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魔王を倒した元勇者、女に戻ったら今度は聖女になれと神様に言われました  作者: 彩賀侑季


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3 交易都市バラカス


 もうすぐバラカスに到着する――その直前に異変が起きた。急に馬車が止まり、御者台から空気が抜ける音がしたのだ。


「――嘘」


 セレナは御者台を覗き、絶句する。御者台の人形が中身がなくなったかのようにつぶれていたのだ。


 慌てて人形を持ち上げるが、ただの布切れと化してしまっている。


「い、いったい、どうして!? まさか、大賢者様から離れすぎたせい……?」


 考えてみれば、他の魔法も術者から距離が離れれば効果が切れてしまう。


「だから、大賢者様は人形とは別の護衛を雇おうとしたのか――ってか、それならそうと説明してくればよかったじゃん!」


 セレナは布切れを乱暴に荷台へと移動させる。いなくなった御者の代わりに御者台に座り、ハッと気づく。


(これじゃあ、護衛を雇わないと帰れない――!?)


 もし、バラカスで護衛を雇わずに一人で帰る場合。セレナが一人で馬車を御す必要がある。その時に野盗や魔物に襲われたらひとたまりもない。


 もちろん、大賢者に言われた通り、護衛を雇うつもりはある。しかし、いい相手がいなかったら無理して雇わずに一度帰るという選択肢がなくなった。とても追い込まれた気分になる。


(い、いや、大丈夫。バラカスはすごく大きい都市だし。護衛の一人や二人ぐらい、簡単に見つけられる)


 セレナはくらくらとする頭で、なんとか馬車を城門へと向かわせる。


 そこでは騎士たちが訪問者の通行審査を行なっていた。


 セレナは騎士に、神官の身分証となる水晶製の護符(アミュレット)を見せた。見覚えのない女神官がハルミナ神殿の人間と知ると、二十歳前後の金髪の騎士が意外そうに呟く。


「マリーさんとユースさん以外にも神官がいたんだね」

「は、はい。少し前からお世話になっていまして。今日は少し買い出しに来ました」

「一人で? 道中大丈夫だったかい?」


 金髪の騎士は心配そうに言う。


「最近、街道で魔物に襲われたって話もチラホラ聞く。帰りは騎士団に声をかけてくれ。巡回のついでにハルミナ神殿まで送り届けよう」

「間違っても傭兵ギルドに助けを求めるんじゃないぞ。あそこは法外な金を要求してくるからな」


 三十代くらいの灰色の髪の騎士が豪快に笑う。


 昔から騎士団と傭兵ギルドは相容れない。まさか、そこで傭兵を雇おうとしているなんて口が裂けても言えない。


「ア、ハハハ。あ、ありがとうございます……」


 セレナが苦笑いを返すと、金髪の騎士が何かを思い出したように口を開く。


「ああ、でも、今は――」

「やめとけ」


 鋭い声で制止したのは灰色の髪の騎士だった。


「今はもう、駄目だ。変わっちまったよ。他の傭兵たちと一緒さ」


 ただならぬ空気に、セレナは二人の騎士の顔を見比べる。不安そうなこちらの視線に気づくと、灰色の髪の騎士が笑う。


「何でもないさ。さあ、気をつけてな」


 少しだけ後ろ髪引かれながらも、セレナは城門をくぐる。そうして、交易都市バラカスに足を踏み入れた。


 街には多くの人と馬車が行き交っている。セレナは城門近くの厩舎に馬と馬車を預けると、神殿長に書いてもらった地図を頼りにセレナは目的地を目指す。


 そこは先程騎士に『助けを求めるな』と忠告された場所――傭兵ギルド。対価を求められる代わりに、何でも仕事を引き受けてくれるところだ。


(大丈夫。お金は大賢者様から預かってきたし)


 服の下に隠した財布に触れて確認する。


 その中には三十枚もの金貨が入っている。一般市民が五年は遊んで暮らせる額だ。これがあれば、護衛を雇えないということもないだろう。


 そうして、セレナが辿り着いたのは『傭兵ギルド』と大きな看板を掲げた、少し古びた建物だ。


 屈強な男たちが出入りするのをしばらく遠くから見守る。そして、覚悟を決め、その扉をくぐった。


 そこは半分酒場のような場所だった。


 室内の左半分側にテーブルや、料理や酒を提供するカウンターがある。右半分がギルドの役割をしているようで、壁一面に依頼を貼る用の掲示板が貼られ、奥には受付らしき場所があった。


「す、……すみません」


 戸惑いながらも、セレナは受付に座る女性に声をかける。


「あの、護衛をしてくれる人を雇いたいんですけど……依頼って出来ますか?」


 それまで何か仕事をしていた女性はちらりとこちらに視線を向ける。それから、無表情のまま、機械的な口調で問われる。


「――どのランクの傭兵をご希望ですか?」

「ラ、ランク!?」


 耳馴染みのない言葉に、セレナは聞き返す。受付嬢は淡々と事務的に答える。


「当ギルドでは、傭兵をFからSでランク付けをしています」

「えっと、守ってもらえるなら、ランクとかなんでもいいんだけど……」

「では、目的地はどちらですか? 期間は?」

「も、目的地……期間……」


 そう問われて、セレナはやっと自分が何一つ具体的な依頼ができないことに気づいた。


「……な、何も、決まってないです」

「期間未定、目的地未定ですね」


 受付嬢を算盤を叩き、静かに告げた。


「依頼金は金貨七十枚になります」

「そ、そんなに!?」


 とんでもない金額にセレナは衝撃を受ける。受付嬢は淡々と説明する。


「ご依頼の内容ですと、請け負えるのはCランク以上の傭兵です。高ランクの傭兵へと依頼にはその分料金の上乗せがあります。長期間の拘束の可能性あり、遠方への派遣の可能性ありとなると、保証金も必要になりますので」

