第29話 薬草を採りに行こう
冒険者の勘は当たる。
僕達は薬草を採りに向かった。
今回はとにかく軽い依頼だ。
適当……はダメだけど、いつもよりもアッサリする。
「さっ。早く採取するわよ!」
エメラルは腰に手を当てた。
号令を出すと、目の前の草むらを見つめる。
「薬草の採取って、簡単そうに見えて、結構難しいよね?」
薬草の採取は簡単そうに見え過ぎる。
だけど実際にはとんでもなく難しい。
何せ、生えている植物は、大抵同じ形だ。
「そうよね。知識がないと、適当な雑草を毟るだけよね」
「雑草は……クソ」
エメラルやクロンも同感だった。
実際、薬草の採取には知識がいる。
とにかく主流な依頼なんだけど、知識がなかったら、普通に雑草を採取して冒険者ギルドで、受付嬢から冷たく笑われる。僕も師匠に教わってなかったら、多分そうなっていた。
だけどそんなことは如何でも良くて、僕はクロンの言葉が気になった。
結構クロンも強い言葉を使う気がした。
だけど雑草も役に……とか言ってられないな。
「雑草だって、地盤を固くするために貢献してくれているんだからね」
「まぁ、そうよね。ってことで、薬草だけ採取するわよ」
雑草だって役に立ってくれていた。
だから僕も負けてられないと思い、早速作業を始める。
エメラルも同意すると、意気揚々と採取に取り掛かる。
「もうやってる」
しかしクロンは誰よりも手早かった。
すぐさましゃがみ込むと、薬草を選別している。
雑草はまばらに抜き取りながらも、育った薬草を袋に詰めていた。
「ちょっとクロン。なんで今日は手際がよいのよ」
「早く終わらせたい」
「早く終わらせたいって……なにかあるの?」
何やら用事があるのか、無いのか?
クロンは少しだけ急いでいるようだ。
何か早めに終わらせてやりたいことがあるのかもしれない。
「別に、特に無いけど」
「無いんだ。だったら急ぐ必要ないでしょ?」
「それはそう……でも」
クロンの言葉には含みが隠れていた。
決して急ぐ必要は無い筈なのに、遠くの方を見つめている。
「でもって、やっぱりなにかあるよね?」
「なんだろう?」
「分かってないの? はぁ、でも確かに、胸騒ぎはするわよね」
訊き返してみたけれど、クロンの起伏は少なかった。
何かは分からないが、もの凄く心が逸る。
エメラルも胸騒ぎがするようで、集中できていなかった。
「胸騒ぎって、スカイプ達のこと?」
「そうね。なにかあるのかしら?」
“胸騒ぎ”云々の話になれば、考えられるのはスカイプ達のことしかない。
もちろん僕はスカイプ達がどんな冒険者なのかは詳しく知らない。
多分強いとは思うけど、胸騒ぎは……まぁ、しないこともないかな?
「なにも無いと信じたいけど……ねぇ?」
何も無いと信じることしかできない。
僕達冒険者に大切な精神は、明日は我が身だ。
思いやることも大事だけど、それ以上に、目の前のことに全力を注ぐ。それが鉄則だって、僕は師匠達から教え込まれていた。
「やっぱり、私達が受けた方がよかったかしら?」
「そんなの結果論だよ」
「それもそうね。でもやっぱり気になるわ」
エメラルは自責の念に駆られていた。
だけどまだ何も起きていないんだ。
エメラルが心配するのは杞憂なので、僕は落ち着かせる。
それでも天を仰いでしまい、薬草も……スパスパ採取していた。
「はぁ。大丈夫だといいけど……」
エメラルは心配していた。
その気持ちが僕にも伝染する。
とは言え、信じるしかない。それくらいしかできない。
何せ僕達は、スカイプ達の動向なんて、知る由も無いんだから。
スカイプ達はトロン森にやって来ていた。
調査を始めてから数時間。
ある種の違和感には気が付いていた。
「どう思う、この状況」
「そうね。あまりにも魔物の数が少ないと思うわ」
「だな。コレ、なにかあったに違いないぞ」
女性冒険者のミーツ。それから男性冒険者のズム。
二人は不穏な気配に気が付いていた。
最初期からスカイプと組んで来た冒険者だ。
連携は見事に取れている。
「そうか。それじゃあもう少し先に行くか」
「ちょっと待ってください。流石にこれだけ魔物の気配がないと、不気味です。一旦引くべきです!」
冷静な判断を下したティム。
パーティーの新参者だが、その洞察力と臆病さは誰にも負けない。
冒険者は臆病なくらいが丁度よくて、特に探索や調査には重宝される。
「そうは言ってもな。流石に成果がなさすぎる」
「そうですね~。これじゃあ、ギルドに報告できませんよね~」
グチグチと愚痴を吐いたのは、パーティーで一番の新米。
オットリとした、ディス子と言う名の女性だった。
言葉の抑揚が幅広く、「あはは」と呑気に笑っていた。
「ディス子は相変わらず過ぎます」
「そんなこと言っても仕方ないわよ?」
「そうだな。成果は必要だ」
「二人も!?」
ミーツもズムもディス子に乗る。
孤立したティムは両頬に手を当てた。
最後の頼み、スカイプに視線を飛ばすも、スカイプもティムの意見は無視する。
「ティム。ここはもう少し調べてみるぞ」
「スカイプも!?」
「うん。ここで成果を上げれば、ギルドも僕達のことをより高く買ってくれる筈だ。ここは少し危険でも、行くべき……」
スカイプはエメラルのように、信頼される冒険者だった。
実力は高く、成果も上げて来た。
けれど何かとエメラルと比べられる。もちろん、それは仕方が無いことで、エメラルの実力が自分よりも上なことは理解している。だけど、スカイプだってもっと地位を上げたいと望んでいた。
だからこそ、冒険者が本当にやるべきことを忘れていた。
目の前の危険を疎かにするなんて真似、決して許される訳がなかった。
だからこそか。スカイプ達は気が付いた。
「……この気配は!?」
スカイプ達は武器を手にした。
けれど間に合わなかった。
突如として轟音が響き渡ると、木々達が薙ぎ倒され、スカイプ達の視界が奪われる。
「な、なんだ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」」」
「スカイ……プ、逃げて……」
何が起きたのか。スカイプは薄っすらとする視界を広げた。
そこには倒れた仲間の姿。
それに加えて、灰青色をした魔物の巨体が浮かび上がる。
「アレは……くっ」
完全に急襲だった。スカイプ達では対処しきれなかった。
何がマズかったのか。深入りし過ぎたのかもしれない。
自分の判断を呪うと、スカイプは唇を噛み、ただ逃げるしか道はなかった。
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