第54話 コボル洞窟の異変
何故かラッシュにみんな優しい。
「バウハァッ!」
コボルトが叫んだ。仲間を呼ばれる前に仕留める。
ネイルは壁を蹴って宙から攻撃を仕掛ける。
鋭く伸びた爪が、コボルトの額を貫いた。
「うるさいよ」
ネイルは音を立てずに、最小限の動きでコボルトを撃破。
慎重に音を立てず、地面に横たわらせると、赤い体液(血液)が滴る。
シザースは鋏をパチンとさせると、特徴的な獣臭を掻き消した。
「ふぅ。コボルトの数が増えているね」
「そうだな。とは言え、こんなものだろ」
「こんなものなんですか!? 私には凄く多いように見えますけど」
コボル洞窟はコボルトの住処。そのため、基本的にはコボルトしか生息していない。
数が多いのは当たり前で、ラッシュは知らないがこれが普通だ。
問題は、コボルトの動きが活発な事だろうか?
コボルトはゴブリンに比べれば、数は少ない。それでも知性はゴブリン以上。
人間とほとんど同じ大きさに加え、特に筋力は鍛えている人間やそれ以上。
そのため、基本的には過激で苛烈な性格なのだが、以前コボル洞窟に足を運んだ時に比べ、明らかに動きが機敏だった。
「ボスが変わったのか?」
ベルトが警戒するのも無理は無かった。
コボルトはゴブリンのように、特異的な上位種は生まれないのが通常。
そのため、ここまで動きに機敏さが増したのは、何か理由があるのではと疑う。
「ボス?」
「コボルトのボス個体ね。ソレが原因だとすれば、話の筋は通るけれど」
「人間の手が関与していない?」
ネイル達が受けた調査依頼は、あくまでも人為的な関与が無いか如何かだ。
もしも、コボル洞窟で起きている異変が、ボス個体の登場。だとすれば、自然の摂理であり、流れだった。
一応報告はするものの、特に気を配る必要も無い。ネイルの判断はベルトと同じで、真っ当な理由でしかない。
「なにか証拠があれば確信になるけどね」
「しょ、証拠なら……その」
ラッシュが恐る恐る声を上げた。
ユックリと手を挙げると、地面を指さす。
何が見えているのか? ラッシュは誰にも見えない足跡に気が付いていた。
「ここにコボルトの足跡があります。後、人間のものかな?」
「「「ん!?」」」
「私には見えます。あの、どうですか?」
ラッシュの言葉に全員の表情が引き締まる。
もっとも、ラッシュ自身も確信が持てている訳ではない。
見えないものさえ見通す心眼。それを使いこなせているラッシュだからこそ、薄っすらとだが確実に足取りが見えていた。
「どうしてもっと早く言わない」
「その、皆さん気が付いていると思っていたんです」
ラッシュは自分の能力を極端に低く見ていた。
その必要はなく、ラッシュの眼から逃れるのは困難だ。
確かに見える、人間の足跡。女性のものだろうか? この先に続いている。
「特徴は、性別は分かるかな?」
「えっと、サイズは小さいです。後、多分女性です」
断言は出来ないが、情報としては拾う。
信憑性に限って言えば、ラッシュしか見ていない。
なんとも言えず、判断が難しい中で、ラッシュの言葉をネイルは汲む。
「うん。それじゃあもう少しだけ調べてみようか」
ネイルは調査の続行を提案した。
ここまで来た以上、行きも帰りも地獄。
そう悟るのは、シザースが鋏をチョキンと鳴らしたからだ。
「ネイルちゃん、来たわよ、お客さんが」
「そうだね。全員、戦闘準備。すぐに片付けるよ」
「片付ける?」
ラッシュだけは何が起きているのか気が付いていない。
そんな中、庇うようにマフラーが傍に寄った。
首に巻いたマフラーを払い、自分とラッシュに巻き付けると、トンと地面を蹴る。
「ま、マフラーさん!?」
「私達は先に撤退よ」
情報が途中で途絶えてはいけない。
〈《黒牙の影》〉は、重宝と暗殺が主要のギルドのためか、連携に優れていた。
万が一に備え、予防線を張ることにしていて、ラッシュのことをマフラーに任せると、取り囲まれている状況から脱する。
「ネイル、後は任せるわ」
「うん。くれぐれも、分断されないように」
「分っているわ。行くわよ、ラッシュ」
「ね、ネイルさん!? シザーズさん、ベルトさん!」
確保されていた唯一の退路から、マフラーとラッシュを逃がした。
無事に成功すると、取り囲んでいたコボルトの数匹が視線を動かす。
追わせる訳にはいかない。ベルトはベルトを鞭のように飛ばし、金具を頭に当てて殺した。
