第8話 相変わらずのナンパ男
1ー2に入りました。
結局ブレットは凝りません。
僕は冒険者ギルドに足を運んだ。
今日からいよいよ、新天地での冒険者活動が始まる。
そんな期待と不安が絶え間なく包み込むが、僕は全身全霊で楽しむ。
「よし、頑張るぞ!」
僕は冒険者ギルドの扉を開いた。
二回目の最初の一歩を踏み出す。
そんな僕を待っていたのは、凄まじい空気だった。
「こんにちはー……うおっ、今日は人がたくさんいる」
この間来た時とは明らかに違っていた。冒険者の数が増している。
逆にあの日が異様に少なかったのか、僕は活気溢れる冒険者ギルドに歓喜した、
「凄いな。強い気配を感じる」
この気配の正体は殺気だ。
常に出している訳ではなく、体の内側、魂に宿っているもの。
それが人間の中に流れる魔力と結びつくことで、オーラとして放出されていた。
もちろん強いオーラにはそれだけで相手をビビらせる力がある。
僕は師匠達との厳しい修行で、それを経験済み。
あの頃を思い出されると、あまりにも弱々しいのだが、王都の冒険者はオーラ=殺気の質が高い。
「凄いな。これが王都の冒険者ギルド」
僕は達観してしまい、ふとこの空気感に浸ってしまう。
立ち尽くして見ていると、ふと聞き慣れた声、見慣れた光景があった。
「なぁなぁ、ネシアさん。俺とデート行かねぇか?」
「行きませんよ、ブレットさん」
「ならよ、飲みにとか行かね?」
「いえ、私はあまりお酒に強くないので」
「酒じゃなくてもいいからよ」
「小食なので、一人分の食事で充分ですので」
ブレットはネシアを食事に誘った。だけど断られる。
お酒を飲みに誘っても、丁寧に断られる。
お酒が飲めないからと、別のものを提案しても、上手い具合にネシアは断った。
まさしく、究極のスルースキルの達人だよ。
「アレは、ブレットと……ネシア」
そんな姿を僕はシッカリと視界に収める。
まさかこんな姿を二度も見るなんて、想像もしていなかった。
いた、想像はあまりにも固くなかった?
「うわぁ。またやってるよ、ナンパ」
しかもしつこいナンパだった。
ネシアはもっと怒ってもいい。
だけど冒険者ギルドの職員として、冒険者のことを無碍にはできない。
手を挙げても敵わないから、ネシアは耐えるしかなかった。
「なぁなぁ、ネシアさーん」
「それよりブレットさん、依頼書の提示をお願い頂けませんか?」
「そんなのねぇよ。俺はネシアさんと話をしに来たんだぜ」
「ではお帰りください、ブレットさん」
「もう、釣れねぇな~、ネシアさんは」
正直見ているのも鬱陶しい。そんな気持ちになってしまった。
僕はスルーしようかなと迷ったけれど、ネシアは凄くいい受付嬢。
ましてやブレットもこの街に来て最初に知り合った冒険者。
簡単に縁を切ってはいけないと思い、僕はマジで困った。
「あれ、止めた方がいいのかな?」
正直、ネシアのスルースキルがあれば、何とかなりそう。
こんなことは冒険者ギルドの職員として日常茶飯事。
一介の冒険者風情が、毎度毎度関わってはダメだと思った。
「いや、止めた方がいいよね?」
だけど僕は止めに入ろうと思った。
この間と同じやり方が通じるかは分からない。
それでも行動あるのみと一歩足を前に出すと、周りの様子が気になる。
「みんな止めようか、止めまいか、迷ってるみたいだけど……」
ネシアのことをしつこくナンパするブレット。
その姿をジッと睨み付ける冒険者達の姿。
完全にブレットのことを忌々しく思い、ネシアのことを守ろうとする親衛隊。
そんな感じ? に見えてしまうと、ブレットの今後が心配になった。
「うーん、どうしたらいいのかな?」
僕は迷ってしまい、動けなくなってしまった。
その瞬間、冒険者ギルドの扉が徐に開かれた。
眩しい太陽の光が射し込むと、ツンとした声が響く。
「全く、またやってるわね」
「えっ?」
突然背後から声が聞こえた。
おまけに凄まじい気配で、僕は背中をピシッとする。
流石にビビったりはしないけど、師匠達の気配を直に喰らっていなかったらヤバかった。
もしかすると、ほとんどの人は気が付かないかもしれない。
けれど僕は気が付ける。相当気配には敏感に感じ取れるように修業した。
おかげで何となくだけど経験値が分かる。
相当場数を踏んで来たに違いない。その証拠に、床に映る影も大きい。
巨大な武器を持っている証拠で、確実に前衛を張る攻撃役だ。
「しょうがないわね。ちょっとブレット、またネシアにナンパしてるの?」
声からして多分女性。僕とそんなに変わらない歳。
床をトントコ軽やかに進むと、その影が大きくなる。
僕は一体どんな人なのか興味を持ち、その場で立ち尽くした。
「一体どんな冒険者が……えっ?」
僕はビックリして声を上げてしまった。
それもその筈、想像もしていなかったからだ。
「ブレット、いい加減にしなさいよ。ネシアが困っているでしょ?」
ブレットを叱り付けるのは少女だった。
しかも僕と同い歳くらいの予想は当たっている。
いや、歳だけじゃない。なんだか背格好ももの凄く似ていた。
「この人が、さっきの……」
正直意外でしかなかった。まさかここまで強烈な殺気を放てる同い歳くらいの少女に出会えるなんて思わなかった。
しかも背負っている武器。多分大剣……その中でも太刀って奴だと思う。
師匠達に聞いたことがあるけれど、アレは四尺刀って奴だ。
実物を見るのは初めてだけど、あんな小柄な少女が背負っているなんて。
本当に使いこなせるのだろうか? 僕は自分にはできないからこそ、興味津々になる。
「本当、王都の冒険者ギルドは格が違うよ」
王都の冒険者ギルドは、他の街とは明らかにレベルが違っていた。
僕は素直にそう思うと、少女のことを視線で追った。如何やってブレットを叱り付けるんだろう。下手に手を出すとヤバそうなので、僕はご愁傷様と見守った。
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