第64話 ライムの作戦には乗れない
明らかにライムはヤバい。
会議がようやく終わった。
三十分も経っていないのに妙に疲れた。
ドッと全身から汗が出たのも束の間。
「悪いけど、私達は討伐隊には加わらないわよ」
「えっ!?」
エメラルはネシアにそう宣言した。
僕とクロンも同意で、首を縦に振る。
討伐隊を編成するとは行っても、流石に参加出来ない。
「どうしてでしょうか、エメラルさん?」
ネシアは驚かされてしまった。
エメラルなら討伐隊の要請には下ってくれる筈。
そう思っていたみたいだけど、残念。今回に限れば無理だ。
「そうね。確かにコボルトをこのまま野放しにはできない。それにネイルのことも心配で、助けに行く気は満々よ」
「では何故ですか!?」
「そうね……」
現状、コボル洞窟を放置するのは危険だ。
このまま野放しにはしておけないものの、如何してもエメラルは視線を落とす。
ネイルは不可解な行動を見せるエメラルに問い掛ける。
「ライムさんの作戦には乗れないのよ」
ライムの提案には乗ることが出来ない。
結局はそれだけの話で、ネイルを前にして堂々と口走るエメラル。
僕もクロンも同感で、ライムの作戦には興じれない。
「ギルドマスターの作戦にはですか?」
「ええ。冒険者にとって、信頼は大切なの。でも今のライムさんには信頼を寄せることができない。だから無理なのよ」
驚くのも無理は無かった。でもこれは仕方の無いこと。
冒険者にとって、信頼や信用はとても大切な要素だ。
でも王都の冒険者ギルドでマスターを務めるライムが、あれだけ不信感をあらわにし、信頼を損ねるようなことを口走った。
訂正はしたものの、見え隠れした悪意ある闇が如何しても邪魔をする。ライムには乗れない。そう思わされるには充分過ぎた。
「ごめんなさい、ネシア」
「エメラルさんがそう思ってしまったのは、ギルドマスターの不義理が原因なんですね」
「そう言うことよ……でも、私達もこのまま黙ってはいないわ。ネシアのことが心配なのは変わりないから、別行動で向かうわ」
ギルドマスターの働いた不義理を解消しない限り、ライムに手を貸せない。
エメラルもエメラルなりに決めた答えで、僕達はパーティーメンバーとして従う。
〈《眩き宝石》〉全体の指針にもなりそうだけど、多分エメラルを信頼しているからこそ、ライムよりも優先する。
「分かりました。ではそう伝えておきますね」
「ありがとう、ネシア」
「いつもお世話になっているエメラルさんの頼みですから信じています」
ネシアの方も納得してくれたらしい。
変に止めたりはせず、エメラルに絶大な信頼を寄せている。
これもエメラルの人間性が見せた結果で、僕には真似出来なかった。
「エメラル、本当によかったの?」
「いいわよ。オボロも気が付いていたでしょ?」
「まぁね。あのままライムさんの言葉に乗ると、変なことに巻き込まれそうな気がしたからね」
如何しても僕もライムを信じられなかった。
エメラルとクロンは互いに目を合わせると、「分かっているのね」と納得する。
お互いに想いが伝わり合うと、僕達は速やかな行動を急いだ。
「それじゃあ行くわよ」
「うん。僕達も僕達なりに準備しないとね」
「なにかポーションを用意しないと」
「そうよね。時間は惜しいわ」
僕達も僕達なりに行動に移った。
クロンは何かポーションを用意するみたい。
エメラルはそれを手伝いそうだけど、僕も何かした方がいいかな?
