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氷銀の魔女  作者:
11/33

1-10 無茶の代償

 体力測定の翌朝、和真の体調に違和感があった。鼻水が止まらない。体温を測ってみたところ、37度3分。


 The 風邪。


「…ちょっと無茶しすぎたかな…」


 前日に作っておいた朝ご飯のおにぎりを頬張り、市販の風邪薬を服用した。


 10数年前の世界的なパンデミックの頃の影響もあり、マスクを着用して1限目の講義室へ向かう。講義室に着く頃には少し楽になった気がする。


 祐一、竜二、ゆかりと目が合い、おはようと朝の挨拶。


 マスクをした和真の姿を見て、祐一が口を開く。


「東条お前どうした?風邪でも引いたのか?」


「…まあね」


「まさかお前、あれだけやめとけって言ったのにトレーニングしたのか?」


 竜二は、マスクをした和真を見て、やっぱりといった顔をしていた。呆れる準備をしながら和真に尋ねた。


「…うん」


 和真はバツの悪い顔をして肯定。


「無茶の代償だな」と祐一。


「あんだけやめとけって釘刺したのに」と竜二。


「東条君ってホントにバカ真面目だね」とゆかり。


 ボロクソ。しかし、和真には、反論する材料も無ければ、言い訳をする体力的な余裕もなかった。


 時間が経過し、放課後。


 少し身体がだるいので、真っ先に寮に戻る。祐一やクラスメイトには「じゃあね」と、相手の返しを待たずに講義室を後にした。


 廊下を歩いていると、向こうからユリィが歩いてきた。すれ違いざまにユリィは、和真に顔を向け、何か言いたげな目をしていたが、すぐに前を向き直し、そのまま歩いていった。


 寮の自部屋に到着し、和真はベッドにダイブした。


 15時38分。


 スマホの時計を覗きこみ、時間を一旦確認した和真は、制服のジャケットとズボンを脱いで、布団にくるまって泥のように眠った。


 軽い風邪で寝込んでいた和真が目を覚ました時には外がすっかり暗くなっていた。


 頭がスッキリした。風邪どころか、身体の疲労も吹き飛んだ気がした。しかし、和真は、強烈な空腹に襲われた。


 今朝は弁当を用意する余裕が無かったので、食堂で昼食をとる事にしたが、結局体調が芳しくなく、ご飯やおかずを食べることが出来なかった。豚汁だけをトレーに乗せてレジの会計に向かう和真の姿に、クラスメイトは苦笑いしていた。


 まだ時間が許すなら、晩御飯は食堂のきつねうどんにしようかと思い、スマホで時間を確認する。


 19時58分。


 これはダメだ。食堂は20時まで。今からでは流石に間に合わない。


 和真は諦めてコンビニエンスストアで食べ物を買いに行くことにした。学院の敷地外の片側1車線の車道の向こう側にあるため、横断歩道の信号待ちを考慮しなければ、冗談抜きで徒歩1分もかからない。


 和真は、暁星学院に来てからはコンビニを利用した事はないので何気に初めてだ。


 夜のコンビニで買い物をする特別感に浸りながら横断歩道を渡り、コンビニに入店する。


 入店した時の愉快な音楽と、店員の絶妙にやる気のなさそうな「いらっしゃいませ」に迎えられた。学院の生徒と思われる男子や、仕事帰りのOLなど、利用客は三者三様。


 和真はスパゲッティミートソースとサラダをレジに持っていく。スパゲッティを温めてもらいつつ会計。


 少し割高だったが、和真は、ミートソースのいい匂いと謎の高揚感に包まれながら自部屋に戻った。


「今日は流石にやめとこうか」


 毎晩欠かさずにこなしてきた鍛錬。また風邪をぶり返すかもしれない。


 視界の端に、銀色の「何か」が通ったような気がした……。





 静かな夜。


 23時45分。

 

 トレーニングジムはいつも以上に静かだ。毎晩同じ時間に来ている和真はなかなか来ない。


━そういえば、放課後すれ違った時、顔色が悪そうだった。


 本当であれば「大丈夫?」と聞きたいくらいだった。しかし声を掛けるハードルがとんでもなく高かった。


「…あの人、今日はいない…」


 元々1人でいる事に慣れていたユリィは、毎晩当たり前のようにいる和真がいないことに妙に違和感があった。


 寂しいわけではない。決して。

 

 しかし、やはり何かが欠けているような気がした。

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