第62話 血濡れな帰還者
意外に長くなっちゃった。
「はぁーーーーー……もうッ!」
感情的になったエメラル。
流石に突然会議に参加させられた挙句、グタグタと終わりの見えない口論。
これ以上は好きにはさせられず、エメラルが決着を付けに行く。
バン! と机を叩いた。音を立てて立ち上がると、視線を向けられる。
こうなった以上、エメラルの独壇場だ。
きっと最高の提案をしてくれる筈と、待ちに待った期待を寄せる。
「エメラルさん?」
「結局、助けに行くのか行かないのかの話よね? マフラー!」
「なによ?」
エメラルは急にマフラーへと話を振った。
流石に自分が指名されるとは思わなかったらしい。
マフラーは一瞬ピクンと跳ねるが、エメラルは真っ直ぐな言葉を矢としてぶつけた。
「貴女は大切な仲間を助けたいの? それとも見殺しにしたいの? どっちよ」
究極の選択をぶつける。
二者択一の質問だったが、要するに失った仲間の有無だ。
仲間を助ける。それが最もだろうが、そのせいで余計な被害を出しかねない。
とは言えまだ救えるかもしれない仲間を見殺しにする。〈《黒牙の影》〉ならあり得そうだが、マフラーはハッキリと答える。
「もちろん助けたいよ。使い捨ての冒険者だとしても、仲間であることに変わりないから」
「その答えが聞きたかったのよ」
マフラーの本音が飛び出した。
幾ら〈《黒牙の影》〉に所属しているとは言え、仲間を身勝手に見捨てる気は無い。
たとえ使い捨てだとしても、培って来た絆は決して千切れない。
ニヤッと不敵な笑みを浮かべるエメラル。
求めていた返答が返って来た。
それを待っていたとばかりに誇らしげな顔をすると、マフラーは自分が手のひらの上だったことを自覚する。
「使い捨て……では無いんですけどね」
今、声が聞こえた気がする。
多分だが、ラッシュだと思う。
けれどラッシュが口を動かした様子は無く、ましてや誰も気が付いていない。
勘違いだろうか? いや、勘違いではない気がする。
(今の声、ラッシュだよね?)
僕だから聞き逃さなかった。師匠達に散々鍛え上げられたから感じ取れた。
単純な言葉じゃない。これは人間の出す音だ。
魔力を通じて僕の体に染み込まされると、ラッシュの本音を聞き取った。
「助けに行くに決まっているわ」
「ん?」
エメラルの宣言に、ライムは眉間に皺を寄せた。
何か不都合でもあるのだろうか?
いいや、あるに決まっている。僕は視線を微かに向けると、先程から否定的な男性冒険者が挙手をする。
「そうは言ってもだよ、エメラル。危険を承知で、生存も確認されていない冒険者を助けに行く価値があるのかな?」
「グリムロ。貴方は冒険者じゃないの?」
「冒険者だよ?」
「冒険者が危険に飛び込まない腰抜けなんてこと、あり得るのかしら?」
グリムロの言葉を、エメラルは上手く打ち返す。
冒険者である以上、多少の危険を覚悟することはある。
それが出来ない以上、冒険者のような不安定な職に就くのは間違っている。
いつ何時でも命の危険があり、代わりに夢や期待を得られる。それが冒険者なので、腰に気呼ばわりは流石に鼻に付いた。
「腰抜け……確かに、ここまでの消極的な発言は否定できない。けれど、危険分散は大切な管理だからね」
「そう言って、見殺しにする気?」
グリムロは喧嘩腰になっていた。
感情を極力表に出さないものの、言葉の一つ一つが武器になる。
それでも危険分散に関しては間違っていないが、エメラルが一枚上手だ。
「正直、危険なことは百も承知よ。けれどね、この世界で最も強い武器、なにか分かる?」
「力だろ?」
「違うわ」
「知性だよ」
「違うわ」
「応援だと思うよ!」
「それは……否定できないわね。でも違うの、それは情報。目に見えている物の中で、最も優位に働くのは情報よ。ネイル達は、散々私達に情報を提供してくれたでしょ?」
この世界でも最も強い武器。それはあくまでも目に見える範囲。
力……違う。知性……でもない。応援……は確かに大事。
色々あったものの、答えは情報だ。
情報とは目に見えることもあれば、目に見えないこともある。
そこら中に飛び交う情報の断片は、時に恐ろしい凶器(狂気)にもなり、ネイル達はそれをたくさん持っていた。