色々考えてしまうが、こうしている時間が惜しいから、冒険者ギルドを後にしようとした。
「エメラル」
「なによ、ベルト?」
周囲の騒がしさに隠れて、冒険者ギルドを後にしようとした僕ら。
そんな中、突然声を掛けられてしまった。
振り返ってみると、そこにはマフラーとラッシュに支えられるベルトの姿があった。
「大丈夫、その腕?」
「ああ、なんとかな」
エメラルが真っ先に心配したのはベルトの左腕。
包帯でグルグル巻きになっていて、痛々しさが伝わる。
完全に太い骨を折っているようで、指先も変形していた。
特に酷いのは人差し指で、回復魔法が間に合わなかったのか、なかなか戻らないだろう。
「だが、今のコボル洞窟は危険だぞ」
「そんなこと分かっているわ。けど、ネイルを助けたいでしょ?」
「「……」」
如何やらコボル洞窟に向かう僕達を心配してくれているみたいだ。
だけどネイルを助けたい気持ちがヒシヒシと伝わる。
当人であるマフラーとラッシュが申し訳なさそうに視線を泳がせると、「そうか」とベルトは答える。
「悪いな、うちのリーダーのために」
「別に構わないわ。それにネイルに助けられてきたのは、私達も同じでしょ?」
会議中は散々なことを言ってしまった。
〈《黒牙の影》〉は重宝と暗殺が中心のギルド。
ほぼ唯一と言ってもいい、冒険者の顔であるネイルは、様々な情報を持っている。
それが明るみに出ないためにも、ネイルを救出したい……なんていうのは、結局建前だった。
本当は冒険者として、いつも通りの生活がしたい。
常に死と隣合わせの生活を送っているので、心身共に擦り減っている。
だからこそ、大切な同業者の命を簡単に失いたくはない。
そう思わされると、建前なんてものは関係無かった。
「優しいね、エメラルは」
「うん」
僕はクロンと耳打ちし合った。
ツンツンした口振りとは全く裏腹。
ネイルを助けたい気持ちを前面に押し出すと、ベルトは笑った。
感謝を伝えているようで、鼻がクスンと鳴る。
「フン。そうか……なら気を付けろ。ロアコボルト以外のコボルトは大差ないが、ロアコボルトだけは別格だ」
「別格?」
「ああ。図体もそうだが、なによりも嗅覚がいい。逃げられると思うなよ」
ベルトはヒントを教えてくれる。忠告と言うことだろう。
ロアコボルト以外のコボルトは大したことない。普通に倒せてしまう。
けれど肝心のロアコボルトはかなり凶暴のようで、特に鋭い嗅覚を持っていた。
「嗅覚がいいのね。分かったわ、肝に銘じておく」
嗅覚が鋭いってことは、逃げられないってことだ。
現にシザースの命を奪ったのは、それが原因に違いない。
鋭い嗅覚で何処までも追い回し、こちらの動きに適応する。
ただのコボルトと見るのは危険極まりなかった。
「けど……そっちはいいとして」
「ライムさんのことですか?」
とは言え相手はコボルト。ましてや僕達が相手をするとは限らない。
問題は別にあり、ベルトも予期していた。
ライムの態度と対応の変化。あまりにも不気味で仕方が無い。
「あっ、その、ごめんなさい。私……」
「そうね。ライムさんのあの態度、本当鼻についたわ」
「ええ。冒険者のことをなんだと思っているのよ」
急にラッシュが声を上げた。
まさかラッシュの口から飛び出すのは予想外。
自然と視線を釘付けにすると、小さくなってしまう。でも合っているよ、ライムは危険だ。
冒険者ギルドのマスターが、冒険者のことを使い捨ての道具のように見ていた。
最低最悪であり、信頼を損なわせるような対応。
何か裏でも握られている可能性がある。単に踊らされていると、命を簡単に失いかねないので、今回討伐隊には加わらなかった。
きっとこれは正解で、別動隊を用意するのは間違っていないと思う。
「確かにギルマスの態度は気に入らないな」
「なにかあるのかしら?」
「……それを調べるのは俺達の仕事だ。こっちは任せておけ。場合によっては、必ず制裁を下す」
ライムのことを訝しむベルト。
会議室から出た後、即座に奥の部屋へと消えた。
足を踏み鳴らし、苛立ったような音を掻き立てていたので、僕も正直気になる。
でもコボル洞窟のこともある。罠かもしれない、死ぬかもしれない。でもどちらにも意識を裂く暇は無いんだ。
「期待しているわよ、〈《黒牙の影》〉」
それなら僕達が調べる必要は全然無い。
ここからは完全に仕事の役割が違う。
ベルトはニヤリと笑うと、マフラーもラッシュも自信を持つ。
本分を任されると、ライムに好き勝手させるつもりは無いみたいだ。
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