第23話 黒い魔法使いの少女
今思えば、あの人気映画のスピンオフ二作目は、どれくらいの評価なのかな?
「エメラル、少し遅くなるって言ってたよね?」
僕は冒険者ギルドにやって来た。
エメラルがクロンを連れて来てくれるらしい。
凄腕の黒魔導士。所謂魔法使い。
どんな子なのか気になるけど、朝早くに着過ぎたせいか、同業の冒険者の姿さえなかった。
「冒険者にとって、朝は一番大事なんだけどね」
冒険者にとって、旨い依頼を取れるか取れないかは大きい。
そのためにも、絶対に朝だけは大事なんだ。
できるだけ早く冒険者ギルドに行き、旨い依頼をいち早く奪取する。
それが新人冒険者の鉄則だった。まぁ、僕はCランクだから、そんなに急がなくてもいいんだけどね。
「とは言え……ん?」
そんな中、僕は冒険者ギルドで気になる人影を見つけた。
広間で立ち尽くしている冒険者の数が少ないから、絶対に目を惹く。
立っていたのは少女。しかも小さい。多分僕やエメラルよりもさらに小さい。
黒い髪に、若干紫の入った黒い瞳。徹夜明けなのか、目の下には隈がある。
更に黒いローブに、黒いブーツ、黒い杖……全身黒尽くめの魔法使いだった。
「あれ、どう見ても魔法使いだよね?」
百%魔法使い。誰が何と言っても魔法使い。
もしかすると、錬金術師の可能性もあるけど、多分あの杖は魔法使い。
僕は色々気になってしまうと、もしかして? と首を捻り、声を掛けることにした。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
僕は声を掛けてみた。少女は「ん?」と喉を鳴らす。
僕のことを視界に収めると、ジト目を浮かべていた。
別に不満があるとかじゃないみたいで、元々ジト目っぽい。
「貴方、誰?」
「ああ、そうだよね。突然話し掛けてごめんなさい」
突然話し掛けたのは僕。
警戒されるのは無理なくて、自然な流れで魔力が集まっていた。
いつでも失神程度の魔法を放てるように隠れて準備すると、僕は警戒心を解くことに全力を注ぐ。
「僕はオボロ。最近王都の冒険者ギルドに来たんだよ」
「……オボロ?」
「そう、オボロ。君は?」
僕は黒髪魔法使いに訊ねた。
すると黒髪魔法使いは杖を床にトンと突く。
音を立てると魔力が散り、如何やら警戒は解けたらしい。
「私はクロン。エメラルのパーティーメンバーで、〈《眩き宝石》〉に所属してる」
「えっ?」
「オボロの名前、エメラルから聞いてる。凄い盗賊らしいって、頼りにする。よろしく」
何だろう。簡潔かつ雑な自己紹介が展開していた。
まるで簡単な履歴書の様なやり取りだった。
僕は呆気に取られると、瞬きをするしかなくなる。
エメラル、マジで凄い冒険者何だなって、手早い行動に驚かされた。
「よろしくね。って、それだけ? エメラルは?」
「……エメラルは……あっ!」
「怒られるよ、それ。エメラル、真面目だから」
エメラルは真面目だ。
確か昨日、エメラルはクロンを迎えに行くって言っていた。
だけど今僕の目の前にクロンが居る。つまり、エメラルを置いて来たってことだ。
「どうしよう?」
「うーん、結果で示すしかないかな?」
「結果。確か、スライム大量発生の調査?」
「そうだよ。よかった。クロンはエメラルみたいに戦闘思考じゃなくて……」
僕はホッと一息を付く。
エメラルは真面目だけど、それが別方向に行くことがある。
スライム大量発生の原因を調査する筈が、討伐する思考に汚染されていた。
だからクロンにもその思考が伝染していないか心配だったけど、そんなバカなことは無いみたいで安心する。
「それじゃあ、スライムを倒せばいい?」
「なんでそうなるのかな? 調査にならないよね、それ?」
「ん?」
全然分かっていなかった。
同じ穴の貉って言うべきなのかな?
