕いていくうちに特有の甘みが打ち消してくれた。


「喉が渇いた……そういえばあいつ、何だったんだ?あんな時間に」


 和真は冷蔵庫から2Lペットボトルの麦茶を取り出し、そのまま一気に飲み干した。その後にスマホを取り出し、メッセージを送った。彼は国武院中等部から高等部には進学せず、一般の高校へ進学したらしい。


 話をまとめると、「彼女ができた」とか突然惚気始めたので、和真は適当に相槌を返しておいた。それを言いたいがために夜中にメッセージを送信したのか。


 買い物に行こう。和真はパーカーとジーンズを身に纏い、財布とスマホと家の鍵を持ってスーパーへ向かった。さらに少し離れたところには大型ショッピングモールである《りりぽーと》があるが、食料品と日用品にしか用はないので敢えて足労してまで行く必要はない。


 寮、学院敷地を離れて歩くこと10分、スーパーにたどり着いた。スーパーというよりはドラッグストアに近いか。和真としては目的の買い物ができればどちらでも構わないが。


 和真は、卵、レタス、じゃがいも、納豆、サラダチキン━使いそうな食品を適当に次々とカゴに放り込んでいく。レトルト食品の棚へ行くと、藍色の長い髪を揺らす少女、ゆかりと目が合った。


「あ、おはよう東条君」


「おはよう、奇遇だね」


「今日はパスタが安いから買いにきたんだ」


 ゆかりは商品棚から棒状のパスタ麺が入った袋を3個、カゴに放り込んだ。和真も同様に3個。


「でも、安いからって調子に乗って買いすぎると飽きちゃうんだよね」


 ゆかりは「うーん」と呟きながら指を顎に置いて悩む。和真は提案する。


「僕は納豆をそのままかけて食べてるよ。『納豆パスタ』はおすすめだよ」


「…それほんとに美味しいの?」


 納豆×パスタという聞いたことのない組み合わせにゆかりは訝しむような表情。確かに世間一般的には珍しいかもしれない。


「僕、納豆が好きだからわりと何にでもかけちゃうんだよね」


「そうなんだ、私、というか私の周りの人達もみんな納豆が苦手だから納豆好きな人って初めてかも。東条君って嫌いな食べ物とかないの?」


 確かに10代前半だと納豆が嫌いな人の方が多いイメージがある。ネバネバする、純粋に味が嫌い、食感が苦手、などいくらでも嫌いになる理由がある。


「…そうだなぁ、嫌いなものか、絶対に食べたくないのはシシャモかな」


「随分と限定的なものがきたね」


「食事で出される時って大体牛乳も一緒じゃん?牛乳とシシャモの組み合わせが本当に最悪で……しばらく鼻に残るシシャモの匂いがほんとに苦手で、いくらカレー味にしたとか、身体にいいとかって言われても無理なものは無理だよ」


 和真は笑いながら話していたが、途中でその匂いを思い出して鳥肌が立った。


「…嫌いなものはパッと思いつくのはその辺りかな。苦手なものはあっても食べられないわけじゃないし」


 和真は特にアレルギーを持っておらず、好き嫌いは少ない方だ。茄子も苦手だが料理として出されたらきちんと食す。


 ふふ、そうなんだ、とゆかりは相槌した。


 2人は必要なものをレジに持っていき、会計を済まし、スーパーを出た。学院寮に戻る途中、和真は話を切り出した。


「にしても北条さんも買い物するときはスーパーなんだね。女子高生って『りりぽーと』とか『カトートーカ堂』みたいにキラキラしたところで買い物するイメージだったから」


「東条君、それこそ『ステレオタイプ』だよ」


 ゆかりはうふふっ、と上品に笑い、和真もしてやられたと言わんばかりにハッハッハ!と笑った。


 学院寮にたどり着くまで和真とゆかりは、井戸端会議を継続しながら歩き、男子寮の前で別れた。

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