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氷銀の魔女  作者:
13/21

2-1 私設特殊任務魔法部隊《コズミック》

 夜中2時12分。


 多くの者が寝静まっている丑三つ時に、残念ながら出勤を強いられる人物がいる。業務用スマートフォンからは物々しい警報の様な音が鳴り響いている。緊急出動命令。


 パブロ溝呂木(みぞろき)


 私設特殊任務魔法部隊コズミックの部隊長である。理事長である堂ノ上真聖の私兵組織であり、魔法犯罪を取り締まる役割を担っている。


 業務上必要な仮眠中だった溝呂木は、やれやれと言わんばかりに指定のジャケットを羽織り、急ぎ学院の司令室へ走る。


「何事か!」


 暁星学院の司令室では、数十名のオペレーターが常駐しており、関東圏の魔力反応を24時間365日、監視している。


「ハッ!品川区の住宅地より、拘束系魔法を観測しました!」


 ケニア人の男性オペレーターが、大モニターに実際に発生した場所を地図で説明し、現場となる住宅の映像を映した。


「事案は?」溝呂木は立て続けに問う。


「犯人は2人。玄関の様子から、鈍器のような物でドアを破壊されたようです。今のところは住居侵入ですが、拘束系の魔法が使用されているため、住人に何かあった可能性が高いです」


「すぐ向かう!《シーバード》を出す!行くぞ雪風(ゆきかぜ)矢場内(やばない)!」


「「了解!」」


 溝呂木に少し遅れて駆けつけた女性と男性の名前を呼び、司令室を駆け足で後にする。


 淡いマゼンタの長髪の女性━雪風羽弥里(はやり)と、天然パーマでやや細身の男性━矢場内此人(このひと)は、溝呂木の跡を追いかける。


「全く、お盛んねぇ、犯人さん達は」


 成人男性にしては声が少し高めで、言葉遣いは女性。文末に謎のイントネーションがある。いわゆる「ニューハーフ」に属する人物である。


「深夜に叩き起こされた恨み、3倍で返しましょう!」


 品行方正と言われている羽弥里ですら、深夜に叩き起こされれば苛立つ。それは溝呂木はもちろん、此人も同様だ。


 溝呂木と羽弥里、此人はジェット飛行機にヘリコプターのプロペラと降着装置のソリを装備させたような乗りものに飛び乗る。


 この乗り物こそが、《シーバード》と呼ばれるジェット機で最高時速は1200kmを超える。名前の由来は外国の競走馬(サラブレッド)らしいがよくは知らない。


 今回は比較的に近い場所なのでそこまでの速度には達しない。5分もあれば現場に到着できるだろう。


 溝呂木は操縦席に座り、左手でレバーを引いた後、右足でペダルを強く踏み、両手でハンドルを握る。


「よーし、行くぞ!()()()()()とな!」


 ぶぉぉおおおおん!と、場所が場所ならクレームになりそうな轟音を発しながら、シーバードは静かな夜に、ひとときのオーケストラを披露し、過ぎ去っていった。


 実際のところ、発進から5分も掛からずに現場に到着した。出動命令からシーバードに乗り込むまでの時間の方が長かったのではないだろうか。

 

 現場の直上でシーバードを停止させ、着陸体制に入る。


「よーし、着陸する━」


「その必要はありませんっ!」


 溝呂木が着陸宣言する前に、既に羽弥里は、搭乗口のドアを開き、武器の薙刀を構えて、


 ()()()()()


「まーたもう、羽弥里はすぐ突っ走るんだから!」


 此人はいつもの事のように呆れながら、羽弥里を追いかけるようにタブレット端末のBIT兵器2機を飛ばす。


『落ちたほうが早いもんっ!』


 無線の向こう側で、羽弥里が無茶苦茶な主張をする。落下は移動手段と言わんばかりに。 その声は若干楽しそうですらあった。


「…俺が必要なんだけどな…」


 溝呂木は苦笑いしながら着陸の操作を慎重に進めている。





 先に落下により先行した羽弥里は、現場の住宅近くに軽々と着地した。羽弥里の辞書には、重力による「位置エネルギー」というワードは存在しない。


『犯人は2人!1人は金庫のような物を運んでるわ!もう1人は男の子を連れ去ろうとしてる!そっちは銃を持ってるかもしれないから気をつけて!」


 羽弥里は、ターゲットの住宅から逃走用の乗用車に向かう途中の犯人達を発見した。住宅は中流階級の一軒家より規模が大きく、3階建てのようだ。シャッターが開放されている車庫には、一般のサラリーマンでは到底手が届かないような高級車が停まっている。資産家が所有する物件だろうか。


 羽弥里はダッシュで男児の腕を引きずっている男に向かって「たあっ!」という掛け声とともに、ドロップキックを喰らわせた。男は盛大に弧を描いて吹き飛んだ。男児は、その場で怯えながらこちらを見ている。


 奇襲攻撃に怯んだ男は、右手を前に出す。


「動けると思うな!《グラビティ》!」


 羽弥里は、突然体内にセメントを詰められるような感覚に包まれた。


「な、なにこれ……からだが、重い…!」


 急激に襲われた強烈な「重力」に、羽弥里は薙刀を手から落とした。歩くどころか、立っていることすらままならない、1歳の幼児に戻らされる感覚。


 その隙に、吹き飛ばされていたもう1人の男が銃を取り出し、動けなくなった羽弥里を狙い、発砲━


 しかし、その弾丸は、羽弥里を貫くことは出来なかった。


 発射された弾丸は、羽弥里の数cm前を走ったレーザーによって()()()()()()()()()()()()()


 此人のBIT兵器から放たれるレーザーは、銃を持っていた男の右肩に命中し、もう1基のBITで、魔法を使用した男の右肩をレーザーで貫いた。


『今回は威力を抑えてるわ、ちょっと痛いだけだから安心しなさい、羽弥里』


「ありがとう、『ゴンさん』。助かったよ〜」


『そのあだ名で呼ぶのはやめなさいと何回言ったら分かるのよ』


 重力から解放された羽弥里は、男2人を手錠で拘束した。犯人は観念したような表情だった。


「た、助けてくれ!俺は悪くねえんだ!」


 男が許しを懇願したところに溝呂木がやってきた。人に危害を与えておいて、自分を「悪くねえ」とか言い出す輩を、羽弥里は微笑みながら眺めていたが、その目は「軽蔑」の色だった。


 

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