第56話 コボル洞窟で何があったのか!?
時として仲間を助けることよりも大事なことはある。
マフラーさんは見失っていない。
これって強い人だと思う。
午後の冒険者ギルド。今日はいつにも増して静かだ。
それもその筈、冒険者達の活動は大抵が午前中。
こんな時間に冒険者ギルドに足を運ぶのは、相当な暇人だろう。
「ネシアさん、いいだろ~?」
相も変わらない男性冒険者の姿があった。
未だにDランクであり、冒険よりも女性を優先する。
しつこいまでの誘い文句を浮かべると、受付嬢の一人は困っていた。
「いえ、結構ですよ」
こちらも相も変わらなかった。
顔には笑顔の仮面を張り付けているものの、本当は面倒に想っている。
でも決して口にはしない。上手く本心を押し隠すと、その真相は誰にも分からない。
「いや、そこをさー」
「いえ、ですので結構です」
ブレットとネシアの攻防戦は何年も続いていた。
それこそ、ネシアが王都の冒険者ギルドで働くようになってからずっと。
ブレットのしつこい誘いを丁寧に断り、いなし、もはや達人の域にまで達している。
にもかかわらず、ブレットはネシアを口説こうと必死だ。
ネシアとしてみれば、ブレットなど眼中には無い。
それは周囲の目から見ても明らかに、ブレットの独りよがりな態度に嫌気が差す。
見るに堪えない無駄な行為。ネシアが可愛そうに見える。
それだけネシアは多くの冒険者に愛されているが、ブレットにはなびかない。
万年Dランクで最低限の依頼しかこなさないばつの悪い男にが、興味が全く湧かないのだろう。
「ネシアさん、可哀そうだな」
「うん。いつもならエメラルさんが助けに入るんだけど……」
「今日はいないな」
こんな時、ブレットを止める仲裁役が居る。
強引かつ真っ当な理由で割って入り、鉄拳制裁でブレットを止める。
もはや定番の流れであり、冒険者ギルドの名物だったが、何故かエメラルの姿が無い。
それもその筈、エメラルは多忙だ。何たって〈《眩き宝石》〉の副ギルドマスター。
変わり者のクロンにサイコパスなオボロ。二人をまとめるリーダー格。
心身が休まる日は無く、目をソッと伏せることしか出来ない。
そんな思いを抱いている冒険者や受付嬢の姿があった。
奥では職員達もブレットの口説き声が疎ましく聞こえる。
早くやめて欲しい、誰でもいいから止めて欲しい。そう思うと、急に冒険者ギルドの扉が開かれる。
バーン!
あまりにも勢いが凄かった。
一瞬にして平穏が砕かれると、視線を釘付けにする。
そこに居たのは滅多に冒険者ギルドでまともに姿を晒さない、マフラーを撒いた女性冒険者、通称マフラーだった。
「えっ、マフラーさん?」
「マフラーさんと……誰だっけ?」
「確かラッシュちゃんじゃなかったか?」
「ラッシュちゃんって、貴女ね……」
現れたのはマフラーとラッシュの二人だ。
珍しい登場に誰もが動揺するものの、何処か様子がおかしい。
全身から汗を流し、ほんの少しだが肩で呼吸しているように見えた。
単なる気のせい? その一言で片付けるには惜しい。
全身から靄のように水蒸気が発生すると、気配と魔力が混同する。
暴れ回って存在感を醸し出すと、まるで“らしく”無かった。
「マフラーさんトラッシュンさんですね。こんにちは」
ネシアはブレットを上手く遠ざけた。
何やら緊急性を伴う様子で、受付カウンターから出る。
ブレットは止めることが出来ず、キョトンとした顔をする。
「はぁはぁ……こんにちは、ネシアさん」
「こ、こんにちは、です」
「凄い汗ですね。走って来られたのですか?」
「そうね。少し汗を掻いたわ」
ネシアに問われ、マフラーは代表して答える。
本人曰く、この程度は少しの範疇で、大した量ではない。
けれど周囲の目からすれば以上で、マフラーはあの〈《黒牙の影》〉でも優秀な冒険者として数えられていた。
そのせいだろうか? 明らかによくないことが起きた。
一発で全員の脳に伝達されると、身構えてしまう。
怪しい空気が立ち込めると、マフラーは満を持して口にした。
「ネシア、ライムさんは? ギルドマスターはいない?」
「ライムさんですか?」
ライムとはギルドマスターのこと。つまり相当な案件なのは間違いない。
一体何を探索し、調査して来たのだろうか? この慌てようは極めて危険。
いち早く退散したい冒険者も現れる中、事態は一刻を争う緊急性を孕んでいた。
「いるなら伝えて欲しい。コボル洞窟は危険よ」
「コボル洞窟ですか?」
コボル洞窟の調査。ギルドマスターであるライムから通達されていた。
〈《黒牙の影》〉に属するネイルを始めとした優秀なパーティーが調査に向かった。
そのメンバーの中には新入りも混じっているものの、シザースにベルト、それからマフラーと言った優秀なメンバーで固められている。
信頼が寄せられるものの、今、その信頼は崩れ掛けていた。
何を隠そう、ここにはマフラーとラッシュの姿しかない。
要するにネシア達が居ないので、コボル洞窟の調査中に事故に遭った可能性が示唆される。
「は、はい、そうなんです!」
「ラッシュさんもですか!?」
ネシアは驚いてしまった。
一体何が起きているのか全く分からないものの、得体のしれない何かへ震えてしまう。
それは簡単に伝播してしまうと、冒険者ギルドの中は暗くドンヨリした。
「えっ、マジかよ」
「なにがあったんだ?」
「でもマフラーさんがいるってことは、ネイル達は?」
「そうだよ。ネイル達がいないってことは、マジでそう言うことなのかよ!?」
とても重苦しい空気が立ち込め始める。
ネシアはこの状況を打破しよう声を掛ける。
「マフラーさん、ラッシュさん、一体なにが起きたのですか?」
「ネイルたちがコボル洞窟から戻らないのよ。しかも殺気も感じたわ。アレは相当マズいわね」
「そ、そんな……」
より一層重く辛い、暗い空気感が立ち込めていた。
これは相当マズく、ネシアは胸を押さえる。
ドクンと心臓が悲鳴を上げて疼くと、マフラーは切羽詰まるが冷静な口調で伝えた。
「だから早くライムさんに伝えて欲しいのよ」
「わ、分かりました。すぐにギルドマスターに連絡を取りますね」
ネシアはすぐさまギルドマスターであるライムに連絡を取りに向かう。
まずは受付カウンターの奥へと消える。
残ったマフラーとライム、他の冒険者達は不安そうな顔をすると、とても冷静ではいられなかった。
「マフラーさん」
「落ち着いて、ラッシュ。私達は冒険者よ」
「は、はい」
最悪に備えるマフラーは、ラッシュに漏れ威勢を装うように伝えた。
しかし冒険者ギルドの雰囲気は非常に悪かった。
ネイル達が今如何なっているのか、流石に信じるしかなかった。
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