第38話 綺麗な便箋
エピローグです。
僕は休日を満喫していた。
今日は冒険者の活動はお休み。
この間のトロールとの一件があり、僕は少しだけ負傷した。
すぐに治ったけれど、冒険者ギルドが立て込んでしまった。
だから僕達は数日冒険者としての活動は休みにし、こうして休日を過ごしている。
まぁ、明日には冒険に行くって約束はしているんだけどね。
「えーっと、トイレットペーパーは買った。歯磨き粉も買った。安売りしていた油も買った……後はなに買えばいいんだっけ?」
休日は買い物。否、買い出しだ。
生きているだけで、勝手に消費される日用品。
消耗品の類は、とにかく休みの日に買っておかないとヤバかった。
「ん?」
荷物を魔法の鞄に仕舞い、僕は買い物の途中だった。
そんな中、僕は気になる建物を見つけた。
如何やら何かの店らしいけど、何だろう。
「ここ、雑貨屋かな?」
僕は偶々見つけた店が気になった。
ちょっと古めかしい年季の入った店構え。
だけど逆に味があって、僕は興味を惹かれた。
何よりも、ここは雑貨みたいで、僕は入ってみることにした。
シャランシャラーン!
心地の良い鈴の音。
何だか気持ちがよくなると、静かな店内にビックリした。
「うわぁ、静かだね」
あまりにも店内が静まり返っていた。
見て回ると、店内には僕意外誰も居ない。
まさかの店員すらいないからか、僕は不安になった。
もしかして、やっちゃった? これ、何か買わないとダメな奴?
色んな考えが巡る中、僕の思考がグルンとした。
「でも、いい感じなんだよね」
店内の空気はとにかく静か。後、素敵。
少し湿気が強い気がするけれど、逆に雰囲気に合っている。
僕はいい穴場の店を見つけたと、勝手に喜んだ。
「うわぁ、コレ、アンティークの。素敵」
僕は見つけたアンティーク品に目をやる。
かなり古い。少なくとも百年くらい前のランタンの魔導具。
師匠達の住んでいた家に置いたら、結構合致するかも。
手に取ってみると、僕の視界に値札が入る。
「ゲッ。結構なお値段……」
僕は手にしたランタンの値段を見てビックリした。
正直、いいアンティーク品は高い。
けれど想像以上で、僕は場違いな空気漂う店内に、慄いてしまった。
「流石に無理」
ソッと壊さないように、ランタンを基の場所に戻す。
壊したらダダでは済まない。
師匠達や友達に泣きつくしかなくなる。
「それにしても、この店は一体……」
僕は店内を改めて見て回る。
どれもこれも、かなり品質の良い魔導具ばかり。
明らかに行為の冒険者向けの店。いや、それなら何故雑貨屋の姿を被っているのか。
僕は不思議でたまらなくなると、背筋がゾッと走った。
「やぁ、お客さんかい? 珍しいね」
突然声が聞こえた。気配がまるでなかった。
直接空気として伝わったかのように静かで、その気さえあれば、殺すことさえできる程に。
僕は言葉を失うと、ゆっくりと踵を返した。
「え、エルフ?」
振り返ると、誰も居なかった店内に、人が一人増えていた。
しかもカウンターの奥で、翠色の髪をした女性だ。
美しい。やけに整った顔立ち。おまけに特長的な長い耳。
確実にエルフなのだが、鋭く殺気を放ちそうな眼差しが僕を射た。
「エルフとは失礼だね。私はこの店のオーナーであり店主だよ。唯一の従業員さ」
如何やらエルフの女性はこの店の店主らしい。
今まで何処にいたのか? もちろん決まっている。
店の奥のバックヤードで休んでいたに違いない。
「えっと、この店は雑貨屋ですよね?」
「そうだよ。なにかお気に召したものでもあったかい?」
もの凄く落ち着いていている。そこに居るようで居ない。妙な感覚に陥る。
僕は今、この人の間合いに居る。否、この人の領域に居る。
つまり、下手なことはできない。ここは冷静になると、スッと息を吐く。
「えっと、偶々寄っただけです」
「そうかい。その偶々に巡り合った訳だ」
「そうですね。あの、この店は長いんですか? 随分と高価な物を揃えているみたいですけど」
軽い会話のやり取りで、僕は外堀を埋めようとする。
するとエルフの女性はニヤッと笑った。
僕のことを試すような、嗜めるような、不思議な笑いだ。
「確かにこの店の品物は、ほとんどが高価な物かもしれない。けれど、本当に物の価値が分かるのなら……」
「値段じゃなくて、品質で見ろ。ですよね?」
「へぇ、分かっているじゃないか」
師匠達に言われてきた。
物の価値、いや、人間の勝ちを勝手に決めてはいけない。
値段や見かけだけで判断して惑わされるのではなく、本当に見るべきは真実だ。
そのもの自体の在り方。それを見定められなければ、一流の冒険者にはなれない。この狂った世界を生きていけない。
「それで、品質の良いものはあったかい?」
「はい。たくさん……ですが、とても買えそうにないですね」
正直、この店で、今僕が買えるものは無い。
けれど面白い物ばかりが揃っていて、目を奪われる。
「……あっ!」
店内を物色して回る僕。
すると目に留まるものがあった。
木目の入ったザル状の籠に、何枚もの紙切れが入っている。
どれもこれも色とりどりで、香り豊かだ。
「便箋?」
「気に入ったのかい?」
「あっ、はい……」
それは便箋だった。つまりは手紙を書く時に使う用紙。
エルフの女性は、わざわざそんなものに目が留まった僕を見る。
瞬きをすると、頬杖を突き、僕の反応を待っていた。
期待されているのか、分からないけれど、僕はこれが欲しいと感じた。
「師匠達に、近況報告しないと」
スッカリ忘れていた。師匠達に近況報告を伝えないと。
手紙も全然出していなかったから、出したいなとふと思い、僕は便箋を幾つか手に取る。
「きっと値段もそこそこすると思うけど……安い?」
僕は値段を確認した。
一枚当たり、二十リル程。この店の品物にしては、非常に安い。
僕は便箋を手にし、エルフの女性店員に渡す。
「買います」
「おや、便箋かい? 珍しい物を買うね」
エルフの女性は意外に思っていた。
売物の中でも、比較的変われない品物らしい。
僕は合計で六十リル分の硬貨を手渡すと、ついでに封筒を渡された。
綺麗な色をしていて、僕は目を奪われる。
「あの、この封筒は?」
「おまけだよ。便箋だけだと、送れないだろう?」
おまけに便箋用の封筒をくれた。
これもいい色合いで、おまけに匂いがいい。
僕はありがたく受け取ると、笑顔で返した。
「ありがとうございます」
「毎度有り。またおいで」
「はい。そうさせて貰います」
僕はいい買い物をすることができた。
しかも如何いう訳か、エルフの女性に気に入られた。
そんなにおかしかったのかな? 分からないけれど、僕はいい買い物ができたと喜び、早速今夜、手紙を書くことにした。
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