表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
1ー4:食らう妖精、狂う少年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/39

第37話 サイコパスにも優しい街

明日を夢見て

 僕達は無事にトロールを倒した。

 その脚で王都ディスカベルまで戻って来た。

 ここまでまともな会話は一つも無かったけれど、多分、会話はしない方がいい。


 僕の五感はずっと研ぎ澄まされていた。

 もう見え過ぎて・聞こえ過ぎて、ヤバかった。

 頭の中が沸騰しそうな勢いで、アドレナリンがとパトパ出ている。

 ずっと興奮状態で、僕は血と肉を欲していた。


「あはは、あはは……はは」


 不気味な笑いが絶えず漏れ出ていた。

 理性で抑えきれない本能が爆発している。

 絶対に気持ち悪い奴だ。って分かってるのに、僕は止められなかった。


「オボロ、気持ち悪いわよ」

「うん」

「ごめん、エメラル&オボロ。なんだか楽しくって」


 頭の中がポワポワする。お酒に酔っているみたいな感覚だ。

 何にも考えたくない。考えてもいいけど、全部本能で塗り替えられる。

 そんなギリギリのラインを行き来すると、エメラルはマジな顔になる。


「はぁ。人前で殺しなんて辞めてよね」

「絶対にダメ」

「分かってるよ。人前では(・・・・)ねっ」


 エメラルは僕にバカみたいな注意いをした。

 一体僕の何所に“人殺し”の要素があるのか分からない。

 だけど空気的には真剣で、エメラルは強い目力だった。

 何だかそれ愉快で面白くて、僕はヤバい笑いを浮かべると、エメラルは引いていた。


「冗談に聞こえないわ」

「冗談だよ、冗談。さてと、着いたよ」


 僕は本当に冗談のつもりだった。

 まあ、人を殺すのに躊躇ったりはしないけど、流石に人前は目立ち過ぎ。

 僕は冗談を冗談に聞こえないように被せると、冒険者ギルドの前に立つ。


「ちょっと待ちなさい、オボロ」

「なに?」

「その格好で行く気? バカなの、正気なの?」


 エメラルが僕の肩を掴んだ。何故か冒険者ギルドに入るのを止めようとする。

 クロンも無表情だけど、コクコクと首を縦に振っている。

 そんなにみすぼらしい格好かな? それともわいせつ系かな? ここまでで掴まってないんだから、別に入ってもいい筈。

 確かに街行く一般人達から痛い視線を向けられていたけれど、僕はそんなの気にしなかった。否、気にする余裕がアドレナリンで吹っ飛んでいた。


「正気だよ。さっ、早く報告して解散解散」


 僕はエメラルの忠告を無視した。

 いつも以上に冷静さが欠けている。

 その自覚はあるけど、体の方が先に動くと、僕は扉を開けていた。


「ただいま~、戻りましたー」


 僕はフニャフニャになっていた。

 気持ちがブレた状態で冒険者ギルドに返って来ると、御通夜の様な冷たい空気が走っている。

 静まり返っていた空気が一変。集まっていた冒険者や受付嬢達の視線が、一斉に襲い掛かって来た。


「うわぁ、結構凄い」


 僕はいつもっぽい感想を出した。

 すると僕の姿を見た受付嬢の一人が悲鳴を上げた。


「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 突然受付嬢の一人が倒れそうになる。

 顔に手を覆うと、僕から視線を逸らす。

 冒険者達も目を見開いている。気持ちのいい悲鳴に、僕の胸が躍っていた。


「やっぱり、こうなるわよね」

「うん」


 エメラルもクロンも分かっていた。

 僕には分からないけど、何かあるのかな?

 そう思ってキョトンとする中、受付カウンターに女性が一人現れる。

 僕と面識があるネシアで、戻って来た僕達に視線を向けた……けど、何だか様子がおかしい。


「ど、どうしたんですか、オボロさん。その顔は!?」

「顔?」


 ネシアは口を開け、目を見開いた。

 “顔”を注目するように言われたから、僕は右手で顔を触った。


「あっ、血?」


 僕は顔を触ってみた。ベッタリしていて、気持ちが悪い。

 もしかしなくても、これは僕の血だ。

 トロールにやられたせいで、僕の額が裂けて、血が噴き出た跡だった。

 すっかり忘れていたけど、そうだ、僕怪我したんだっけ。もう止まって、固まっているけど、驚かれる理由も分かった。


「固まってるけど、そんなに気になる?」

「気になるでしょ。せめて顔くらい洗って、血を落としなさいよ」

「うーん、ん?」


 僕は首を捻ってしまった。

 冒険者らしいと言えば、冒険者らしいんだけど、こんな反応をされるなんて。

 頬を指でトントンすると、何を言ったらいいか分からない。

 ネシアでさえドン引きな顔に、僕は視線が右往左往する。


「マズいよね。この状況……なんとかしないと」


 とんでもないお通夜が、より一層暗くなった。

 冷え冷えで今にも筋肉が硬直しそうになる。

 不安になってしまうと、困り顔を浮かべた。


 僕は何かいい打開策はないか考えると、エメラルに肩を触られた。

 「トロール」と言われたから、僕はハッとなる。

 これは大チャンスで、今できる武器はこれしかない。


「えっと、トロールを倒して来たよ」


 僕は正直なこと言った。

 ただ逃げ帰って来たわけじゃない。ちゃんと成果を上げた。

 もちろんそんな安い言葉で信じて貰えるわけないと思うけど、僕は空気を変えたかった。

 その想いが通じたのか、突然冒険者達は腕を振り上げた。


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 冒険者ギルドの建物が軋みを上げた。

 とんでもない歓声に、震え立ち、僕達は度肝を抜く。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、マジか、本当に倒したのか!?」

