第25話 スライムの調査は忘れてない
明らかな惨状。それでも調査は忘れない。
「ってことで、調査したいんだけど……」
「その前に、この惨状よ」
クロンのおかげもあり、無事にボサボ草原に大量発生していたスライムの群れは、一掃することに成功した。
だけど代わりにとんでもない落とし物をされてしまった。
見ただけでも目を背けたくなる光景。もはやボサボ草原の跡形は無くなっていた。
「どうするのよ、クロン」
「ん?」
「んじゃないわよ。この光景、貴女が作ったのよ。ちゃんと理解しているのよね?」
クロンに対して、エメラルは凄く怒っている。
今にも手が出てしまいそうだけど、言葉で責め立てている。
エメラル、さっきはちょっと殴ってたけど、反省したんだな。
僕は横目で見ながらも、黒焦げになったボサボ草原の変わり果てた姿に絶句する。
「はぁ。どうしようかな?」
正直、こうなった以上、こうなったとしか言えない。
後でギルドに報告するとはいえ、しばらくボサボ草原には、誰も近付けない。
もちろん、ダンジョンだって生きている。自然と時間が経てば、元通りに放ってくれる。
けれどここまでの惨状を引き起こしたクロンの魔法。やっぱりとんでもなかった。
「クロン。どうやってこれだけの魔法を使えるようになったの?」
「気になる?」
「一応ね。僕も師匠に魔法については、一通り教えて貰ったけど。その才能が僕には無くて、活かしきれなかったから。ちょっと興味があるんだよ」
僕は師匠に魔法の修行を付けて貰った。
だけど僕自身には、あまり魔法の才能が無かった。
風属性の魔法は得意だったけど、それ以外は“使える”ってだけで、実践には活かせないものばかりだった。
「それは……」
「はいはい、そんな話はまた今度でいいでしょ」
エメラルがクロンの話に割って入った。
せっかく会話の機会があったのに、それを平然と潰される。
もちろん、エメラルにだって理由はある。ボサボ草原に散乱した、大量のスライムの体液を回収する必要があった。
「まずはスライムの体液を回収するわよ」
「うん。スライムの体液は、色々と使える」
「あっ、魔法の話……まあいっか」
僕はエメラルに賛同した。
クロンも空瓶を取り出すと、散らばっている、色とりどりのスライムの体液を集める。
今日は昨日以上に、たくさんの空瓶を持って来たんだ。
使わないのは勿体なくて、僕は魔法の鞄に手を突っ込んだ。
「回収頑張るぞ!」
やる気を出すと、早速回収することにする。
近くはクロンに任せることにして、僕は少し遠くへ。
撒き散らされた大量のスライムの体液を、僕は空瓶に詰めた。
正直品質が削れていて、売り物としては及第点だと思うけど、これだけ数があればそれなりにはなる筈だ。
「うわぁ、レッドスライム。カピカピに干上がってる」
「クロンの魔法の影響よ」
「クロンの?」
僕は見つけたレッドスライムの体液を摘まんだ。
カピカピに乾き切っていて、水分は抜けている。
もはや干物も同然で、僕は空瓶に押し込んだ。
そんな姿を見兼ねたエメラルがやって来る。
こうなったのも、クロンの魔法が原因。
親友であり相棒でもあるクロンの責任を、少なからずエメラルは背負っていた。
「そうよ。クロンは元々魔法使いの才能が有ったのよ。それを自己流で鍛えて鍛えて、今だと魔導書の執筆を依頼されるくらいになったのよ」
「元々あった才能を、更に際立たせて伸ばしたってこと?」
「そう言うことよ。それよりオボロ、どうしてこんなにスライムが大量発生したと思う?」
クロンの魔法力の強さの原点。それは、元々才能があったから。
それを自己流で鍛えていき、少しずつ強くした。
つまりは努力を重ねていった結果で、クロンの底知れない魔法使いの才能を開花させたのだ。今では魔導書の執筆をするくらいなんて、僕とほとんど変わらない歳なのに、エグい。
僕は感心すると、エメラルは話を切り替えた。
スライムが大量発生した原因。調査することを、忘れていなかったらしい。
「忘れてなかったんだね」
「当り前よ。一応私の見解だけど、クロンと話してみたの」
「クロンと?」