多分だけど、エメラルの思考がクロンに移ったんじゃない。
クロンの思考がエメラルに移ったんだ。
僕は経験則で判断すると、肩を落としてしまった。
「オボロ?」
「うん、大丈夫。クロンはエメラルが認めるくらいの強者。それになにかあっても、エメラルなら踏み止まれる。そうだ、きっとその筈だ」
僕は自問自答して、自分の中で落とし込んだ。
クロンの性格はまだハッキリとはしていないけど、エメラルは真面目だ。
例えスライムを討伐したとしても、結果オーライになる未来が見えた。
どのみち数を減らさないことには、いつか被害も出る。きっとこれは、エメラルなりの未来への対策ってことにした。
「とりあえずできることはやる。怒られたくない」
クロンはやる気を出してくれた。
だけど顔色からは全く分からない。
それでも僕は澄んだ顔を浮かべると、クロンを信じることにした。
だって信じないと、冒険者のパーティーなんて、やっていられない。
「そっか。それじゃあよろしくね」
「よろしく」
エメラルが来る前に僕とクロンは初対面を果たした。
空気としては悪くない。本当にエメラルの言う通りだった。
冒険者としては感情の起伏が少ない方がいい。まさしくそれを体現していて、僕とクロンの関係値も、エメラルのおかげもあり、上々かつ円滑に進んだ。
「それじゃあ後はエメラルが来るのを……」
「待つだけ。でも、怖い」
「怖い、どうして?」
後はエメラルが来るのを待つだけだ。
とは言えクロンは何故か怖がっている。
表所が少しだけ震えると、何かあるのかと気になった。
その時、急にバン! と冒険者ギルドの扉が開く。
眩しい朝の陽射しが入ると、自然と視線を奪われた。
立っている少女。背中の四尺刀が目印になる。
「えーっと、あっ、いたわね!」
そこにやって来たのはエメラルだった。
ここまで走って来たのか、汗を掻いている。
もしかしなくても、クロンを捜していたに違いない。
「あっ、エメラル」
「おはよう、エメラル」
「おはようじゃないわよ、全くもう」
ちょっと怒っていた。僕達が挨拶をしても返してくれない。
ムッとした表情を浮かべると、クロンにガンを飛ばした。
「エメラル、走ったの? 汗、凄い」
「当り前よ。一体どれだけ貴女の家の前で待ってたと思ってるの?」
「……ごめん」
クロンは肩を落として落ち込んだ。
表情には出ないけど、態度には出る様子。
僕は「まぁまぁ」と落ち着かせようとするけど。そんな空気じゃない。
「だいだいクロン、研究はいいのよね?」
「うん、それは終わってる」
「だったらもっと早く復帰しなさいよ」
「ごめん。今回はシッカリやる」
「今回だけじゃなくて、毎回シッカリチャントやってよね!」
クロンの言葉を上手い具合に丸め込む。
流石はエメラル。僕は圧巻だった。
すると今度は僕に視線を飛ばしたエメラルは、「はっ」と息を吐く。
「とりあえず自己紹介は済んだみたいね」
「うん。エメラルが来るまでに済ませたよ」
「そっ。それじゃあ改めなくていいわね。クロン、こっちがオボロ。うちのギルドじゃないけど、なかなかやるわ。後、ちょっとヤバい殺気を持ってる。いざとなったら、魔法をぶっ放しなさい」
とりあえずは簡単に自己紹介は済ませておいた。
エメラルもそこまで読んでいたのか、改めて自己紹介はしない。
時間を効率化させると、クロンに変なことを言い出す。僕のことを“ヤバい奴”認定すると、いざとなったら魔法を放てとか言ってた。止めて欲しいんだけど、冗談に聞こえない。
「怖いんだけど、止めてくれるかな?」
「分かった。ぶっ放す」
「その意気があればいいわ。それじゃあ行くわよ、二人共。今日こそ終わらせるんだから」
クロンも了承しないで欲しかった。
だけど僕なんかの話は耳に入ってない。
むしろスルーされると、エメラルは景気付けた。それはいいんだけど、号令を合図に僕達は一応拳を突き上げた。
「全然その意気は要らないんだけどな……あはは」
僕は笑うしかなかった。だけどエメラルの対応は正しい。
改めて気を引き締め直すと、僕達は再度ボサボ草原に向かう。
今日こそスライム大量発生の謎を暴くと決め、三人で冒険者ギルドを後にした。
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