何故かって? 〈《黒牙の影》〉は重宝と暗殺に長けているギルドだから。
「「「それは確かに……」」」
「仇で返すの? そんなことをしたら、私達の隠している情報だって……」
「「「ダメだ!!!」」」
全員後ろめたい気持ちが多少なりともあった。
だからこそ、ここでネイル達の捜索をしなかった。
そうなれば、どれだけの被害を被るか分からない。それにより、揺らいでいた感情に決着を付ける。
「まあ、それはともかく俺達も世話になっているからな」
「うん。ネイル達は、冒険者ギルドに足を運ぶ〈《黒牙の影》〉の中では顔役のようなもの」
「失うと困るよね~」
「えっ、助けに行くの、助けに行くんだよね!」
結局の所、ネイル達には様々な借りがある。
仮に無かったとしても、いて貰わないと困る。
それだけ重要な役目を与えられており、必要不可欠な連絡網だった。
「分かったよ。エメラルの提案を飲もう」
「私じゃなくて、マフラーとラッシュのよ」
エメラルは不敵に笑っていた。
自分の意見ではなく、これはマフラー達の願望だ。
視線をマフラー達へと向けると、ハッとなって背筋を伸ばした。
「ありがとう、手伝ってくれて」
「ありがとうございます、皆さん!」
マフラーとラッシュは頭を下げた。
珍しい光景なのか、エメラルを含みキョトンとしている。
瞬きをする間もなく目が点になると、“なんか……いい”雰囲気が漂う。
「けどよ、コボル洞窟の状態も分からないんだ。救出するにしても、状況が把握できないとマズいだろ?」
「それは……」
流石は冒険者パーティーのリーダーだ。
自慢の二の腕だけではなく、頭も切れる。
救出することを決意したが、それでも情報が無いので、動くに動けない。
何か少しでもヒントがあればいい。
けれど実際に見てきた訳では無い。
定かでは無い物ばかりで、どれほどの狂気がはびこっているかもしれない。
そんな中、ライムがパンと手を鳴らした。
まさかこの空気を独断と偏見でぶち壊すつもり?
かと思われたが、そこまで最低ではない。眉間に皺が寄っていたけれど……
「ではこうしましょうか。指示通り、捜索隊が戻り次第改めてコボル洞窟へ冒険者を編成し派遣する。構いませんね?」
ライムは真面目な回答を示した。
この状況下で自分勝手な意見を通すことは出来ない。
流石に弁えたようで、集められたリーダー達は納得した。
「おう、いいぜ。どんなコボルトだろうが、ぶっ潰してやんよ!」
「やれやれ、ギルドマスターが言うなら仕方が無いね」
「それじゃあ、私はみんなを応援するね!」
「ふはぁ~、面倒だな~」
様々な意見が飛び交っていたが、如何やらまとまりを見せた。
そうと決まれば、捜索隊の報告を今か今かと待ち侘びる。
少しでも希望的な報告が入ればいいのだが、淡い期待に終わるかもしれない。
マフラーとラッシュを中心に不安が広がる中、突然バン! と会議室の扉が開く。
「ギルドマスター、会議中失礼します」
「今、大丈夫ですか?」
現れたのは武装した二人の男性だ。
冒険者のようだが、あまり顔を見たことが無い。
コボル洞窟から帰ってきたようで、所謂捜索隊だった。
「ああ、今会議の結果がまとまった所だよ。君達捜索隊の報告を聞き次第、コボル洞窟に……」
「そ、それが……」
「ん?」
如何やら捜索隊が戻って来たらしい。
けれど血相を掻いており、何故か息が洗い。
二人の男性は装備が外れそうになりながら、互いに顔を合わせていた。
その目はジッと後ろを見ている。
「報告がなんだって……?」
急に物々しい声がした。
低く重低音で、ドクンと胸を掴んで来る。
そんな口調で単純さとは違う重さがあるが、空気が一変した。
「この声!?」
「ベルトさんですか!?」
マフラーとラッシュが立ち上がった。
間違いない、この声に心当たりがあるんだ。
けれど僕はピンと来ず、一人首を捻る。
「はっ、その必要は無い。俺の口から話す」
扉越しに現れたのは男性だった。
疲弊している上に血の気が無い。
ましてや腕には添え木をしており、骨折しているようだ。
もしかしなくても、この冒険者がベルト? 嬉々とした再会も束の間、絶句の海が広がった。
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