「マフラーさん、マフラーさん! 皆さーーーーーーーーーーーーーーーん!」
マフラーに連れて行かれるラッシュ。
ネイル達のみを案じたものの、その心配は要らない。
三人はとても強い。コボルトの群れに囲まれた所で、決して動じない。
「さてと、やろうか」
「そうだな。マフラーとラッシュは無事に逃がせたんだ」
「そうね。さてと、やるわよ」
シザースは、パチン! と鋏を鳴らした。
それが戦いの合図になると、ネイルとベルトは動き出す。
大量のコボルトを相手に、爪とベルトが飛び交うと、コボルト達の息の根を止めた。
「バフワッ!」
「バウウッ!!」
「バーウワッ!!!」
けたたましく泣き叫んだ。
喉を引き裂かれると、コボルト達は次から次へと倒れていく。
その惨状に仲間のコボルト達は震えると、シザースは鋏をチョキンと合わせる。
「悪いけど、逃がしてあげないわよ」
背後を取ったシザースは、コボルト達を漏らさない。
鋏を耳元に当て、スパン! と音を立てる。
あまりの恐怖に恐ろしくなるも、硬直と同時に足が止まった。
「バウワァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
コボルトは泣き叫んだ。断末魔を上げながらパタリとうつ伏せに倒れる。
動かなくなるのも仕方が無く、頸を切られたせいだ。
あまりの残酷な有様を前に、ネイルとベルトも攻撃の手を緩めず、最小限の動きで倒した。
「ふぅ。こんな所か」
「上手くやり過ごしたね」
ネイル達は余裕でコボルト達を打ち負かした。
瞬く間に囲まれていた群れを全て討伐してみせる。
余裕を見せると、ネイル達もコボル洞窟からの帰還を決めた。
「少なくとも異常性は分かったな。一旦退き返すか」
「そうだね。シザース、いいね」
「いいわよ。アタシの鋏も錆て来ちゃったわ。そろそろ……」
コボル洞窟から退き返そうとした。
その時、地面と壁が激しく揺れ、天井から小さな石片が落ちる。
衝撃が伝わって来ていて、同時に殺気が溢れ出した。
「おい、ネイル。これは」
「マズいね、なにか来るよ」
一体何が来ると言うのだろうか?
今にも背筋が凍ってしまうそうだが、ここで立ち尽くすのはダメだ。
すぐさま踵を返したものの、大量のコボルトの死骸を見られたのか、殺気は鋭さを増し、ネイル達を足止めする。
「体が、動かない?」
「シザース、魔法だ!」
「やってるわよ。けど……」
シザースは鋏をチョキンチョキンと合わせた。
音を立てて魔法を発動しようとするが、ダンジョン内の魔力が乱れる。
そのせいか、シザースの魔法が効かず、地響きと共にソレは姿を現した。
「おい、なにか来るぞ」
「そうだね。……アレは」
ネイル達の前に姿を現したのは、一匹の巨大なコボルト。
ただのコボルトではなく、その中でも上位種だろうか?
腰には布を巻き、鎧を纏っている。手には分厚い石製の大剣を握ると、けたたましく吠えた。
「バルワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
至近距離で吠えられ、一瞬意識が飛びそうになった。
けれどネイル達に限って、そんな小細工は通用しない。
一目見ただけ、否、存在から漂う異様な悪意を感じ取ると、コボル洞窟をおかしくしている張本人だと察した。
「コレはマズいね」
「まさか、コイツがここのボスか」
「どうするのよ、ネイルちゃんベルトちゃん」
シザースはネイルとベルトに訊ねた。
まさかとは思うが、戦うなどと言うことはしない。
あまりにも分が悪く、今出来るのは逃げることだろうか。
「体の硬直を解いて、すぐさま逃げるぞ」
「逃げるって何処によ?」
「何処でもいい、誰だっていい、とにかくだ」
「そうだね。誰か一人でも生きてこのモンスターのことを知らせよう。そうしないと」
コボルトは舌をダランと垂らした。
キマッた目をギラつかせると、ネイル達を睨み付ける。
同族を殺した犯人として見逃してはくれないようで、大剣を振り上げる。
「多くの犠牲者が出るかもしれないね」
コボルトは大剣を振り下ろした。
土埃が巻き上がり、ネイル達の姿は見えなくなる。
戦う? まさかそんな自殺行為はしない。体の硬直を解くと、それぞれバラバラに逃げ出した。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。




