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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
1ー4:食らう妖精、狂う少年

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第32話 トロン森の狂気

この森には嫌なものがある。

 トロン森にやって来た僕達。

 スカイプ達の代わりに依頼を引き継ぐと、急ごしらえの準備しかできなかった。

 だから下手な真似はできない。それでも、スカイプ達の想いを汲んで、今ここに居る。


「ってことでやって来たけど……」

「静かな森だね」

「うん」


 森の中は異様に静かだった。

 おまけに空気が冷めている。

 何やら異様な雰囲気を感じ取ると、僕達は警戒した。


「ここにトロールが……」

「って言っても、近くにはいなさそうね。もう少し、奥まで行くわよ」


 エメラルの言う通り、トロン森の入口付近に、トロールは居ない。

 その雰囲気さえ感じられず、ましてや魔物の姿も無い。

 それが何よりも不気味で、僕達はキョロキョロ視線を飛ばした。


「エメラル。確かこの森は、魔物が幅広く生息しているんじゃなかったの?」

「その筈よ。けど、これは想定外ね。自分の目で見て、ようやく痛感したわ」


 エメラルやクロンも首を縦に振った。

 トロン森の異変。それを直に見てハッキリした。

 圧倒的に活気がなく、森が死んでいた。


「本当、コレが全部」

「トロールの仕業」

「しかも一匹のね」


 たった一匹のトロールの存在。

 もはや妖精ではなく、鬼だった。

 僕達は魔物の凄さを思い知り、警戒を怠らない。


「とりあえず、少し奥には入ってみたけど……」

「なにも無い?」


 僕達はトロン森の少し奥までやって来た。

 この辺りになら、何かしらある筈だ。

 僕達は視線を飛ばすけれど、目立った変化はない。

 相変わらず魔物の姿が無い中、エメラルは視線を飛ばしていた。


「アレは……」

「エメラル?」


 何故かエメラルは走り出した。

 一体どんな視野をしているのか。

 想像は難くないけれど、エメラルはいつも以上に動いている。


「ちょっと待って。コレ、見なさいよ」


 トロン森の中を歩き回る中、エメラルが何かに気が付いた。

 戦闘を歩いていたからじゃない。

 冒険者としての視野が広かったから気が付けたのだ。


「赤い点……滴って、続いてるね?」

「もしかして?」

「そのまさかよ」


 エメラルの視線が下を向いていたので、僕とクロンも地面を見た。

 確かに赤い点が滲んでいる。

 滴った跡があり、この先に続いていた。


「これは血よ。しかも、魔物の体液じゃない。これは完全に人間のものよ」


 地面に滴っているのは血だった。

 しかも魔物特有の臭いもない。

 エメラルの言う通り、本当に人間のものらしくて、僕は嫌な予感がした。


「もしかして、スカイプの言ってたことって……」

「本当みたいね。全滅は避けられないわ」


 冒険者は命の駆け引きをする仕事だ。

 何処でどんな形で幕を閉じるかは分からない。

 だから一人一人に対して、命の尊厳を、死を弔っている余裕はない。

 その感情を押し殺す中、スカイプの予想は当たっていた。如何やら真実のようで、本当に全員死んでいるらしい。


「相当強いのかな、トロール」

「そうね。個体によるわ」

「個体……」


 魔物には個体差がある。大きさや性格・行動パターンも様々。

 ある程度の魔物は、生態行動(パターン)が決まっている。

 しかし一定の実力や知能を持っていれば、その限りじゃない。

 だから恐ろしくて、凄く面白かった。


「行ってみるわよ。全員気を引き締めなさい」

「分かってるよ」

「うん」


 僕達はエメラルを先頭にして、トロン森の奥へと向かう。

 この先に凶悪なトロールが潜んでいる筈だ。

 もちろん罠の類は気に掛けている。注意を払う中、僕達は森の奥から漂う腐臭に鼻を押さえる。


「うっ……これは」

「酷い悪臭ね。……ん!?」


 奥に行けば行く程、当然だけど臭いが強い。

 鼻を押さえ、周囲を警戒する中、エメラルは気になるものを見つける。


「どうしたの、エメラル?」

「コレを見なさい」

「コレって……」

「防具? 破損してるけど、冒険者のもの」


 エメラルが見つけたものに、僕とクロンも視線を落とす。

 拾ったりはしなかったけれど、落ちている物を見て絶句。

