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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー2:コボルトの眠る喉元

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第52話 トロン森に異常無し

ここからしばらくネイル達が活躍します。

「悪いですね、ネイルさん」

「いえ、問題ありませんよ、ライムさん」


 冒険者ギルド、二階に設置された応接室。

 冒険者ギルドマスターのライムは、冒険者を数人呼んでいた。

 パーティーで形成されており、リーダーは常に爪を気にしている男性だ。


「トロンの森で起きた例の一件、耳にはしています」

「そう言うことです。明らかに起きた異変、調査の調子はいかがですか?」


 ネイルを含めた五人の冒険者。

 彼らは全員同じ黒いコートに身を包み、表情をほとんど隠している。


 全員〈《黒牙の影》〉に所属している冒険者であり、実力は相当なもの。

 ネイルはBランクの冒険者であり、仲間であるマフラーとベルトにシザースはCランク。唯一Dランクの新人でありながらも優秀な少女、ラッシュ。この五人で構成されていた。


「今の所は、まだ途中経過ですが……」

「報告書にある通りですか」


 調査の途中経過を報告書にまとめられていた。

 ライムはネイルに渡されると、サッと一瞬で読み解く。

 頭の中で理解すると、要点をまとめて質問する。


「トロンの森自体に、魔素の異常はありませんね」

「はい。トロンの森は、正常な魔素を放出していますよ」

「なるほど。では、トロンの森自体が原因ではないと言うことですね」

「恐らくは。マフラー、シザース」


 ネイルはマフラーとシザースに訊ねた。

 するとマフラーは首に巻いたマフラー越しに首を縦に振り、シザースは(はさみ)をチョキンとする。


「はい。大気中の魔力の流れは安定していました」

「ええ、アタシも葉っぱをチョキンとして一口だけ口にさせて頂いたわよ。魔素の濃度(あじ)はとても美味しかったわ」


 マフラーとシザースが言うなら間違いない。

 トロン森の魔素の流れはとても安定していた。

 要するに、トロールの異常なまでの強さは、別にダンジョンが原因ではない。


「では、一体なにが原因でしょうか?」

「恐らくは、冒険者ギルドが解剖した結果と相違ないかと?」


 トロールの短期間による強さの要因。

 それこそ、冒険者ギルドが独自に調査と解剖をした結果から導き出されていた。


「何者かによる仕業、ですね」


 ライムは神妙な表情を浮かべた。

 空気がピリリとヒリ付くと、ネイルたちは顔を上げる。

 ライムも冒険者ギルドマスターである以前は優秀な冒険者。Sランクにも到達したことのある逸材で、既に現役を退いた……と言うよりも、育成の立場になっただけで、実際にダンジョンに赴けば、その実力をいかんなく発揮するだろう。現にネイルたちの表情が引き締まったのは、ライムの殺気が原因だ。


「ライムさん、殺気が漏れているぞ」

「おっと、すみませんね」


 ベルトはライムを制した。

 溢れ出す鋭い殺気を抑え込ませると、一つ呼吸を置いた。

 報告書をザッと見直し、一体何者の仕業か如何か、更に探りを入れる。


「ちなみにですが、犯人の目星や心当たりは?」

「今の所無いですよ」

「煙のように消えてしまったわ。跡形も無くね」

「本当、気味が悪いわよ。まるでアタシ達のことを嗜めているみたいで気持が悪いわ」


 以前にも似たようなことがあったが、その言及に違いない。

 ライムも無視出来ないと腹を括るが、今の時点では何も手出しが出来ない。


「ラッシュさんは、なにか気になることはありませんでしたか?」


 ここは新しい意見を積極的に取り入れることにした。

 様々な視点を持つことで、犯人の人物像を描こうとする。

 もちろん、今の時点では皆目見当も付かなかったが、次の被害を最小限に抑えようとしていた。


「えっ、わ、私ですか!?」

「はい。ラッシュさんの意見を訊かせてください」


 声を出した少女、ラッシュ。ここまで黙って話を聞いていたが、まさか指名されるとは思わなかった。

 突然のことに声が裏返ると、瞬きを何度もして視線が泳いでいる。

 純粋なラッシュの反応に、ネイルは期待を寄せていた。


「そう言われても……私は」

「ラッシュ、なんでもいい」


 ラッシュは自信が無さそうだった。

 〈《黒牙の影》〉の新入りであり、発言権がそこまで無い。

 だからだろうか。言葉に芯が無かったが、ネイルに諭され言葉を発する。


「は、はい。あの、実はトロンの森じゃないんですけど、近くにある別のダンジョンでモンスターの異常行動が目撃されていて」

「それは、コボル洞窟ですか?」

「そ、そこです!」


 コボル洞窟。トロン森の近くにある全く別のダンジョン。

 コボル洞窟の由来にもなっているが、コボルトが非常に多く生息している。

 少し難易度は上がるので、EランクからDランクに脱するための最終関門と言われている。


「コボル洞窟ですか。そこになにか?」

「は、はい! えっと、その……足跡が付いていて」

「「「足跡!?」」」


 ラッシュは“足跡”と口にした。

 パーティーメンバーは知らなかったのか、ラッシュの言葉に耳を疑う。


「ラッシュ、どういうことよ!?」

「足跡なんて、見えなかったけど?」

「そうだぞ、ラッシュ。どうしてその話をしなかった」


 パーティーメンバーから非難の声が上がった。

 何故今まで一切口にしなかったのか。

 それはラッシュ自身が無く、無関係だと判断したからだ。


「関係ないって、思ってしまったんです」


 トロン森で起きた一件とは確かに関係無い。

 とは言えトロン森の奥地にあるので、全くの無関係とは言えない。

 難しい判断ではあったが、今回の場合はラッシュの判断に誤りがある。


「ラッシュ。情報は武器だ。どんな些細な事でもいい。違和感があれば、口にして共有しろ」

「は、はい!?」


 ベルトに叱られるラッシュ。

 情報は最大の武器であり、知っていると知らないでは雲泥の差が生まれる。

 それだけで状況把握や打破、あらゆる面で影響を及ぼすので、当然と言えば当然。ラッシュは引き攣った声を上げると、「はい!?」と戸惑っていた。


「あ、あの、どうですか?」

「そうですね。トロン森でこれ以上情報は得られない以上、次に異変が起きるとすれば……」

「コボル洞窟は確率が高いです」


 コボル洞窟の可能性を捨ててはいけない。

 厳密には確率が高いとは言えないが、可能性はある。

 ここはコボル洞窟の調査を視野に入れるべきだと、ライムは判断した。


「ネイルさん、コボル洞窟の調査をお願いできますか?」

「はい。そのつもりです」

「ありがとうございます。皆さんの情報収集に掛かっていますが、無理はしないようにお気を付けてくださいね」


 ライムは心配した。確かに実力は高いものの、〈《黒牙の影》〉の本分は戦闘ではない。

 探索はあくまでも諜報の要素の一つでしかなく、危険を伴うのは確か。

 ネイル達を送り出すライムは心配はしつつも、必要なことだと割り切り、期待を込めていた。

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