1-11 真相に近づく週末
同時刻。シマ研の一室。
深夜まで研究室に誰かがいる事は、とりわけ不思議な事ではない。
熱心に研究に励む者もいれば、研究に対して受け身な姿勢の者もいる。
今日は16時頃に別の研究室から研究員責任者の怒鳴り声が聞こえてきた。おそらく受け身な3年生が実験で単純な凡ミスを犯したのだろうか。
そこの研究室は、いわゆる体育会系で、夜遅くまで研究する事が美徳であり、口先ではコアタイムで帰るぞと言っておきながら、年長の研究員が居座ると、生徒も残らなければならないという暗黙の了解が存在する。
そういう背景があるため、深夜に研究室の照明が付いていることは珍しいことではない。
昼間に兼孝は紅葉にも「銀髪の新入生」の異常性を伝えていた。紅葉も小さな違和感を抱いていたようだが、兼孝に言われてようやく言語化できたようだった。
「表情が見えない」。それも確かにそうだが、兼孝が危機感を覚えていたのはそこではない。
部屋の蛍光灯もつけずに暗闇の中で兼孝は1人、パソコンの画面をじっと眺める。
右手でマウスのスクロールを上下させながら1人、呟いた。
「…やっぱり」
━人間の範疇を逸脱している。
画面にはその新入生の体力測定の結果。
50m走、反復横跳びなどの記録、それらの記録から算出される能力数値━腕力、脚力、瞬発力など。
歴代の卒業生の、それらの最大値の全てを凌駕している。
中でも興味深いのは魔力適性。測定不能という4文字。
「…ほーぅ」
兼孝は不気味な笑みを浮かべた。しかし、その目には一切の笑みはなかった。
「魔力適性検査は本人の魔力波の通過波数と振幅のばらつきを測定し、歴代生徒の平均を100とした時の相対指標。それが『測定不能』な理由として考えられるのは━」
━適性値が「ゼロ」か、もしくは無限大か。
前者であればこの学院に入る事は出来ないはず。堂ノ上理事長が見込んだ人物だとしたら、後者と考えるべきだろう。
━では適性値が無限大とは。
「理論上有り得るのは、魔力波の波長が限りなくゼロ━」
魔力波も古典物理学の「波」の性質に準拠していると考えられている。
では、「波長がゼロ」になるパターンとは?
兼孝にはひとつだけ心当たりがある。が、それは確率的に非常に、非常に薄い。類似例が掲載されている論文を探す。
検索リストから片っ端から1ページずつ殴り読み。
…こんな事をしていたらまた徹夜になっちゃうよ、と兼孝はボサボサ頭を掻き乱す。また紅葉に小言を言われる。
「コントロール!コントロぉぉオル!」
突然奇声を発したところ、隣の部屋から「おい!うるせぇよ!」という怒鳴り声のクレーム。
「はあーい、ごめんなしゃあ〜い」
兼孝は悪びれずに謝罪。パソコンの電源を切り、暗闇の研究室を後にした。