 クロンは一切オブラートに包むことなく発した。コレは冒険者が着る防具の一部。

 これが落ちているってことは、より一層、スカイプの言葉が確信に変わった。


「そうみたいね。ってことは、もう死んでるわ」

「余すことなくね」

「はぁ。本当に仇討ちってこと?」


 正直、そんなの嬉しくも何ともなかった。

 けれどここに来た以上、嫌でも受け入れるしかない。

 悍ましい現実。コレが冒険者稼業で、仕方が無い。

 人がいくら死のうが、悲しんでいてはいけないんだ。


「それじゃあ本格的にトロールを探すわよ」

「そうだね。クロン、探索系の魔法は使えないの?」

「そんなの使えない」

「そっか」


 僕達は本格的にトロールを探す。

 敵討ちじゃないけれど、これ以上の被害は出せない。

 視線を隈なく移す中、僕はふと、クロンに訊ねた。

 探索魔法が使えないか、万に一つの可能性に懸ける。


「オボロ、クロンに期待しても無駄よ。クロンはね、攻撃魔法しか使えないの」

「それじゃあいざトロールが現れたら」

「ボコボコのグチャグチャ」

「うん、嫌な表現だけど合ってるよ」


 クロンは攻撃魔法しか使えない、黒魔導士だ。

 魔法使いの中でも、その実力は相当高い。

 だけど今は役に立ってない。僕もエメラルもだけど。


「そう言うオボロはなにかないの?」

「なにかって言われても……そうだな」


 僕は魔法の鞄に手を突っ込んだ。

 中から取り出したのは、三角錐の形をした振り子だ。


「なによ、ソレ? 振り子(ペンデュラム)?」

「の形をした魔導具だよ。僕の友達に昔貰ったんだ」


 僕が取り出したのは振り子の形をした魔導具だった。

 特殊な代物で、僕の精神エネルギーの干渉して効果を発揮する。

 指定したものに対する情念が強ければ強い程、見つけられる可能性が上がる。

 そんな特殊なもので、一般的に発売されていない。僕とその友達しか持っていない。


「コレを使えばね……こっちだね」


 僕は精神を研ぎ澄ました。

 意識を集中させると、手にした振り子が浮き上がる。

 まるで意志を持ったみたいで、魔力を帯びて輝くと、ある方向を指した。


「凄いわ。コレがあればすぐに見つけられるのね」

「そんなことないよ。トロールと僕の繋がりは薄いから、なんとなくで方角を指しただけ」

「それでも充分よ。早く行きましょう」


 エメラルは大絶賛だった。欲しそうな顔をしているけれど、絶対に上げない。

 僕の奥の手……ってことは無いけど、大事な魔導具だ。

 制度はまばらだけど、僕はかなり気に入っている。

 まぁ、一度使ったらしばらく使えないけれど、振り子が指した方に向かった。


 ボシャッ!


 嫌な音が聞こえた。

 酷く鈍い音だった。

 僕達は足を止めると、気配を殺した。


「今の音、聞こえたわよね?」

「うん。聞こえた……けど、なにかな?」

「分からないわ。分かりたくもないけど」

「行ってみる?」

「もちろんよ」


 僕達は何かが折れる音が聞こえたので、耳を澄まして向かった。

 すると草木の陰から、灰青色の毛玉が見えた。

 僕達よりも随分と大きい。ジッと下を向いて、何か食べている。


「アレって……」

「トロールよ。間違いないわ」


 予定通りトロールを見つけた。

 頭の中で想像していた通りの見た目だ。

 僕達はコッソリ、トロールを観察すると、ギョロッと目玉がこちらを向いた。


「ナンダ、マタオレノナワバリニハイリコンダニンゲンカ!?」


 “縄張り”? もしかして気が付かれたのだろうか。

 僕達は息を飲み、ゆっくりと遠ざかろうとする。

 これで行動されなければ気が疲れてはいない。けれどそんな甘いことは無かった。


「気が付かれた?」

「そんな筈ないわ。気配は殺していたもの」

「それじゃあどうして……」


 僕達は口々にそう言った。

 もしかすると気配以外の何かで気が付かれたかもしれない。

 そんな筈はないと思いつつも、トロールは動いた。


「ソコニイルノハワカッテンダヨ!」


 トロールは立ち上がって、腕を振るった。

 乱暴に近くの気を薙ぎ払った。

 僕達の頭上を木の幹が飛び越えると、僕等の姿は露出する。


「ミツケタゼ、ニンゲンヨ」


 僕達は予定だに無かったパターンで、トロールと対面した。

 随分と気配を探るのが上手い個体だった。

 けれどどうせ接敵するんだ。僕達はトロールを眼前に構え、奥歯を噛んだ。

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