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第6話 新しい家と掃除と

家ってすぐ傷みますよね。

使っていないだけで、埃が溜まって、久々に部屋の扉を開けたら「うわぁ」ってなること、ありませんか?

 僕は冒険者ギルドを後にした。

 その足で向かった先は、ダンジョン……ではなく、街の外れ。

 郊外に程近い長閑な場所で、ほとんど民家はない。いや、マジで無かった。


「えっと、確かこの辺りに……あっ、あった!」


 そんな何もない所に、僕の目当てのものはある。

 師匠達から渡されていた手書きの地図。それを見ながらやって来た先。

 現れたのは庭付き一軒家。赤茶けた屋根が特徴的で、廃墟のようになっている。


「うわぁ、想像通り……」


 正直、想像はしていた。思ったよりは綺麗だから、何とか抑える。

 だけど師匠達が王都を去ってから早くも十一年。

 師匠達の魔法でそこまで植物の蔦が巻き付いていない。

 それでも、周りから見れば廃墟も同然。こう周囲に何も無いとなると、街の人達から不気味に思われるのも無理はなかった。


「冒険者ギルドから、ここまで二十分。周りになにも無いこと以外は、過ごしやすいかな」


 目の前の一軒家以外、周りを見渡しても何もない。

 殺風景と言えばそうだが、ずっと森で師匠達と生活して来た僕は慣れている。

 今日からここが僕の家になる。師匠達から許可は貰っているし、そんな師匠達のおかげで、税金がまさかの〇リル。何と素晴らしいことか。


「よーし、まずは掃除だ!」


 僕は一軒家に向かった。

 すると早速問題が発生した。

 一軒家の外壁に、たくさんの蔦が絡まってはいる。


「まさかこんなに蔦が絡まっているなんて……」


 信じられない量の蔦が生えていた。

 地面から生えた植物が、邪魔で扉も開きそうにない。

一本ずつ抜いて行くのは大変だけど、これくらいならまとめて簡単に剥がせる。


「面倒だけど、このくらいなら!」


 僕はベルトに差したホルダーから短剣を取り出す。

 右手と左手で全く違う短剣を握る。

 剣身に少しばかりの魔力を流すと、一つは赤色もう一つは青色に発光する。


「せーのっ!」


 僕は地面を一蹴りした。

 スタッと跳び上がると、常人ではあり得ない身体能力を披露。

 推定五メートルの高さまで跳び上がり、構えた短剣を振り抜く。


 直接触れた訳じゃない。けれど剣を振り抜いた時の衝撃で空気が切り付けられる。

 すると目の前の蔦だけを細切れにして、プチンプチンと千切る。

 建物の壁面は一切傷付けず、まさしく神技。師匠達に叩き込まれた技術を無駄に発揮する。


「よっと」


 僕は地面に着地した。

 スタッと音も立てず、まるで跳んでいたことを感じさせない。

 あまりにも洗練された動きに、きっと冒険者っぽくない筈だ。


「ふぅ。これでよし」


 僕の周囲に切った蔦がバラバラに散らばった。

 短剣を振り払って風を巻き上げる。

 散らばっていた蔦が一ヶ所に集まると、僕は鞄の中から石を取り出す。


「後はこうして……よし、点いた」


 取り出したのは所謂火打石。

 何処にもでも安く売っているもので、二つ手にしてぶつけ合う。

 カチカチといい音を奏でると、集めた蔦に引火。

 小さな火種からゆっくり燃え広がると、邪魔になっていたゴミを燃やす。


「さてと。蔦は全部剥がしたから、後で庭の手入れをするとして……」


 問題は家の中だった。

 流石に十一年も人の出入りが無いので、相当埃まみれの筈。

 覚悟して臨んだ方がいいと思い、鞄の中から布を取り出す。


 口元に当てて後ろで縛る。こうでもしないと大変だ。

 下手に埃を吸い込んで、咳き込んだら一大事。

 冒険者がそんなミスしたら命取りになると、師匠達との生活の中で身に付けられている。


「よし。いざっ!」


 僕は鉤を取り出した。

 金ピカに光り輝いていて眩しい。

 十年近く鍵穴に何も挿していなかったから、もしかすると錆付いているかもしれない。

 そう思って不安になるも、鍵穴に鍵を近付けた瞬間、魔法が発動した。


「うわぁ、この魔法って」


 師匠が掛けて置いた魔法だ。

 正しい鍵を使わずに扉をこじ開けようとすれば反撃に遭う。

 師匠達のことだ。とんでもないダメージを負うと思い、僕はゾクリとする。


「よかった。ちゃんと鍵貰っておいて」


 僕は正しい鍵を鍵穴に挿した。

 ゆっくり回すと上手く整合性が取れたのか、反撃されずに済む。

 ホッと一安心したのも束の間。地獄がこの先に待っている。


「それじゃあいざ、家の中へ」


 扉を開け、中を確認した。真っ暗闇が広がっている。

 扉から射し込んだ太陽光が家の中に注がれると、僕は幻滅してしまった。

 予想通り、いや、それ以下ではあったけど、案の定だった。


「嘘でしょ? まさかこんなに埃が……」


 家中に埃が待っていた。

 久々の光と空気を感じ、床に落ちた埃が舞う。

 キラキラと輝く宝石のようだが、全然嬉しくもない。

 むしろ不快な気分になると、僕は眉根を寄せる。


「おまけにこの空気……最悪だ」


 家の中の空気がとにかく悪い。

 正直一歩を踏み出したくない気持ちになる。

 それだけたった十年は家にとっては大きい。人間にとっても大きな存在で、僕は頬をポリポリ掻いた。


「ここにいても仕方が無いよね」


 まずやるべきことは決まっている。

 家の中に入った僕は、真っ直ぐ奥を目指した。

 譫言のように不満を吐きつつ、汚れた家具達を見つめる。


「これは、相当頑張らないとダメかな」


 僕はげんなりしてしまった。

 だけどこんなことで落ち込んだらダメだ。

 だって僕は師匠達の身の回りのこと、ほとんど全部こなして来たから。


「まずは換気だ。換気しないと、家の中が狂っちゃうよね」


 まずは何よりも光を入れること。それから空気を換えること。

 埃まみれの家の中に入ると、早速窓を開ける。

 空気を全面的に入れ替えないと、本気で死ぬ。別の意味で死んじゃう。


「この窓固い……そりゃ。うわぁ、眩しい!」


 固く閉ざされた窓を思いっきり開く。

 太陽の光が射し込み、狂いそうになる嫌な空気が逃げていく。

 ボワッと入って来た風に全身を包まれると、僕は「ふぅ」と息を吐く。


「さてと、本気で掃除しないとね」


 今日一日は家の掃除をしよう。

 僕は持って来ていた掃除道具を鞄の中から取り出す。

 手にしたモップとバケツ、更には手にはゴム手袋。

 完全防備に身を包むと、いざ十年年ぶりの大掃除を始めた。

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