「しかもお前かよ。マジで笑える。あはは!」

「その頭から被った血も、勲章って訳だな。なんだよ、メッチャカッコいいじゃねぇか!」


 急に空気が一変した。

 さっきまでお通夜みたいに暗くて、地獄の川のように冷たかった。

 僕に向ける眼差しは辛辣で、エグい疎外感を感じていた。

 それなのに、今は全然違う。百八十度逆さまだ。


「あれ? なんかみんな優しい?」


 今までにない勢いが襲い掛かって来た。

 もちろん嬉しい悲鳴ばかりで、僕は冒険者達に絡まれる。

 凄く優しくて、みんな笑顔だった。


「ねぇ、エメラル&オボロ?」

「はぁ。そうだったわ。冒険者って(・・・・・)普通じゃない(・・・・・・)のよね」

「感性が一般人と違う」


 エメラルもクロンも諦めていた。いや、思い出していた。

 冒険者に常識は通用しない。だって、冒険者自体は常識の範疇に居ない。

 一般人と比べてはいけない、線引きが底にされていて、エメラルもオボロも薄っすらと笑みを浮かべた。


「やっぱり冒険者は、みんなサイコパスよ」

「その素質がある」

「特にオボロみたいにね」

「僕? あー、あはは、じゃあこの街の冒険者が、サイコパスに優しいんだねー」


 冒険者の中には“狂った人”が居る。所謂、狂人って奴だ。

 僕は師匠達から言われていた。僕にはその才があるって。

 正直嬉しくは無いけど、付き合って行くしかない。

 だってこれは、先天的な物じゃなくて、後天的に植え付けられた習慣だから。


「君、アイツをトロールを倒してくれたって本当か?」

「えっ?」


 現れたのは少し青み掛かった髪色をした男性。

 僕はこの人を知っている。何故ならエメラルが代わりに引き継いだ、元の冒険者だからだ。


「スカイプ」

「本当に倒してくれたのか。トロールを、俺の仲間達を殺したアイツを」


 スカイプは怪我を負っていた。

 幸いなことに包帯でグルグル巻きにされてはいるけど、歩けるくらいには回復している。

 四肢を欠損していなかったのが大きいのか、回復も早そう。


 だけど顔色は非常に悪い。

 目元には大きな痣ができている。

 よっぽど気が気でならなかったらしく、僕の肩を掴んだ。


「うん。本当だよ、ねっ」

「そうね。トドメを刺したのは、オボロよ」

「エメラル……そうか。ありがとな、オボロ。俺の仲間の仇を取ってくれて」


 本当のことを伝えた僕。だけど僕だけでは信用が足りなかった。

 けれど僕もバカじゃない。そんなこと分かっていたから、エメラルにも視線を飛ばす。

 わざわざ“僕が倒した”ことまで付け加えると、ようやく信じてくれて、スカイプは感謝した。


「こんなので、スカイプの殺された仲間の気持ちが晴れるかは、分からないけどさ」

「いや、きっと浮かばれる筈だ。ありがと、本当にありがと」


 正直、死んだ人は帰って来ない。もう生き返ったりしない。

 特別な方法を使わないと難しくて、合法じゃない。禁忌に触れる。

 だからこれで浮かばれるのか、晴らせたのかは分からないけれど、スカイプは笑みを浮かべてくれた。


「なんだかシンミリして来たな。よし、今日はもう上がりだ。オボロ、お前の飲めるよな?」

「まあ、一応は?」

「そうか。んじゃスカイプ、飲みに行こうぜ。パーッと気晴らしさ。祝賀会だ!」


 最悪過ぎる空気を鑑みて、発起になってくれた冒険者の男性。

 地獄のような空気を一瞬で明るく変えてしまった。


 しかも僕はお酒の付き合いに誘われた。

 お酒は全然弱くは無いけど、好きでもない。

 断れない空気感だったから、僕は付き合うことにした。


「うん、行くよ」

「そう来ないとな。エメラル、クロン、お前たちはどうするんだ?」


 スカイプも自分のための祝賀会を開いてくれると察した。

 断る訳にはいかず、参加することにする。

 更に男性はエメラルとオボロにも声を掛けた。

 けれど二人の反応は微妙で、それより優先すべきことがある顔だ。


「私達は後で合流するわ」

「依頼達成の報告、しないとダメ」


 二人は僕を抜きにして、受付嬢に依頼を報告してくれるらしい。

 後で報酬は別けてくれると思うけど、任せちゃってもいいのかな。

 不安な顔をする僕に、エメラルは指を指した。


「私達が報告しておくから、オボロ。その間に血は拭き取っておきなさいよ」

「お店に迷惑」

「うん、そうするよ。ありがとね、二人共」


 僕はエメラルとクロンの忠告を素直に聞いた。

 流石にこれから行くお店に迷惑が掛かるのはダメだ。

 そう思うと、僕は集まってくれた冒険者達から離れる。


「それじゃあ後で合流するよ。それでもいい?」

「おう、いいぜ。店の名前はな……」


 僕は集合場所のお店の名前を訊いた。

 如何やら冒険者御用達の酒場らしい。

 王都に来てから、そう言った場所には足を運んで来なかった。

 どんな場所か、少し楽しみになる。何より、この大人数でワクワクした。


「ああ、やっぱり僕、冒険者になって良かった。王都に来てよかった」


 正直、辛いことも大変なこともたくさんある。

 だけどこの繋がりが好きだ。僕は生きてるって感じがする。

 今日の依頼はいつも以上に危険(ハード)だったけど、僕はこの無数の感情と笑顔を受けて、なんかいいなって思った。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