第67話 ヒーローは遅れてやって来る
本当にヒーローのような強さです。
マズい。完全にマズいことになった。
僕達はたった三人でコボル洞窟を目指す。
ほとんど全速力に近くて、余裕はあるけれど、とにかく急いだ。
「もう、なんでこんなことになるのよ」
悪態を付いたのはエメラルだ。
予定時間よりもかなり遅れてしまっている。
元々別同隊として向かう予定だったが、これはあんまりだ。
「僕は時間通りに集合していたよ?」
一応僕は関係無いとアピールする。
するとエメラルはクロンの方をチラリ。
視線を泳がせるクロンは「ごめん」と謝った。
「クロン、なんでこんな時に夜更かししたのよ」
「ごめんなさい」
「謝るんじゃなくて……作っていたんでしょ、対抗策になるポーション」
クロンは只の黒魔法使いじゃない。
ポーションも作れる優れた魔法使いで、Bランク冒険者。
ただし熱中しすぎるがあまり、興みたいに夜更かしをして、集合時間に間に合わなかった。
目の下に隈が出来ており、とても酷い状態だ。
「はぁー、これ絶対に怒られる奴よね?」
「だろうね。多分今頃戦闘中かな?」
完全に遅刻、恐らく今頃戦闘中だ。
この状況で参上しても、変な顔をされかねない。
突入している可能性もあり、正直出番は無いと思った。
「アッシュはともかく、グリムロはうるさいのよね」
「あはは、仕方が無いよ」
「仕方が無いって……そうね、行動で示せば解決よ」
エメラルは一応世間体を気にしていた。
溜息を付いてしまったものの、そこからすぐに切り返す。
行動で示すと覚醒すると、その意気だと背中を押したくなった。
でも、そんなことをする前に、鼻腔をくすぐった不快なニオイに躓く。
「ん?」
「どうしたのよ、オボロ?」
つい足が止まってしまった。
今一瞬だけ変なニオイがしたのは気のせいか?
エメラルとクロンが心配すると、僕は鼻を使う。
「いや、今漂ったこのニオイは……血かな?」
立ち止まった僕が受け取ったニオイ。
独特な甘みと漂う不快感。
心臓の鼓動がバクバクと鳴り響き、サイコパスの狂気が覚醒しそうになる。
間違いなく、僕はこのニオイを知っていた。
「血? 体液でしょ、魔物の」
「うん。魔物から出たもの」
「ううん、このニオイは人間の血液だよ。間違いない」
エメラルとクロンは眉間に皺を寄せていた。
信じてくれないのは分かっている。
とは言えこのニオイは間違いなく人間の血液。
あの殺伐としたサイコパスの村で生活して来た僕だ。
間違える筈が無いと豪語する。
エメラルとクロンも鼻を鳴らした。
何とか薄っすら漂う血液のニオイを探ろうとする。
「どんな嗅覚よ。全然臭わないわよ?」
「うん、しない」
「僕は慣れているんだよ。それより、これってよくないよ」
エメラルにもクロンにも分からない。
普通の人間はそうで、僕だからこそ気が付けた。
間違いなくコレは人間のもので、漂うってことは恐らくマズい。
「そうね。オボロの言うことが本当だとしたら、かなりマズい状況かもしれないわ。急ぐわよ」
「あっ、待ってよ、エメラル」
「えー、走るのー」
一応僕の言うことは信じてくれたらしい。
エメラルは色々思考すると、急いで応援に向かう。
急に走り出すと、僕は何とか付いて行く。クロンは悲鳴を上げると、全身を使って走っていた。
「多分この先……はっ!?」
トロン森を全速力で駆け抜ける。
この道の先に待ちに待ったコボル洞窟がある。
もう少しで木々のアーチを抜ける。見えて来る筈だと思った矢先、エメラルは立ち止まった。
それに僕とクロンも立ち尽くすと、目がいいせいで気が付いた。ヤバい光景が広がる。
「はっ、どういうことよ、これ!?」
声を上げたエメラル。分からなくはない。
五十人近い冒険者達が苦戦を強いられていた。
