第4話 初日で絡まれました
初日で絡まれるのは主人公らしい。
僕はクエストボードを見ていた。
ここには各地の冒険者ギルドに集められた依頼が張り出される。
基本的には、冒険者ギルドの有る街。その周囲で達成が可能な依頼がほとんど。
薬草の採取や、モンスターの討伐がベタで、偶に護衛依頼なんかもある。
本当に利用者は多種多様。一般の人や同業の冒険者。
あまりクエストボードに張り出されることは無いけれど、冒険者ギルドから直々に依頼がある場合も稀。他にも信頼が置ける冒険者には、指名で依頼が入ることもあるらしい。
まあ僕としては普通にベタベタの依頼を受けるのが定石。
とりあえず、近くのダンジョンに探索しに行こうかな。
ついでに薬草とかモンスターを狩ってもいい。
如何しようかと迷っていると、ドン! と僕の体に何かぶつかった。
「うぉっ!?」
「痛てぇな、おい!」
僕は体幹が強いのでまるでビクともしなかった。
伊達に鍛えてはいないから当然で、怪我も無い。
如何やらぶつかられてしまったらしい。
僕はクルンと振り返り、誰にぶつかったのか確認。
身長百八十センチ程の髭を生やした屈強な男性。
背中に巨大な剣を背負っていて、誰が如何見ても冒険者。しかも新人じゃない。
「あっ、ごめんなさい」
僕は穏便解決を図る。
初日にして冒険者ギルドで問題を起こすなんて絶対にあっちゃダメ。
丁寧にお議事をすると、そのまま避けようとした。けれど男性は、謝った僕に喰らい付く。
「はぁ? 謝って済ませれると思うのかぁ?」
「ごめんなさい」
僕はとにかく謝った。穏便かつ、面倒なことになる前に解決しようとする。
けれど冒険者は話を聞かないし、自分勝手だ。
丁寧に謝ってもそれを無視して、僕に難癖を付ける。
「ったくよ、チビが邪魔なんだよ」
「身長は関係ないと思うけど」
「うるせぇ! エメラルもクロンも、身長の低い奴はウゼェんだよな」
身長のことを悪く言われた。それは完全に差別だ。
だけど僕は慣れているから、怒ったりはしない。
それにしても、エメラルとクロンって誰だろう? こんな酷い謂れを受けるなんて、可愛そうな同業者だ。
「酷い言いがかりなんだけどな」
「あれか? お前もアイツらの仲間か?」
「いや、違うんだけど……」
何か勘違いしているらしい。
僕はずっとソロで、エメラルともクロンとも知り合いじゃない。
そのことをボソッと伝えるも、男性は悪態を付く。
「はぁ? 違うのかよ」
「うん。僕は王都に今日来たばかりの冒険者なんだけど……」
難癖を付けられた僕は、他の街から来たことを伝える。
すると男性は険しい顔をして、目を逸らした。
何か想定と違ったのか、急に言葉を変えた。
「なんだよ、それならそう言えよな。俺はブレットだ」
「えっ、ああ、はぁ?」
「お前は?」
「僕? 僕はオボロだよ。よろしくね、ブレット」
急に空気も対応も変わった。
もしかして、エメラルとクロン。この二人に、何かされたのだろうか?