「あ、後払いとかってできる? あるいは分割とか……」

「全額前払いのみです」


 ――詰んだ。完全に詰んだ。


 セレナは、意識が遠くなりそうになるのを必死に堪える。


(ど、どうしよう。予算オーバーだなんて想定外だ! 一旦ハルミナ神殿に戻るべき!? でも、神殿に戻るのも護衛がいなきゃ危険だし、そのために大賢者様のお金を使うのも後で怒られそうだし――)


 百面相するセレナを、受付嬢は無表情に見つめる。背後から声がかかったのはそのときだ。


「お嬢ちゃん」

「――へ?」


 セレナは振り返り、真後ろに人が立っているのに気づいた。


 二メートルを超える大男だった。背だけでなく、横幅も大きい。髪は剃り上げ、人相はひどく悪い。


 きょとんとしばらく大男を見上げていたセレナだったが、ハッと気づいて横にずれる。


「ああ、ごめんなさい。お急ぎなら、お先にどうぞ」

「いや、並んでたわけじゃねえよ。オレはお嬢ちゃんに用があるんだ」

「――私?」


 セレナは首を傾げる。男はニヤリと笑い、懐から出した金属のプレートを見せてきた。


「護衛を探してるんだろ。オレはBランクの傭兵だ。その依頼受けてやってもいいぜ」


 プレートは(シルバー)製のもので、ランクを表すだろう「B」という文字と「Doran(ドラン)」という名前が刻まれている。


 思いもよらぬ申し出に、セレナは困惑する。


「でも、今の手持ちじゃ依頼はできないって……」

「そりゃあ、ギルドを通しての依頼はな。個人間での依頼は別さ。相手が金額に納得して受けるとなりゃ、ギルドも口出しはできない」


 その言葉にセレナは受付嬢を振り返る。彼女は手元の書類に視線を落とし、別の仕事を始めている。まるでこちらに興味がないようだ。


 セレナは再び目の前の男に視線を戻す。


(すごく助かる提案だけど……)


 だが、美味い話には落とし穴があるもの。喜んで話に飛びついて痛い目を見たくはない。


 じっとドランを見つめる。


 元勇者として、セレナもそれなりの経験と場数を踏んでいる。人を見る目も、危険を嗅ぎ分ける感覚も、人よりは優れていると自負している。


 そして、セレナは困ったような笑顔を作った。


「――ごめん。申し出は大変ありがたいんだけど、……私も人に頼まれて来たんだ。その時に『ギルドを通すように』って言われてる。勝手に決められないよ」


 元勇者の勘が告げている。この男は信用できない。だから、もっともらしい嘘をつく。


「本当にごめんね。じゃあ、私は行くから」


 本当はもう少し受付嬢から話を聞きたかったが、これ以上ここにいるのは危険かもしれない。――そう思っての判断が、もしかしたら、逆にドランを刺激したのかもしれない。


 勢いよく何かが伸びてくる気配を感じた。瞬間、後ろに下がり、それを避ける。振り返ると、苛立ちを抑えるように笑うドランの姿があった。


「せっかくの親切に、それはないんじゃねえのか?」


(――ヤバ)


 そう思ったものの、背後は受付のテーブル、右手は壁だ。逃げ場がない。とっさに腰に手を伸ばしてから、今はもう佩剣していないことを思い出した。


 再びドランの手が伸びてきた。今度は避けられず、腕を掴まれる。手加減なく握られ、その痛みにセレナは顔をしかめる。


「痛い痛い! 離してよ!」


 本当は我慢できる痛みだが、周囲にアピールするためわざと大声を上げる。


 しかし、助けに入ろうと動く者は誰もいなかった。酒場スペースで酒を飲む傭兵も、背後の受付嬢もだ。こちらを気にする素振りを見せる者はいるが、どこか緊張した面持ちで視線をそらすだけだ。


(――何で、無視するんだよ!)


 ここにいるのが騎士なら、若い娘が男に絡まれてるとなったら即座に割って入っただろう。――金がなければ動かない。それが傭兵というものなのかもしれない。


(クソッ)


 勇者だった頃なら、大男に腕を掴まれた程度なんとでもできただろう。しかし、女に戻った今、ドランの腕を払うほどの力はない。こんな室内で無闇に攻撃魔法も使えない。


 女に戻ってから、何の鍛錬もしなくなったことを後悔する。もっと力があれば、この程度の相手、何の問題もなかったのに。そのことがとても悔しい。


 ドランはニヤニヤと、下卑た笑いを浮かべる。


「大丈夫。悪いようにはしねえよ。ちゃんと他のヤツらからは守ってやるからよ。心配しなくても」

「――おい」


 ――声が割り込んできたのはそのときだ。


 ドランが勢いよく振り返る。その巨体の後ろに、――目深にフードを被った人影があった。


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