相手は大量のコボルト達で、数的有利が完全に潰されていた。
「クソッ、数が多いな」
「キャァァァァァ!」
「ナイア!? クソッ」
アッシュはパーティーメンバーを助けに向かう。
戦闘に適したパーティー構成をしているアッシュのパーティーが、ここまでジリ貧に立たされるとは想定外。
「唸れ、風神の槍。ウィンドランサー!」
グサリ! 風を纏ったグリムロの一撃。
地面を蹴って、突撃を繰り出す。
コボルトの体を貫くと、その流れで他のコボルト達も薙ぎ払った。
「はぁはぁはぁはぁ……数が多いよ」
グリムロは汗を掻いていた。
額を拭いつつも、クルンと槍の柄を手回す。
息を荒げながらも、何とか相手をし続けていた。
「みんな頑張れ頑張れ!」
ハピラスは冒険者を応援し続けていた。
更にその後ろでは魔法使い部隊が構えている。
「「「放て、火球の礫。ファイアボール!!!」」」
魔法使い達はファイアボールを放った。
幾つもの火球が宙を舞い、コボルトを焼き払っている。
黒炭になってコボルト達を消滅させたものの、まだまだ数が多い。
「どうするの? このままだとやられるよ」
「そんなの決まってるでしょ。助けるわよ!」
僕とクロンはエメラルをチラ見した。
この状況を制するのは、正直骨が折れそう。
遅れてやって来た僕達が活躍するには絶好の機会でもある。
「クロン、魔法で援護して。オボロ、私と一緒に数を減らすわよ」
「うん、縛れ。ブラックバインド」
エメラルの指示は的確だった。
最小の言葉で指令を送り、僕も応答する。
お互いにコクリと首を縦に振ると、先に動くのはクロンだ。
「バウワッ!?」
赤い舌をダランと垂らしたコボルト。
腰が抜けた女性冒険者を陰湿に狙う。
多分意味はない。けれど本能的に、目の前の敵を倒したいだけだ。
「な、なに、急に動きが止まった?」
「この魔法は……クロン!」
女性冒険者を襲うコボルト。
獣の涎塗れになり、馬乗りにされていた。
怖がっている所にクロンの魔法が炸裂。
コボルトの身動きを封じて引き剥がす。
「うん」
「ってことは……」
コクリと首を縦に振るクロン。
応答してみせると、クロンの存在が更に大きな意味を持つ。
エメラルの存在が勇気付けると、太陽は舞い降りた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「それじゃあ、やっちゃおうか」
四尺刀を地面に突き付け、パンと跳んだエメラル。
渾身の蹴りを繰り出すと、コボルトの背後から回し蹴る。
首の骨を折って絶命させると、ドンと地面に下りた。
その横で僕は赤と青の短剣を手にする。
クルンと手首で回し、蝶が舞うみたいにトンと地面を蹴る。
軽やかな動きで舞うと、コボルトを最小の動きだけで倒す。
コレだとテンションが上がらないが、コボルト程度には充分だった。
「ふぅ。エメラル、まだ数は多いよ」
「そうね。……ちょっと、この程度でへこたれているんじゃないわよ!」
空気を肺一杯に吸い込むエメラル。
怯んでいる、疲労で体の動かない冒険者達。
全員に対して、この場を支配する罵声を浴びせる。
「エメラル、やっと来たのか」
「待たせたわね。それよりどういうこと?」
「次から次にコボルトが出て来るんだ。切りがないよ」
「そうみたいね。ふぅ……とにかく、今はこの状況を少しでも改善させるわよ。全員踏ん張りなさい、いいわね!」
発破を掛けるエメラル。この場面だと、エメラルの存在は太陽よりも偉大だ。
熱くて勇気を貰える。それだけではなく、エメラルの言葉には力がある。
弱り防戦一方だった冒険者を立ち上がらせると、迫り来るコボルトの脅威に迎え撃った。
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