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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
2ー1:闇の円卓

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第50話 血のニオイの行方

今回の章、かなり難しいです。

 街中を歩く男女が居た。普段着の格好で、互いに隣り合っている。

 一見するとカップルのように見えるかもしれない。

 けれど実際は違う。同じギルドに所属する冒険者だ。


「全く、面倒なことをしてくれた」

「そうね。だからやめなさいって言ったのに、忠告を無視するなんて」


 悪態を付く男性冒険者。同様に同意する女性冒険者。

 二人は新入りの教育係を押し付けられてしまった。

 普段の監視以外にも業務が増えると、ムカついて仕方が無い。


「スティングの奴、何処に行ったんだ?」

「分からないわ。けど、確かこっちの方に消えた筈だけど」


 捜している冒険者の名前はスティング。

 謎にエメラル達を監視した挙句、負け惜しみを吐いた。

 ただ、そこから切り替えてより一層腕を磨く決意を固めたのはいいのだが、余計なことをしてくれたと何度も思う。


「新入りの教育も、俺達の役目だとはな」

「仕方がないわ。副ギルドマスターに頼まれたんだもの」


 副ギルドマスターが任せたのだ。

 流石に反発する訳にもいかず、渋々引き受けた。


 とは言え、スティングには問題があった。

 それはスルースキルも多少あるが、自分の力を過信しすぎている。

 そのせいか、上手く行かないことがあった。

 今回もそうで、エメラル達を監視するのはやめるべきだった。

 変に怪しまれた挙句、完全にあしらわれてしまったのだ。プライドを傷付けられたと言ってもいい。


「けど、これでスティングも懲りたでしょ?」

「だろうな。スティングの魔法、アレはかなり強力だが……」

「〈《黒牙の影(うち)》〉には向いているわね」


「まだまだ粗さがある」

「ふふっ、なんだか楽しんでるわよ、ソーン」

「うるせぇ。キャトだってそうだろ?」


 男性冒険者=ソーンと女性冒険者=キャト。

 二人はスティングの成長を楽しんでいる。

 なんだかんだ言いながら、真面目なので、副ギルドマスターの思惑に乗せられていた。


「こっちね」

「ああ、この角か」


 情報によると、スティングはこの先に向かったらしい。

 人込みを避けたのは、人目を気にしている訳ではない。

 噂だと、この先に絶品料理を出す、隠れ家レストランがあるらしい。


 他のギルドメンバーに訊いた所、スティングはその店の常連らしい。

 気分が優れない時は、いつもそのレストランに行く。

 エメラルに看破された今では、まさに相応しいと言えるだろう。


「スティングの奴、よく知っていたな」

「全くね。今度行ってみようかしら、もちろん一人で」

「ああ、一人でな」


 歪な空気が流れた。ソーンの言葉にキャトはイラっとする。

 気にしていることがあるのだが、敢えて口にはしない。悲しくなるから。

 腹を立てるのも癪なので黙っていると、眉間には皺が寄り、もう一つ曲がり角を曲がった。



「「うわぁっ!?」」


 ソーンとキャト、二人は同時に叫んだ。

 人前ではないので、つい声を上げてしまうが、〈《黒牙の影》〉失格だ。

 などと並べている暇はない。〈《黒牙の影》〉である以上、目の前の情報を客観的に整理する。


男性が二人倒れている。

 一人は二十代でまだまだ若い。血気盛んな年頃だ。

 一人は三十代くらいだろうか? 何処となく街のゴロツキの風貌で、無精髭が伸び切っている。どちらも怪我を負ったのか、傷が出来ていた。


 とは言えそれ以上の問題がある。

 何故か男性二人は地面にうつ伏せと仰向けで倒れた挙句、殴ったでは説明出来ない傷を負っている。怪我と違う、明らかに外傷によって付けらえた生々しい傷痕で、ナイフで刺されたみたいな切り口に、赤い血がドクドクと溢れ出ている。


