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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
1ー3:スライムと黒魔導士

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第22話 最高の魔法の鞄

師匠達から貰った、大切な鞄。

 僕達は王都に戻って来た。

 結局成果はスライムの体液が入った瓶が二十本以上。

 正直、こんなに集まるなら、もっと空瓶を用意しておけばよかった。


「とりあえず、明日も行くわよ。あのまま放置は流石に私の性格が許さないわ」

「そうだね。僕も空瓶を大量に持っていくよ」

「そうね……所でオボロ、その魔法の鞄(マジックバッグ)、かなり古いけどいい物よね」


 また明日、僕達はボサボ草原に向かう。

 今度こそ、スライム達が大量発生した原因を突き止めないといけない。

 だけど今の所、上手い作戦が無い。僕は困り顔を浮かべる中、エメラルは気になったものがあったのか、僕の腰に付けた鞄を指さした。


 冒険者は結構色んな荷物を持つことになる。

 そんなもの、普通の鞄に詰めて持ち運んでいたら、魔物に襲われてお終い。

 人間なんて簡単に死ぬから、できるだけ荷物は軽くしたい。そこで、冒険者御用達、おまけに憧れの魔導具(マジックアイテム)の一つ、それが魔法の鞄(マジックバッグ)。最低でも……十万はくだらない代物だ。


「うん。師匠達に貰ったんだ」

「師匠達? 複数人いるってこと?」

「そうだよ。僕には凄い師匠が三人もいるんだ。生きるための色んな事を教えて貰って、この魔法の鞄は、僕が冒険者になるって言った時に、贈ってくれたんだよ」


 僕が腰に付けた魔法の鞄。所謂ウエストポーチって奴だ。

 これは師匠達に貰ったもので、僕が冒険者になるって決めた時に贈られた。

 ただでさえ高いのに、普通の魔法の鞄よりも多くのものが入る。

 本当に最高品質で、古い物(ビンテージひん)ってこと以外は完璧だった。


「いい師匠達ね」

「うん。とってもカッコいい最強の師匠達だよ」


 エメラルは僕の師匠達を褒めてくれた。

 それが嬉しくて、自然と首を縦に振りまくった。

 だけどついつい調子に乗って、“最強の師匠達”って言っちゃった。

 それじゃあ、最強が何人も居るってなっちゃう。誰かを贔屓するなんて、僕にはできる訳ないよー!


「私も、この四尺刀には思い入れがあるわ」

「そうなの?」

「そうよ。なったって、お姉ちゃんと色違いの全く同じ型版(モデル)なんだから」


 エメラルは背中を見ようとする。そこには四尺刀があった。

 如何やら姉と同じものらしくて、凄く大切にしている。

 凄い思い入れがあるみたいで、表情が安らいでいる。


「色違いの同じ型版?」

「そうよ。この世界に二つしかない特注品。私のお気に入りで、毎日手入れをしているわ」


 僕も自分の武器は毎日手入れしている。

 冒険者にとって、武器は命を守るものに直結する。

 武器の手入れを怠って、死んじゃうような話もあるくらい、武器は大事だった。


「毎日? 使ってないのに?」

「使ってなくてもよ。いつでも最高の切れ味にはしておきたいでしょ?」

「ってことは、研ぎ師ってこと?」

「バカ。私は専門の研ぎ師じゃないわよ。ちょっと教えて貰っただけ。それでも、それなりの切れ味は常に維持しているんだから、期待はしておきなさいよ」


 エメラルに期待するよう言われた。

 もちろん、言われなくてもずっと期待している。

 だってエメラルは、あの〈《眩き宝石》〉の副ギルドマスターなんだから、期待しない方が無理ある。


「うん、期待してる」

「ふん、それでいいのよ。まあ、そうそう抜くことは無いけどね」


 エメラルにとって、背中に背負った四尺刀は特別な代物。

 だからこそ大切に扱っている。

 いつでも最高の切れ味を維持し、その刃が表に現れることはあるのか。

 多分ないと思うし、無い方が絶対によかった。


「あっ!」


 僕はここまで来て明日のことを考える。

 忘れてはいけない作戦会議だ。

 今の内にして置こうと、話をスッと切り替えた。


「それにしても、どうしようか?」

「そうね。あの数のスライムが大量発生するなんて、普通じゃないわ」


 ボサボ草原に実際に訪れ、大量のスライムに手を焼いた。

 だけど如何してあれだけの数のスライムが現れたのか。

 僕もエメラルもまだ分かってないけど、やるべきことは決まっていた。


「被害は出無さそうね」

「そうだね。でも、あの数はヤバいね」


 スライム自体は無害。それは今回も変わらなかった。

 だけど問題は数で、流石にもう少し減らした方がいいのは確か。

 僕とエメラルは残念だけど、高火力かつ広範囲の魔法は使えない。

 何となくそんな雰囲気が立ち込めると、エメラルはポツリと呟いた。


「クロンも連れて行った方がよさそうよね?」

「クロン?」

「私の友達で、パーティーメンバーの一人よ。最近は、クロンが魔法の研究をしていたから一緒に冒険には行けなかったけど、そろそろよさそうよね」


 クロン? 誰だろう。僕は記憶を辿った。

 確かブレットがエメラルと一緒に出した名前がクロンだった気がする。

 如何やらその子は魔法使いみたいで、エメラルの友達。おまけにパーティーメンバーという事実に僕はこれ以上ないと思った。


「いいね、それ。そのクロンって子は、高火力で広範囲の魔法が使えるの?」

「黒魔導士だからね。できる筈よ」

「攻撃メインの魔法使いだね。それなら安心だ……けど、僕も一緒でいいのかな?」


 黒魔導士は白魔導士の対になる魔法使いの系統。

 黒魔導士は主に攻撃がメインになるから、今回の依頼にはピッタリだ。

 そう思ったけど、僕はクロンと面識がない。突然僕みたいな男が一緒で連携が乱れたりしないか不安だった。


「大丈夫よ、クロンだもの」

「どういう意味?」

「そのままの意味よ。クロンは、大抵のことに興味が無いの。感情の起伏が少ない子で、私も心配になるくらいね」


 逆に心配になった。確か感情が激しくない方が、冒険者はやりやすい。

 正直、冒険者をする人は普通じゃない。

 一般人とは何か人間性がズレているから、冒険者としては問題ないと思うけど、上手く連携が取れれば嬉しかった。


「えーっと、それは別の意味で心配なんだけど」

「心配する必要は無いわ。ってことで、オボロ。私、明日はクロンを連れて来るから、少し遅くなるわよ。いいわね?」

「全然大丈夫だよ。それじゃあ何処集合にする?」


 クロンを連れてくるために、エメラルは少し遅くなるらしい。

 もしかして、朝が弱い子なのかな? 冒険者的には無しだった。

 とは言いつつも、僕は何処集合にするか一応訊ねた。すり合わせるように、冒険者ギルド集合にする。


「冒険者ギルドに集合でお願いするわ」

「分かったよ。それじゃあまた明日」

「また明日ね。はぁー、クロン、ちゃんと起きてればいいけど。一回声を掛けておこうかしら」


 僕とエメラルは分かれ道に差し掛かった。

 話を止め、ここで別れることにする。

 項垂れる背中からはエメラルの心労が伝わると、僕はなんとも声を掛け辛くて、ただ手を振って見送るしかなかった。一体どんな子なんだろう? 僕はエメラルが相棒に選ぶ程の魔法使い、クロンの存在も気になった。

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