第51話 短剣は舞う
本当ネタが切れた日。
「さてと……やろっかな」
僕は短剣を構えた。赤と青の短剣だ。
魔力を通すことは無く、軽やかに地面を蹴った。
「ここまでは最小の動き……」
あくまでも地面を蹴るまでは、最小の動きだ。
完全に省エネ状態で短剣を振るう。
まるで舞って魅せると、僕はグッと踏み込んだ。
「それで、ここから!」
地面を深く踏み込んで、一気に垂直に飛ぶ。
身体能力だけでは限界があるから、もちろん魔力を使う。
ドンッ! と音を立てるととても雄々しく、僕は師匠の一人、《竜姫》シュナ師匠の真似をする。
「どらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
けたたましく吠えてみる。
短剣を十字に構えると、バッと開いた。
魔力を帯びた短剣の剣身が空気を叩くと、大気中の魔力に触れて、質量を生み出した。
「おっと……」
ここからは細かな魔力操作が大切だ。
体は重力に従って落下するが、それは体重とか体格とか、質量に対して決まる。
僕は余計なことはしない。受け身を取ることに専念すると、《天麗》レジーナ師匠のように魔力の羽を広げた。
「このまま落ちるのは釈然としないよね」
師匠達なら、きっとこの程度のことで動じない。
僕の精神はとても冷静で、それでいて馳せる。
気持ちが昂ると、心臓の鼓動は高鳴り出し、血流の流れが加速する。
「だったらさ!」
僕はニヤリと笑ってみせた。すると魔力が大気を改めて震わせる。
単純な魔力操作だけなら、師匠に大変扱かれた。
狂気を孕んだ目を剥き出しにすると、《魔嬢》メイ師匠のように遊んだ。
「はっ!」
青い短剣を振るった。クルンと円を描いてみせる。
自分の体を包み込むと、魔力が水滴を搔き集める。
水球を生み出すと、僕の体は包み込まれ、ポヨンと地面を跳ねるが、全ての衝撃を吸収する。
「よっと。ここで、こうだよね!」
パンッ! と水が破裂した。
小さな空気の泡が僕の姿を掻き消す。
その状態で×印に短剣を振り抜くと、図上に赤と青の×印が斬撃の跡を残した。
「ふぅー。これくらいな?」
修練を積んでみたものの、意外に面白かった。
一人だと、少し寂しいように感じるけれど、エメラルとクロンに付き合わせすぎても悪い。
偶には悪くないと言い聞かせ、僕は短剣からサッと魔力を抜き、ベルトの鞘に納めた。
「少し騒がしくしたかな? まぁ、郊外だから平気だと思うけど」
空気を叩き過ぎたと、終わってから反省した。
流石に爆音が響き過ぎたかもしれない。
これでも家の周りには結界を張っていたけど、大丈夫かなと心配になった。
「心配と言えば……」
如何しても気になることがあった。
それは街中で見かけた少年だ。
僕と同じ歳くらいだったけど、相当手慣れたスリのテクニックに驚かされた。
「あれだけ上手かったら、気が付かないのが普通だよね?」
本当に素早かった。おまけに正確で、目を凝らしていないと見破れない。
正直、鞄を奪った瞬間にお金を抜いたと今でも思っている。
でも本当は逆で、鞄を奪う前にお金を盗んでいた。本当、何も理解出来ない。
「もしかして、僕が知らなかっただけで、今までも……うーん」
その可能性は充分あり得る。
実際、王都に来てから二ヶ月とそこそこ。
そんな僕が、これだけ広くて多種多様な王都の全貌を知っている筈がない。
「こう見えて、記憶力は悪くないんだけどな」
僕は一応飲み込みが速い方で、記憶力もそれなりにいい。
師匠達の圧倒的な実力を吸収するなら、それくらい出来ないとダメ。
そんな環境下で生きてきたからこそ、少年の姿を一目見たら、絶対に覚えている筈だった。
でも記憶にないってことは、それが答えなんだろう。
つまり僕があの少年に出会ったのは今日が初めて。
一発で見破ったスリの現場。悪いけど、目も悪くないんだよ。
「うーん、けどあのニオイはね」
如何しても鼻の奥に残っている異様なニオイ。
少年の体……ではなく、着ていた服に染み付いていた。
「普通の人や冒険者は誤魔化せても、僕は無理なんだけどね」
如何しても気になるのは血のニオイだった。
不快……とまでは言わないけれど、アレは何だったのかな?
変に疑っても仕方が無い。僕は瞼をソッと閉じ、首を横に振った。
知られたくないことは誰にだってある。例えソレが世間一般的に犯罪と言われてもで、如何しても僕には非難できなかった。
「(あむっ)うん、美味いよ」
綺麗な黒髪を少年は、美味しそうにランチを食べていた。
店内は空いており、そこまで客は多く無い。
だからこそ居心地がよく、少年は一人、黙々と出されたステーキを口に運んだ。
「お気に召しましたか?」
暇過ぎるのか、店長と思しき男性が話し掛けて来た。
少年は鬱陶しいとまでは思わないが、幾ら客が少ないとはいえ、キッチンに立つべきだと正論を胸の奥に仕舞う。
「うん、最高だよ。赤み肉は柔らかくて、ナイフはスパッと入る。本当切り心地がいいね」
「ありがとうございます」
「それからこのソースだよ。赤ワインをベースに、牛の血を混ぜているね? ほとんどアルコールで臭みごと飛んでいるけれど、俺はもう少し苦みがあってもいいよ」
「そこまでお分かりになられますか!? いやはや、恐れ入ります」
少年はズバッと言い当てた。それが的を射ているのだから、確かな五感の持ち主に違いない。
店長も気を浴したのか、表情が何処となく朗らかに見える。店内に客が居ないのがもったいない限りで、少年は頬杖を付く。
「褒めてもなにも出ないよ。なに、心金でも欲しいの?」
「いえ、そんなことはありませんよ?」
「ふぅーん。まぁいいよ、はい」
少年は百リル取り出した。
大金と言う訳ではないが、店長は驚いてしまう。
要求したつもりは無く、少年の真意が分からない。
「いえ、お客様。当店では心金はご遠慮させて頂いております」
「そう言わずに、今回だけだから受け取ってよ。代わりに、俺がこの店に来たのは秘密にして欲しいな」
「ん? それは構いませんよ。お客様の個人情報がありますから」
如何やら話の分かる店長で助かった。これだけ客足が悪いのだから、一人でも逃がさないようにと苦労が垣間見える。
王都とはいえ、繁盛している訳ではない。これだけ絶品にもかかわらずで、競争率の高さが窺える。とは言え、店の外装も内装も手入れが行き届いており、恐らく昼間は客足が悪いだけだと思う。
などと並べてはみたものの、少年にとっては関係が無い。初めて心金を貰った喜びを噛み締める店長が滑稽で仕方ないのだ。
どうせ盗んだお金なので、少年にとっては何も痛くも痒くも無い。
それで感謝されるのだ。少年は心の中で笑っていると、ステーキが冷める前に食べ尽くした。
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