ただ身長が低いだけで目の敵にされるなんて、流石にムカつくけど、僕は大人しく黙る。
「おうよ。それよりオボロ、今日はあの人はいないのか?」
「あの人?」
「ああ、オボロは知らないか。実はな、王都の冒険者ギルドにはな、メチャクチャな可愛い受付嬢がいるんだよ」
「受付嬢? ……みんな可愛いと思うけど……」
ブレットはナンパが目的だったらしい。
確かに僕みたいなチビが目に入らないのも分かるかも。
恋に盲目になる何てこと、僕はまだ無いけど、応援はすることにした。
「そんなに可愛い人なの?」
「ああ、そうだぜ……まさかオボロ、お前も狙ってんのか!?」
ブレットの目の色が変わった。
僕が恋敵になるんじゃないかと焦っているらしい。
もちろんそんな気は一切無い。
むしろ、僕は色恋に全くと言っていい程縁がない。ましてや興味もない。
何より受付カウンターをチラ見した僕には、みんな可愛く見える。受付嬢は冒険者ギルドの華だから、容姿端麗な人を配置するのは定石。だからみんな違ってみんな素敵。
今日も必死に笑顔を振り撒いて頑張っている姿が眩しかった。
「狙ってなんかいないよ。それより、ブレットはその人のことが好きなの?」
「おうよ。けどな、俺嫌われてるらしい」
「嫌われてる?」
「ああ、そうだ。毎度毎度仕事の合間にデートに誘ってるんだけどな、引き攣った笑顔を浮かべてくれるんだよ。これ、脈ありだよな?」
それは本気で嫌われているんじゃないのかな。
色恋に全く興味のない僕だけど、絶対に脈無しだと思う。
完全に勘違い状態で、僕は受付嬢のことを気遣った。
「でも、今まで一度もデートの誘えてねぇんだよ」
「そうなんだ。どうして?」
「どうしてもなにも、その度にエメラルとクロンが間に入って俺の邪魔をしやがって。これじゃあ俺が悪者みたいじゃねぇか!」
エメラルとクロンは受付嬢の味方だった。
きっと受付嬢が困っていて、見過ごせなくなったんだ。
そのせいでブレットと言い合いになって、喧嘩みたいな状態になっているらしい。
「だから俺はアイツ等が嫌いなんだ。だからオボロ、お前も関わり合いになるなよ」
「あはは、できればね」
エメラルとクロン。どんな冒険者なんだろう。
ますます気になってしまうと、僕は興味を持った。
凄い真面目で正義感の強い冒険者だとは思いつつ、僕はブレットと会話を弾ませる。
「オボロさん、確認が終わりましたので、受付カウンターに来てください」
そんな中、突然僕の名前が聞こえて来た。
如何してだろう? 僕、王都に来て、まだ一度しか名前を明かしていないのに。
「今の声……」
「あっ、確認が終わったみたいだから、僕は先に行くね」
「あっ、ああ……なぁ、オボロよ。今の声って」
ブレットは顔を上げる。心当たりがある声らしい。
視線の先が受付カウンターを見ている。
受付嬢が僕のことを呼んでいるのか、ブレットとの会話を切り上げ。
「あっ、オボロさん。確認が終わりましたので、報告に……ええっ!?」
カウンターの奥から女性が現れた。受付嬢の人だ。
僕のことを呼んでいるらしいから、行ってあげないとダメ。
踵を返した瞬間、受付嬢は瞬きをする。表情が強張っていた。
「お願いします。受付嬢さん」
「あっ、は、はい……えっと、その……オボロさん、後ろ」
「後ろ?」
僕は受付嬢に呼ばれたので、カウンターに戻った。
そこで“オボロ”と呼んで貰う。冒険者カードを一瞬見ただけで名前を覚えたんだ。
受付嬢って凄いなと思うと、何故か受付嬢は目を泳がせ、指を指していた。
「ブレット、どうしたの? なんだか顔が怖いけど」
「オボロ、お前ネシアさんと楽し気に話してるんじゃねぇよ!」
「ええっ、なんでこんなことになるの? まさか、いや、もしかしてだよね?」
僕はこの瞬間に悟った。
ブレットがナンパ目的で狙っていた受付嬢の正体。
その人こそ、僕の依頼達成を確認してくれていた女性だった。
何を勘違いしたのだろうか?
ブレットはネシアと呼ばれた受付嬢に名前を呼ばれただけで親しい関係だと錯覚。
そのせいで穏便に解決した筈の空気がぶち壊され、鬼の形相で睨まれてしまった。
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