第27話 トロン森の支配者
今回は別Part。
オボロ達が怪しんでいた森、トロン森。
普段から数多くの魔物が生息しているこの森は、それなりにいい塩梅の魔物達の関係値により、平穏が築かれていた。
けれどそんな平穏に、陰りが見えた。
何処からともなく、その魔物は現れてしまった。
否、生まれてしまったのだ。
「ギャッ!」
「「ギャギャッ!!」
ゴブリン達は互いに独自言語を使い、コミュニケーションを取っていた。
これもゴブリン達の間では普通のこと。
少しだけ知能の高い個体が生まれたから、こうして言葉でのコミュニケーションが可能になっているのだろう。
「ギャーギャギャッ!」
しかしいつもとは少し様子が違っていた。
何やら慌ただしい様子で、言葉にメリハリがある。
焦っているのか、何なのか、とても冷静ではいられなかった。
「ギャッギャ。ギャーギャッ!」
「ギャギャッ!?」
「ギャンギャ!」
魔物の言葉は難しい。言語体系が違うからだ。
けれど何かに怯えている節が見える。
何となくそう感じると、ドスン! とけたたましい音が炸裂。
ゴブリン達は身を寄せ合うと、恐怖で震えてしまった。一体何があるのだろうか、何が起きているのだろうか? それはトロン森に生息している魔物にしか伝わらない。
ところ変わってスライム達の様子を見てみた。
青色をしたゼリー質の物体が蠢いている。
ごくごく一般的。この夜で最も有名な魔物、それがスライム。
特にこの青色をした種が、一番知られているだろう。
「プキュッ?」
もはや鳴き声なのかも怪しい。そんな音が、スライムの中から聞こえた。
会話なのかは分からない。ただ唸っているだけかもしれない。
それでもスライムが何かを感じ取った……かさえ、分からなかった。
「キュキュ」
そこに赤色をしたスライムがやって来た。
ちょっとだけ元気がいいのか、活発な個体だ。
別に色が如何とかではない。スライム達にとっては、関係のない話だ。
「プキュ?」
「キキキュ!」
「プーキュ?」
「キュキュキュ!」
皿を洗っているようなリズミカルな会話が繰り広げられていた。
もちろん、ほとんどの存在にその会話様式を解読することはできない。
もはや音の共鳴。そのレベルのやり取りで、スライム達は危機を知らせ合った。
「キュンキュルプー!」
そこに更に元気な個体が現れる。
黄色のスライムが元気よく薮の中から飛び出す。
ピカピカしていて一番目立つ。そんなスライムはポヨンと跳ねた。
「キュンキュルキュンキュル!」
慌ただしい様子だ。それだけは伝わる。
けれど何に慌てているのか、詳しくは分からない。
仲間であるスライム達もポカンとし、無い筈の首を傾げると、目をパチパチさせた。
「キュンキュルキュキュンプ!」
「「プーキュ!?」キュンキュン!!」
事態を察知したスライム達は混乱する。
ジタバタと飛び跳ね続けると、薮の中へと逃げる。
このままではいけないと悟ったのか。急いでトロン森を後にしようとし、その場から居なくなってしまった。
ドスンドスンドスン!
もの凄い轟音が響き渡った。
一体何が起きているのか。
それはトロン森の中心部での出来事だった。
そこには木が密集している。
全部丸々としていて、かなり分厚い。
タダでは薙ぎ倒されないような木々が生い茂る中、そんな木々を次々丸太にする生物が居た。
「ハラガヘッタ」
たどたどしい口調。しかも人間の言葉。
慣れないせいか、上手く喋れてはいない。
それでも人間の言葉を模倣すると、その生物は、人間ではなく魔物だと分かる。
「ハラガ……ヘッタ!」
魔物は唸り声を上げた。
そのままの勢いで木々を薙ぎ倒すと、暴れ回っている。
完全に手が付けられない状態になっており、極めて危険だった。
「クッ……ゴブリンダト、タリナイ。モット、モットダ!」
傍らにはゴブリンの死体が落ちていた。
体がバラバラにされていて、噛み千切られた痕がある。
酷い有様で、大型の魔物に食べられたのだ。
シッカリと歯型が残り、赤い体液(血液)で汚れている。
「ギャッ!」
「(バキッ!) モット、ウマイ、ニクヲ」
捕まっていたゴブリンは、頭から齧り付かれた。
一瞬で絶命すると、魔物は悪態を付く。
魔物が魔物を食う。これも魔物の世界だと常識だったが、一つだけ歪なことがあった。
魔物は何も食べなくても生きていける。
その絶対から逸脱していたのは、目の前の魔物が、食肉に飢えているから。
もっと強くなるために、成長を促すために、他の弱い生物を食らう。
魔物の成長進化と言う本能で、灰青色をした魔物は、それを理解しているのか、いないのか、分からないけれど、とにかく飢えていた。
「モットダ、モットモットモット!」
魔物は唸り声を上げていた。
生贄を差し出さなければ止まることは無いのだろうか?
否、そんなものがいくらあっても足りることは無い。
圧倒的な食欲と本能に、魔物は従っているだけだった。
「ギャギャッ!?」
「ウガッ!?」
近くの藪が動いた。
その音に……否、気配に勘付いた。
グルンと振り返ると、殺気漂う視線を飛ばした。
「オレノテリトリーニハイルナ!」
魔物は振り返った。
その先には運悪く立ち入ってしまった憐れなゴブリン。
圧倒的な筐体を前にして、身動きが取れなくなった。
「ギャムァッ!」
ゴブリンは運が悪かった。
魔物の拳によって頭蓋骨を粉砕させられた。
一瞬で息絶えると、魔物は更に口に運ぶ。
「マズイ。マダダ、マダ、タリナイ!」
魔物は苛立っていた。
牙をガミガミさせると、地面を叩いた。
もっと上質な肉が欲しい。そう思っているのか、魔物さえ分かっていない。
「オレハオレハ……アアアアアアアアアアアアアアア!」
魔物は何故か一度発狂した。
すると冷静な思考を持ち、心が落ち着く。
サイコパスみが醸し出されると、魔物は動きを止めた。
何故かピタリと止まると、近くに転がるゴブリンの死体を弄んだ。
「オレノジャマヲダレモサセルカ」
魔物にだっていきり理由があった。
そのためには生物を食うことさえある。
けれどそんなもの、単なる過程でしかない。
それもその筈、この魔物には意味が無い。
自分の快楽を発散するためだけだった。
方法も、あまりにも狂っていたのだ。
ただこの魔物は自分に領域に入って来た全てを食らう。
その圧倒的な気配察知能力を武器にしている。
相当強い個体なのか、一瞬にして、トロン森の生態系の頂点に位置していた。
これが全ての元凶だった。
全ての始まりだった。
王都ディスカベル一体で起こる、魔物の異常行動。
その事実に冒険者達はようやく気が付くと、後日調査に向かうのだった。
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