「そうよ。ボサボ草原は、元々魔力の濃度が濃いから、大気中の魔素に影響を及ぼしちゃった。そのせいで、スライムが大量発生したって、考えているんだけど……どう思う?」
エメラルの考えはベタだけど、全然悪くなかった。
寧ろそれが一番可能性がありそうで、僕は首を縦に振る。
同意見だと言いたいけれど、少しだけ引っ掛かる。
それが原因だとすれば、普段からスライムが大量に発生している筈だ。
「僕も同じ事を思ったよ。でもね……」
「違うんでしょ?」
「そうだね。この間のゴブリンの一件と言い、今回のスライムの大量発生。なんだか繋がっている気がするんだ」
同時期に、しかも数日おきに、これだけ魔物の動きが活発になるなんて普通じゃない。
魔物相手に、人間の普通を問いただしても、伝わらないのは分かっている。
だけど、あまりにも状況が似ている。どちらにも共通して言えるのは、魔物が突然大量に現れたことだろう。
「なにか原因がある筈だよ。ナパナパ森もボサボ草原も、この近くの筈だから」
「そうね。確かに一本の線で繋げるわ」
ここボサボ草原と、ナパナパ森は、場所は離れている。
だけどそれぞれにAとBの点を付けて、一本の直線の線で結ぶことができる。
それくらいの関係で、僕は偶然とは思えなかった。
「ってことは尚更……ねぇ、エメラル。あの森はなに? ナパナパ森じゃないよね?」
僕は作業の片手間、顔を上げた。
視線の先に留まったのは森だが、ナパナパ森とは少し違う。
だけどナパナパ森とボサボ草原。二つのダンジョンから、一本戦で結んだ間にあった。
「あの森? 確かトロン森じゃなかったかしら?」
「トロン森?」
何だろう、そのやる気の感じられない名前。
もはや適当に付けられたとしか思えないけれど、そんなことは如何でもいい。
僕はあの森から嫌な感じがした。エメラルが気が付いていない筈ないけど、何かあるのかな?
「トロン森ね。最近、いい噂を聞かないのよ」
「いい噂を聞かないって?」
「トロン森の名前の由来は、トロールの棲む森なの。実際に、トロールが棲んでいる訳じゃないんだけどね」
普通だった。メチャクチャ普通の名前だった。
トロールと言う魔物の名前を単に短くしただけ。
手抜き感は否めないけど、分かりやすさに全振りだった。
「トロールが生息しているの?」
「昔はそうだったらしいわ。でも、最近は聞かないわね」
「だけど、いい噂を聞かない?」
色々と言葉が矛盾している。
状況がサッパリ分からないけれど、エメラルも腕を組んだ。
「最近になって、森が騒がしいみたい。冒険者ギルドも、冒険者を派遣するか迷っているみたいなのよ。本当、なにが起きているんだか?」
「エメラルは知らないの?」
「知らないわよ。別に私は、王都で活動する冒険者の顔役って訳じゃないわ」
そこは謙遜しなくてもいいのにと、僕は素直に思った。
けれどエメラルが不介入ってことは、よっぽどなんだろう。
冒険者ギルドも慎重に調査しているに違いなくて、僕みたいな新参者が、首を突っ込んでいい訳なかった。
「それより、スライムの体液は回収した?」
「うん。空瓶が全部なくなっちゃうくらいは」
用意して来た空瓶は全部使い切っちゃった。
だからもう体液の回収はできない。
これ以上の収穫は得られそうになかった。
「そうなの。私の方も回収しきったわ」
「そっか。それじゃあ今日は帰るの?」
「それしか無いわね。クロン、貴女もいいわよね?」
「……うん」
エメラルはクロンに呼び掛けた。
たくさんのスライムの体液を集めている。
エグい量で、僕は言葉を失うも、エメラルはリーダーシップを執った。
「それじゃあ帰るわよ」
「結局、スライムが大量発生した理由は分からなかったね」
「そうね。気掛かり以外は」
「だね」
僕もエメラルもトロン森が怪しく思えて仕方が無い。
だけどまだ根拠は何処にも落ちていない。
確信が持てないのに、下手にいじっても状況を悪化させるだけ。
ここは押し黙ることにし、僕達は王都に再び戻った。
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