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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー2:コボルトの眠る喉元

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第54話 コボル洞窟の異変

何故かラッシュにみんな優しい。

「バウハァッ!」


 コボルトが叫んだ。仲間を呼ばれる前に仕留める。

 ネイルは壁を蹴って宙から攻撃を仕掛ける。

 鋭く伸びた爪が、コボルトの額を貫いた。


「うるさいよ」


 ネイルは音を立てずに、最小限の動きでコボルトを撃破。

 慎重に音を立てず、地面に横たわらせると、赤い体液(血液)が滴る。

 シザースは(はさみ)をパチンとさせると、特徴的な獣臭を掻き消した。


「ふぅ。コボルトの数が増えているね」

「そうだな。とは言え、こんなものだろ」

「こんなものなんですか!? 私には凄く多いように見えますけど」


 コボル洞窟はコボルトの住処。そのため、基本的にはコボルトしか生息していない。

 数が多いのは当たり前で、ラッシュは知らないがこれが普通だ。

 

 問題は、コボルトの動きが活発な事だろうか?

 コボルトはゴブリンに比べれば、数は少ない。それでも知性はゴブリン以上。

 人間とほとんど同じ大きさに加え、特に筋力は鍛えている人間やそれ以上。

 そのため、基本的には過激で苛烈な性格なのだが、以前コボル洞窟に足を運んだ時に比べ、明らかに動きが機敏だった。


「ボスが変わったのか?」


 ベルトが警戒するのも無理は無かった。

 コボルトはゴブリンのように、特異的な上位種は生まれないのが通常。

 そのため、ここまで動きに機敏さが増したのは、何か理由があるのではと疑う。


「ボス?」

「コボルトのボス個体ね。ソレが原因だとすれば、話の筋は通るけれど」

「人間の手が関与していない?」


 ネイル達が受けた調査依頼は、あくまでも人為的な関与が無いか如何かだ。

 もしも、コボル洞窟で起きている異変が、ボス個体の登場。だとすれば、自然の摂理であり、流れだった。

 一応報告はするものの、特に気を配る必要も無い。ネイルの判断はベルトと同じで、真っ当な理由でしかない。


「なにか証拠があれば確信になるけどね」

「しょ、証拠なら……その」


 ラッシュが恐る恐る声を上げた。

 ユックリと手を挙げると、地面を指さす。

 何が見えているのか? ラッシュは誰にも見えない足跡に気が付いていた。


「ここにコボルトの足跡があります。後、人間のものかな?」

「「「ん!?」」」

「私には見えます。あの、どうですか?」


 ラッシュの言葉に全員の表情が引き締まる。

 もっとも、ラッシュ自身も確信が持てている訳ではない。

 見えないものさえ見通す心眼。それを使いこなせているラッシュだからこそ、薄っすらとだが確実に足取りが見えていた。


「どうしてもっと早く言わない」

「その、皆さん気が付いていると思っていたんです」


 ラッシュは自分の能力を極端に低く見ていた。

 その必要はなく、ラッシュの(まなこ)から逃れるのは困難だ。

 確かに見える、人間の足跡。女性のものだろうか? この先に続いている。


「特徴は、性別は分かるかな?」

「えっと、サイズは小さいです。後、多分女性です」


 断言は出来ないが、情報としては拾う。

 信憑性に限って言えば、ラッシュしか見ていない。

 なんとも言えず、判断が難しい中で、ラッシュの言葉をネイルは汲む。


「うん。それじゃあもう少しだけ調べてみようか」


 ネイルは調査の続行を提案した。

 ここまで来た以上、行きも帰りも地獄。

 そう悟るのは、シザースが鋏をチョキンと鳴らしたからだ。


「ネイルちゃん、来たわよ、お客さんが」

「そうだね。全員、戦闘準備。すぐに片付けるよ」

「片付ける?」


 ラッシュだけは何が起きているのか気が付いていない。

 そんな中、庇うようにマフラーが傍に寄った。

 首に巻いたマフラーを払い、自分とラッシュに巻き付けると、トンと地面を蹴る。


「ま、マフラーさん!?」

「私達は先に撤退よ」


 情報が途中で途絶えてはいけない。

 〈《黒牙の影》〉は、重宝と暗殺が主要のギルドのためか、連携に優れていた。

 万が一に備え、予防線を張ることにしていて、ラッシュのことをマフラーに任せると、取り囲まれている状況から脱する。


「ネイル、後は任せるわ」

「うん。くれぐれも、分断されないように」

「分っているわ。行くわよ、ラッシュ」

「ね、ネイルさん!? シザーズさん、ベルトさん!」


 確保されていた唯一の退路から、マフラーとラッシュを逃がした。

