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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー2:コボルトの眠る喉元

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第56話 コボル洞窟で何があったのか!?

時として仲間を助けることよりも大事なことはある。

マフラーさんは見失っていない。

これって強い人だと思う。

 午後の冒険者ギルド。今日はいつにも増して静かだ。

 それもその筈、冒険者達の活動は大抵が午前中。

 こんな時間に冒険者ギルドに足を運ぶのは、相当な暇人だろう。


「ネシアさん、いいだろ~?」


 相も変わらない男性冒険者の姿があった。

 未だにDランクであり、冒険よりも女性を優先する。

 しつこいまでの誘い文句を浮かべると、受付嬢の一人は困っていた。


「いえ、結構ですよ」


 こちらも相も変わらなかった。

 顔には笑顔の仮面を張り付けているものの、本当は面倒に想っている。

 でも決して口にはしない。上手く本心を押し隠すと、その真相は誰にも分からない。


「いや、そこをさー」

「いえ、ですので結構です」


 ブレットとネシアの攻防戦は何年も続いていた。

 それこそ、ネシアが王都の冒険者ギルドで働くようになってからずっと。

 ブレットのしつこい誘いを丁寧に断り、いなし、もはや達人の域にまで達している。


 にもかかわらず、ブレットはネシアを口説こうと必死だ。

 ネシアとしてみれば、ブレットなど眼中には無い。

 それは周囲の目から見ても明らかに、ブレットの独りよがりな態度に嫌気が差す。


 見るに堪えない無駄な行為。ネシアが可愛そうに見える。

 それだけネシアは多くの冒険者に愛されているが、ブレットにはなびかない。

 万年Dランクで最低限の依頼しかこなさないばつの悪い男にが、興味が全く湧かないのだろう。


「ネシアさん、可哀そうだな」

「うん。いつもならエメラルさんが助けに入るんだけど……」

「今日はいないな」


 こんな時、ブレットを止める仲裁役が居る。

 強引かつ真っ当な理由で割って入り、鉄拳制裁でブレットを止める。

 もはや定番の流れであり、冒険者ギルドの名物だったが、何故かエメラルの姿が無い。


 それもその筈、エメラルは多忙だ。何たって〈《眩き宝石》〉の副ギルドマスター。

 変わり者のクロンにサイコパスなオボロ。二人をまとめるリーダー格。

 心身が休まる日は無く、目をソッと伏せることしか出来ない。


 そんな思いを抱いている冒険者や受付嬢の姿があった。

 奥では職員達もブレットの口説き声が疎ましく聞こえる。

 早くやめて欲しい、誰でもいいから止めて欲しい。そう思うと、急に冒険者ギルドの扉が開かれる。


 バーン!


 あまりにも勢いが凄かった。

 一瞬にして平穏が砕かれると、視線を釘付けにする。

 そこに居たのは滅多に冒険者ギルドでまともに姿を晒さない、マフラーを撒いた女性冒険者、通称マフラーだった。


「えっ、マフラーさん?」

「マフラーさんと……誰だっけ?」

「確かラッシュちゃんじゃなかったか?」

「ラッシュちゃんって、貴女ね……」


 現れたのはマフラーとラッシュの二人だ。

 珍しい登場に誰もが動揺するものの、何処か様子がおかしい。

 全身から汗を流し、ほんの少しだが肩で呼吸しているように見えた。

 

 単なる気のせい? その一言で片付けるには惜しい。

 全身から靄のように水蒸気が発生すると、気配と魔力が混同する。

 暴れ回って存在感を醸し出すと、まるで“らしく”無かった。


「マフラーさんトラッシュンさんですね。こんにちは」


 ネシアはブレットを上手く遠ざけた。

 何やら緊急性を伴う様子で、受付カウンターから出る。

 ブレットは止めることが出来ず、キョトンとした顔をする。


「はぁはぁ……こんにちは、ネシアさん」

「こ、こんにちは、です」

「凄い汗ですね。走って来られたのですか?」

「そうね。少し汗を掻いたわ」


 ネシアに問われ、マフラーは代表して答える。

 本人曰く、この程度は少しの範疇で、大した量ではない。

 けれど周囲の目からすれば以上で、マフラーはあの〈《黒牙の影》〉でも優秀な冒険者として数えられていた。


 そのせいだろうか? 明らかによくないことが起きた。

 一発で全員の脳に伝達されると、身構えてしまう。

 怪しい空気が立ち込めると、マフラーは満を持して口にした。


「ネシア、ライムさんは? ギルドマスターはいない?」

「ライムさんですか?」


 ライムとはギルドマスターのこと。つまり相当な案件なのは間違いない。

 一体何を探索し、調査して来たのだろうか? この慌てようは極めて危険。

 いち早く退散したい冒険者も現れる中、事態は一刻を争う緊急性を孕んでいた。


「いるなら伝えて欲しい。コボル洞窟は危険よ」

「コボル洞窟ですか?」


 コボル洞窟の調査。ギルドマスターであるライムから通達されていた。

 〈《黒牙の影》〉に属するネイルを始めとした優秀なパーティーが調査に向かった。

 そのメンバーの中には新入りも混じっているものの、シザースにベルト、それからマフラーと言った優秀なメンバーで固められている。


 信頼が寄せられるものの、今、その信頼は崩れ掛けていた。

 何を隠そう、ここにはマフラーとラッシュの姿しかない。

 要するにネシア達が居ないので、コボル洞窟の調査中に事故に遭った可能性が示唆される。


「は、はい、そうなんです!」

「ラッシュさんもですか!?」


 ネシアは驚いてしまった。

 一体何が起きているのか全く分からないものの、得体のしれない何かへ震えてしまう。

 それは簡単に伝播してしまうと、冒険者ギルドの中は暗くドンヨリした。


「えっ、マジかよ」

「なにがあったんだ?」

「でもマフラーさんがいるってことは、ネイル達は?」

「そうだよ。ネイル達がいないってことは、マジでそう言うことなのかよ!?」

 

 とても重苦しい空気が立ち込め始める。

 ネシアはこの状況を打破しよう声を掛ける。


「マフラーさん、ラッシュさん、一体なにが起きたのですか?」

「ネイルたちがコボル洞窟から戻らないのよ。しかも殺気も感じたわ。アレは相当マズいわね」

「そ、そんな……」


 より一層重く辛い、暗い空気感が立ち込めていた。

 これは相当マズく、ネシアは胸を押さえる。

 ドクンと心臓が悲鳴を上げて疼くと、マフラーは切羽詰まるが冷静な口調で伝えた。


「だから早くライムさんに伝えて欲しいのよ」

「わ、分かりました。すぐにギルドマスターに連絡を取りますね」


 ネシアはすぐさまギルドマスターであるライムに連絡を取りに向かう。

 まずは受付カウンターの奥へと消える。

 残ったマフラーとライム、他の冒険者達は不安そうな顔をすると、とても冷静ではいられなかった。


「マフラーさん」

「落ち着いて、ラッシュ。私達は冒険者よ」

「は、はい」


 最悪に備えるマフラーは、ラッシュに漏れ威勢を装うように伝えた。

 しかし冒険者ギルドの雰囲気は非常に悪かった。

 ネイル達が今如何なっているのか、流石に信じるしかなかった。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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