第49話 嫌なニオイがして
少年の実力とは一体?
「はぁ~、美味しかったわ」
僕達はいいランチを取った。
腹も満たされ、幸せな気持ちになる。
今日はもうこれで解散だ。そう思うと、いつもの十字路に立った。
「それじゃあ私とクロンはギルドホームに戻るわね」
「……エメラル」
「どうしたのよ、クロン?」
エメラルとクロンはギルドホームに戻るらしい。
宿舎もあるので、後は暇に過ごす。
かと思いきや、クロンがエメラルの袖を引っ張った。
「私、調合用の実験器具を買いに行きたい」
「買いに行くって、また怪しい薬品作り?」
「ううん。フラスコとか、ビーカーとか?」
クロンは研究をしている。黒魔法の使い手としてだけではなく、研究者としても一流だ。
如何やら素材はあるものの、実験用の器具が足りない。
そんなに壊れることがあるのだろうか? 何だか怖くなった。
「しょうがないわね。それじゃあオボロ、また明日ね」
「うん。朝七時に冒険者ギルド?」
「そうよ。ちゃんと、モーニングは食べてきなさいよ」
「分かってるよ」
まるで母親のような言い付けだった。
言われなくても分かっている。朝食べることが一番大事だ。
師匠達にもキツく言われているので、僕は首を縦に振る。
「それじゃあ行くわよ、クロン」
「うん。ありがとう」
「いいわよ、別に」
クロンは申し訳ない気持ちがあった。
けれどエメラルはまるで意に介していない。これも必要なことだと思っている。
本当に仲が良く、凸凹に見えて息ピッタリだった。
「さてと、僕は修練かな」
まだ体は動かせる。流石にこれで終わるのは勿体無い。
そこで一人で修練に励むことにした。
空腹感も満腹感で上書きされたんだから、これくらいはいい運動になる。
「今日はどうしようかな? とりあえず……ん?」
空を見ながら考えていると、何やら歪な気配を感じた。
何かあったようで、立ち止まって視線を前に向ける。
女性が一人倒れていて、その周りをたくさんの人達が慌てた様子で見ていた。
「誰か、捕まえて、お願い!」
女性は叫んだ。何を、誰を、何故? 捕まえる必要があるのだろうか。
女性の視線の先を追い、丁度僕の進行方向、向かって来る形で男性が走っている。
怪しい格好をしており、素性がバレないようにマスクで覆っている。
「ハッ、捕まってたまるかよ」
男性の手には女性ものの鞄が握られていた。
ピンク色で可愛らしい、小さな鞄で、男性の持ち物には見えない。
ましてや態度から、一発で何をしたのか分かった。
「ひったくりかな?」
白昼堂々ひったくりに遭遇するとは思わなかった。
しかも僕の方に向かって来ていて、このままだとぶつかりそう。
流石に捕まえないとマズいよね。エメラル達だけじゃなくて、師匠達の顔に泥を塗るのは嫌だ。
「こんな往来でやめてよね」
「どけっ、ガキがっ!」
「どかないよ。はっ!」
僕はひったくり犯を捕まえることにした。
どいてあげる気は無いから、前に立って拳を構える。
出来るだけ怪我をさせたくないから、足払いで崩して押し倒すことにした。
「よっと」
「「なっ!?」えっ?」
僕もひったくり犯も驚かされる。
突然僕と同じ歳くらいの少年が現れ、ひったくり犯を捕まえる。
足を引っ掛け転ばせる瞬間、ピンクの鞄を奪い取ると、ひったくり犯の背中を踏み潰した。
「(ドンッ!)ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
ひったくり犯は発狂した。
あまりの痛みに悶絶すると、骨が砕ける音がする。
やり過ぎな気はするけれど、僕が言える口じゃない。
「ほいっ、大丈夫?」
「あ、ありがとうございます。あの、なんとお礼を言ったら」
「いいよ、俺はたまたま通り掛っただけだからさ」
少年はピンクの鞄を女性に返した。
お礼を言われ感謝されるものの、謙虚にあしらっていた。
女性の頬が赤らむと、少年の気さくな態度にウットリする。
「んじゃ、もう盗まれないようにしような」
少年は颯爽と立ち去ってしまう。
あまりにも見事なまでの一幕に、観衆の目が惹き付けられる。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」と拍手喝采が起こる中、僕はジッと少年を睨んだ。
「あの人……ごめんなさい、ちょっと通して貰っていい?」
僕は少年が消えてしまわないように目を凝らした。
睨み付けて追い掛けると、人込みを抜けて行く。
見失う寸前だったけど、僕は少年に声を掛けた。
「ちょっと待ってよ!」
「ん?」
少年は立ち止まった。
鬱陶しそうな表情を一瞬見せたけれど、立ち止まってくれた時点で、話を聞いてくれる態度を見せ、街中に溶け込もうとしていた。
「なんだよ、お前。俺になにか用?」
「さっきは凄かったね。一瞬だった」
「さっき? あー、見てたんだね。別に大したことはしてないよ」
トコトン謙虚に務める辺り、少年は大した実力の持ち主だった。
自分の力をひけらかさず、豪語しないのが、まさにそれ。
僕は感銘を受けると、「凄いね」と漠然としたことしか言えない。
「止めてくれよ。俺は別に大したことはしてないからさ」
「そんなことないよ。上手く抜き取っていたよね」
「……」
僕はニヤリと少年が一瞬の間でしたことを言い当てた。
まさかあれだけ綺麗に“抜き取る”とは思わなかった。
きっと相当目がよくないと見えない。見逃がすのが当たり前の早業に気が付いた僕へ、少年の態度が変わった。
「へぇ、分かっていたんだな」
「うん、早業だね」
少年も自分のしたことを認めたらしい。
あまりの早業だったのは凄いことだけど、それを見過ごす訳にはいかない。
「それで、抜き取ったもの、出してよ」
「コレのこと?」
少年が見せたのは硬貨だった。
鞄の中から財布を取り出し、瞬時に中身を抜き取った。
五千リルは堅く、手の中に納まっているのはあくまでも一部だろう。
「それ、返して貰える?」
「どうしてだよ?」
「盗んだものだよね。窃盗はよくないよ?」
僕は完全にスリだったから見過ごせない。
返して貰おうとするが、少年は拒む。
ニヤッと笑うと、「だったら……」呟いた。
「ほらっ、取ってみろよ!」
「えっ、なんてこと!? ……あれ?」
少年は手に持っていた硬貨を投げる。
多分だけどブラフだと思う。でも、視線を向けてしまうと、確かに硬貨だった。
マズいと思い回収しようとするが、指が触れた瞬間燃えカスになって消えた。
「いなくなってる」
少年の姿が無くなっていた。
忽然と姿を消すと、人の波に溶け込んでいる、
キョロキョロ視線を右往左往させるが、もう見つかる様子は無い。
「気配も追えない……参ったな、逃げられるなんて」
気配を追うのも考えたけれど、何故か追えなかった。
魔導具でも持っているのか、認識阻害されてしまう。
完全に見失い、逃げられてしまった。参ったな、頭を掻き毟る。
「あのニオイ、血の臭いだったけど、なにかあったかな?」
少年を追った理由。それはスリだけが原因じゃない。
異様なニオイ、あれは明らかに血だ。血の臭いだ。
一体何をしたのか、何処か怪我でもしたのか? その真実は、流石に僕にも分からない。
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