第63話 戻ってきたベルト
べ、べ、べ、ベルトさん!
「ベルト!?」
「ベルトさん、えっ、い、生きている……えっ!?」
マフラーとラッシュは驚きを隠せなかった。
立ち上がったまま体が動かなくなっている。
如何やらベルトが幽霊に見えているようだが、普通に生きている。
「うるさいぞ、マフラー、ラッシュ」
ベルトはボロボロの体を壁に預けた。
たっているのもやっとな状態で、折れた左腕を支える。
右手で壁の淵を掴むと、興奮気味なマフラーとラッシュを落ち着かせた。
「……まさかベルトさんが戻って来られるとは」
「ああ、戻ってきたら悪かったのか?」
「いいえ、誰もそのようなことは言っていませんよ?」
ライムの動きが若干怪しかった。
何故かベルトが生きて帰ってきたことを本心から喜んでいない……ように見える。
流石に気のせいだろうと、僕は視線を逸らした。
けれど魔力が乱れていて、ライムから苛立ちが見えた。
「ベルト、生きていたのね。よかったわ」
「エメラルか……それに、これだけの冒険者パーティーのリーダーが集まっている、作戦会議かなにかだな」
ご名答、まさしくその通りだった。
ベルトの読みは素晴らしく尖っていて、正確性を持つ。
僕達は首を縦に振ると、ベルトは捜索隊の顔をチラ見した。
「どうやら本当らしいな」
「本当って、聞いていたの?」
「ああ、捜索隊がコボル洞窟から命からがら逃げて来た俺を保護した時にな」
大外の概要は聞いているらしい。
コボル洞窟から命懸けで逃げて来たベルト。
左腕の怪我が痛々しくて、相当酷い目に遭ったに違いない。
それでも生きていることに価値があった。
ベルトが生きて帰って来ただけで喜ぶ。
ホッと一息を付き、骨折程度なのでまだ再起があるベルトに胸を撫でるも、事態の重大さはのしかかる。
「ベルト、ネイルとシザースは?」
問題はベルトしか戻っていないことだった。
ネイルとシザースの二人がどうなったのか?
マフラーが訊ねると、首を横に振る。
「残念だが、ネイルの行方は分からない」
「えっ!?」
「シザースは途中まで一緒に逃げていたが……チッ」
舌打ちを打ったベルト。
話の流れから察するに、ネイルはリーダーのようで行方が分からない。
まだ生きている可能性が残っているが、もう一人の仲間、捜索中だったシザースは最期を迎えたらしい。
もちろん信じたくはなかった。
誰だって人が死ぬような話は聞きたくもない。
耳を塞ぎたい、ドンヨリとした空気が流れると、ベルトは答えを明らかにする。
「コイツが証拠だ」
ベルトが取り出したのは一本の鋏。
囲んでいたテーブルの上に置くと、マフラーは絶句、ラッシュは涙目になり、口元を抑える。
如何やらシザースと言う冒険者の持ち物だったようで、血がベッタリと付着し、赤く染まっていた。
「シザースは俺の目の前で死んだ。アイツに……ロアコボルトに襲われて、胴体を潰されたんだ」
惨たらしい話を始めた。
ロアコボルトと言うのはコボルトの上位種である。
そのモンスターに襲われた三人は分断させられ、ベルトとシザースは相対した。
けれど逃げる最中、シザースはロアコボルトに捕まってしまった。
抵抗してみたものの、結局役には立たなかったらしい。
ロアコボルトの圧倒的な体躯に押し潰され、目の前で死んだ……聞いているだけで胸が躍るよ。
「そ、そんな……あり得ないよ」
「あり得るんだ、それが……」
「ダンジョンですよ」
ライムは指を組み合わせて答える。
ここまで黙って話を聞いていたが、ギルドマスターが口を開くと視線を釘付けにする。
若干笑みを浮かべているように見えるけど、もしかして気のせいだと信じたい。
「捜索隊を送り出した意味がありました。ベルトさんが戻って来られた、そして相手は凶暴化したロアコボルトを中心としたコボルトの群れ。下手に人間の味を覚え、王都に侵攻されても困りますよね」
「それじゃあどうするつもりよ?」
「エメラルさん、もちろん決まっていますよ」
捜索隊を送り出した意味は確かにあった。おかげでベルトは無事だ。
それに加えて敵の正体が、凶暴化したコボルトの上位種、ロアコボルトであること。
ネイルの安否はいまだ不明、シザースの命を奪い、人間の味を覚えてしまった。
そんな危険なモンスターの群れを逃す訳には行かず、ライムもギルドマスターとして決断を下す。
「すぐに討伐隊を編成し、コボル洞窟に向かいます。ロアコボルトを含めたコボルトの群れを一掃し、安否不明のネイルの救出を行います。それが王都にとって最善の選択になりますよ」
ライムの意見は最もだった。そこに疑う余地はない。
けれど気持ちが悪いなと、直感が背中を撫でる。
指先で爪を立てて引っ掻かれると、僕だけではなく訝しい表情を浮かべる冒険者は多い。
「ギルドマスター、急に話しを丸めやがったな?」
「なんのことです?」
「とぼけるなよ。死んだ奴もいるんだ、すぐには無理だろ」
屈強な男性冒険者はライムに反発した。
既に死者も出ている。すぐに討伐隊を組むのは厳しい。
にもかかわらずだ。ライムは無理にでも押し通した。
「いいえ、だからこそすぐに討伐隊を向かわせるのです。ネイルさんの安否が分からない今、生きている望みはベルトさんが証明してくれました。ならば、できるだけ急いだ方がいいでしょう?」
「まぁ、そうだけどな……」
ライムの目測はある程度正しい。
そのせいか、屈強な男性冒険者は黙らされる。
感情が悶々とする中、ライムは改めて通達した。
「いいですか、皆さん。討伐隊を組み、コボル洞窟に向かいます。装備はこちらで提供させていただきますので、存分に腕を振るってください。目的は二つ、一つはネイルさんの救出です。もう一つはコボルトの討伐。数を極端に減らし、異様な強さを手にしたロアコボルトを討伐することです。王都の治安維持のため、くれぐれも注意を払ってくださいね。いいですか?」
「「「うん」」」
討伐隊を組むのは確定みたい。
これから冒険者ギルドが総出でコボル洞窟へ向かう。
装備も提供してくれるらしいけど、残念だけど僕は自分の武器を信じている。
生憎と使う気は無くて、ロアコボルトを大前提にコボルトを討伐することより、ネイルの救出を念頭に据える。
それは全員の共通認識のようで、コクリ首を縦に振った。
(とりあえず話はまとまったみたいだけど……)
最終的にライムの指示を仰いでしまった。
雰囲気がまとまりを持ち、会議を開いた意味があった。
そう思わせてくれると、流石はギルドマスター。そう思ったのは一つで、如何しても素直には受け入れられない。
(ギルドマスターの手のひらに踊らされているってことかな? なんだか気持ちが悪い)
僕の視線はライムに向けられている。
まるで全てがライムの手のひらの上。踊らされている気がした。
もっと言えば、妙な謀が進行しているかもしれない。
胸がザワついて、僕は嫌気が差してしまう。
エメラルとクロンも気が付いているみたいだ。
もちろんマフラーとベルトも睨みを利かせていた。
そんな中一番意外だったのはラッシュであり、誰よりも鋭い殺意を抱いていたのが気掛かりだった。
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