 無事に成功すると、取り囲んでいたコボルトの数匹が視線を動かす。

 追わせる訳にはいかない。ベルトはベルトを鞭のように飛ばし、金具を頭に当てて殺した。


「マフラーさん、マフラーさん! 皆さーーーーーーーーーーーーーーーん!」


 マフラーに連れて行かれるラッシュ。

 ネイル達のみを案じたものの、その心配は要らない。

 三人はとても強い。コボルトの群れに囲まれた所で、決して動じない。


「さてと、やろうか」

「そうだな。マフラーとラッシュは無事に逃がせたんだ」

「そうね。さてと、やるわよ」


 シザースは、パチン! と鋏を鳴らした。

 それが戦いの合図(ゴング)になると、ネイルとベルトは動き出す。

 大量のコボルトを相手に、爪とベルトが飛び交うと、コボルト達の息の根を止めた。


「バフワッ!」

「バウウッ!!」

「バーウワッ!!!」


 けたたましく泣き叫んだ。

 喉を引き裂かれると、コボルト達は次から次へと倒れていく。

 その惨状に仲間のコボルト達は震えると、シザースは鋏をチョキンと合わせる。


「悪いけど、逃がしてあげないわよ」


 背後を取ったシザースは、コボルト達を漏らさない。

 鋏を耳元に当て、スパン! と音を立てる。

 あまりの恐怖に恐ろしくなるも、硬直と同時に足が止まった。


「バウワァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 コボルトは泣き叫んだ。断末魔を上げながらパタリとうつ伏せに倒れる。

 動かなくなるのも仕方が無く、頸を切られたせいだ。

 あまりの残酷な有様を前に、ネイルとベルトも攻撃の手を緩めず、最小限の動きで倒した。


「ふぅ。こんな所か」

「上手くやり過ごしたね」


 ネイル達は余裕でコボルト達を打ち負かした。

 瞬く間に囲まれていた群れを全て討伐してみせる。

 余裕を見せると、ネイル達もコボル洞窟からの帰還を決めた。


「少なくとも異常性は分かったな。一旦退き返すか」

「そうだね。シザース、いいね」

「いいわよ。アタシの鋏も錆て来ちゃったわ。そろそろ……」


 コボル洞窟から退き返そうとした。

 その時、地面と壁が激しく揺れ、天井から小さな石片が落ちる。

 衝撃が伝わって来ていて、同時に殺気が溢れ出した。


「おい、ネイル。これは」

「マズいね、なにか来るよ」


 一体何が来ると言うのだろうか?

 今にも背筋が凍ってしまうそうだが、ここで立ち尽くすのはダメだ。

 すぐさま踵を返したものの、大量のコボルトの死骸を見られたのか、殺気は鋭さを増し、ネイル達を足止めする。


「体が、動かない?」

「シザース、魔法だ!」

「やってるわよ。けど……」


 シザースは鋏をチョキンチョキンと合わせた。

 音を立てて魔法を発動しようとするが、ダンジョン内の魔力が乱れる。

 そのせいか、シザースの魔法が効かず、地響きと共にソレは姿を現した。


「おい、なにか来るぞ」

「そうだね。……アレは」


 ネイル達の前に姿を現したのは、一匹の巨大なコボルト。

 ただのコボルトではなく、その中でも上位種だろうか?

 腰には布を巻き、鎧を纏っている。手には分厚い石製の大剣を握ると、けたたましく吠えた。


「バルワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 至近距離で吠えられ、一瞬意識が飛びそうになった。

 けれどネイル達に限って、そんな小細工は通用しない。

 一目見ただけ、否、存在から漂う異様な悪意を感じ取ると、コボル洞窟をおかしくしている張本人だと察した。


「コレはマズいね」

「まさか、コイツがここのボスか」

「どうするのよ、ネイルちゃんベルトちゃん」


 シザースはネイルとベルトに訊ねた。

 まさかとは思うが、戦うなどと言うことはしない。

 あまりにも分が悪く、今出来るのは逃げることだろうか。


「体の硬直を解いて、すぐさま逃げるぞ」

「逃げるって何処によ?」

「何処でもいい、誰だっていい、とにかくだ」

「そうだね。誰か一人でも生きてこのモンスターのことを知らせよう。そうしないと」


 コボルトは舌をダランと垂らした。

 キマッた目をギラつかせると、ネイル達を睨み付ける。

 同族を殺した犯人として見逃してはくれないようで、大剣を振り上げる。


「多くの犠牲者が出るかもしれないね」


 コボルトは大剣を振り下ろした。

 土埃が巻き上がり、ネイル達の姿は見えなくなる。

 戦う? まさかそんな自殺行為はしない。体の硬直を解くと、それぞれバラバラに逃げ出した。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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