 幸いと言うべきだろうか、二人共まだ息はある。微かにだが、呼吸をしていた。

 うつ伏せで倒れた男性は最小限のエネルギーで呼吸をし、傷口を魔法で止血している。一方で仰向けに倒れた男性はかなり苦しそうだ。


「おい、一体なにがあったんだ!」


 ソーンはうつ伏せで倒れた男性に話し掛ける。

 声を掛けて意識を確認すると、ボヤけた眼でソーンを見た。


「そー……ん、さん?」


 ソーンが優先的に声を掛けた理由。それは同じギルドの所属し、捜していた張本人、スティングだからだ。

 姿が見えないと思えば、まさか何者かに刺されて倒れているとは思わなかった。

 一体何があったのか、真意を探ろうとするものの、会話が成り立たないくらい弱っている。


「おい、一体なにがあった!? 誰にやられた!?」

「そ……れが、覚え……て」

「おい、シッカリしろ!」


 スティングの口が止まった。記憶が曖昧になっているのか、それとも混乱しているのか、言葉を発すると吐きそうになる。

 ソーンはスティングの体を何度か揺すってみたが、反応は薄い。

 取り乱すソーンにキャトは首を横に振り、肩を押さえて冷静にさせた。


「ソーン、少し落ち着きなさい」

「……ああ。助かった、キャト」

「いいわよ。それより、こっちはスティングよりもヤバそうよ」


 スティングは魔法で止血していた。流石の判断だ。

 けれど仰向けで倒れた男性は魔法が使えない。

 止血の知識もないのか、キャトが止血を施すまで、絶えず血が流れ続けていた。幸い厚い脂肪のおかげか、大事には至ら無さそうではある。


「なにがあったと思う?」

「私に聞かれても分からないわ」

「だな。少なくとも、ここでなにかが起きた。それにスティングは巻き込まれた、って所か」


 スティングは〈《黒牙の影》〉には不要な正義感がある。

 得意な魔法を見込まれギルドの加入したものの、拭いきれない冒険者の魂。

 それが邪魔をし、今回のような事件に巻き込まれたと見ていい。


「犯人は……いないな」

「そうね。それに上手いわよ、ちゃんと血のニオイも消してるわ」


 犯人の姿が無かった。当然疑われるのだから、逃げるに越したことは無い。

 けれど妙なことがあった。血のニオイが漂っていない。

 明らかに手慣れた玄人(プロ)の犯行で、ソーンとキャトは厄介に感じた。


「どうする? 追い掛けるの?」

「追い掛けたいが、辿る目印も無いな」

「そうよね。これだけ隠すのが上手いとなると、私達の目を欺くのも容易でしょうね」


 諜報や監視、暗殺と言った、陰の仕事が得意な〈《黒牙の影》〉。

 例え彼らであったとしても、困難な相手や局面は存在する。

 まさしく今であり、これだけ隠蔽工作が上手いとなると、スティング達を放置したこと自体が意味を持っていると言っても差し支えない。故に追うことは困難であり、追った所で深追いするのが目に見えている。


「とりあえず、マスターに報告するから」

「そうね。冒険者ギルドにも」

「ああ。スティング、立てるか?」


 王都で何が起こるか分からない。

 ただのいざこざ程度なら見過ごしたとしても構わない。

 けれど冒険者としての勘か、報告を優先することにした。


「あ……ああ」

「よし。キャト、頼めるか?」

「分かったわ」


 キャトにスティングのことは任せた。

 ソーンは仰向けで倒れていた男性に声を掛ける。

 譫言(うわごと)のように唸り声を上げると、背中に背負う。ズッシリと重く不快だ。


「おい、立てるか?」

「うわぁ……うわぁ……」

「コイツ……キャト、行くぞ。変にここにいるのも危険だからな」


 誰かに見られているかもしれない。もしくは犯人と鉢合わせするかもしれない。

 そうなれば好都合だが、面倒でもある。

 怪我人を巻き込む訳にはいかず、速やかに退散すると、厄介事の種が一つ増えた。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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